高年齢雇用継続給付金は廃止される?概要・計算方法から改正ポイントまで正しい理解を
高年齢雇用継続給付金とは、60歳以上65歳未満の労働者が定年後に給与の減額となった際、最大で賃金の15%分を支給する制度です。企業側にも労働者側にもメリットの大きい制度である一方、すでに段階的な縮小・廃止が決まっています。
本記事では高年齢雇用継続給付金の制度概要を理解したうえで、廃止を見据えた改正の背景や企業側に求められる対応策について解説していきます。
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以下のお役立ちガイドでは、高齢者雇用に関わる各種保険の適用条件や、高齢者雇用状況報告書の記入方法についてご紹介しています。
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高年齢雇用継続給付金とは?
高年齢雇用継続給付金とは、雇用保険の給付のひとつです。
60歳以上65歳未満の雇用保健被保険者の給与が、60歳到達時点とそれ以降を比較した際に、60歳時点に比べて75%未満に低下した場合に支給される給付です。
高年齢継続給付金には以下の2種類があり、それぞれ支給対象や支給期間が異なります。
①高年齢雇用継続基本給付金:雇用保険(基本手当等)を受給していない方が対象
②高年齢再就職給付金 :雇用保険(基本手当等)の受給中に再就職した方が対象
目的・背景
制度設立の背景には、高年齢者雇用安定法の一部改正等を受け、60歳で定年を迎えた後も継続勤務が可能となった点が挙げられます。しかし60歳以降の再雇用労働者の給与は、60歳までと比べ大幅に減額となるケースがほとんどです。
そこで、企業の高齢者雇用を援助・促進するため、また高齢者自身の働く意欲を維持・喚起するために、60歳以降の賃金の上乗せとして「高年齢雇用継続給付」という制度が創設されました。
支給要件
高齢者雇用継続給付を受けるには、以下4つの要件をすべて満たす必要があります。
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なお、「被保険者であった期間」とは、雇用保険の被保険者として雇用された期間のすべてを指します。
※離職等による被保険者資格の喪失から新たな被保険者資格の取得までの間が1年以内であること、及びその間に求職者給付・就業促進手当を受給していない場合は「被保険者であった期間」に通算されます。
①高年齢継続給付金「高年齢雇用継続基本給付金」の概要
高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類があり、対象者や支給期間が異なります。
まず、雇用保険(基本手当等)を受給していない方が対象の「高年齢雇用継続基本給付金」の概要を確認しましょう。
高年齢継続基本給付金の支給対象者(受給資格)
高年齢雇用継続基本給付金は、以下の要件を満たした方が対象です。
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60歳到達時点で支給対象者でなくても、のちに支給対象となる場合もあります。以下図をご参照ください。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」
高年齢雇用継続基本給付金の支給期間
高年齢雇用継続基本給付金の支給期間は、被保険者が60歳に到達した月から65歳に達する月までです(ただし各暦月の初日から末日まで被保険者であることが必要)。
②高年齢継続給付金「高年齢再就職給付金」の概要
「高年齢再就職給付金」は、雇用保険(基本手当等)の受給中に再就職した方が対象の給付です。
高年齢再就職給付金の支給対象者(受給資格)
高年齢再就職給付金は、以下5つの要件を満たした方が対象となります。
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なお、再就職手当の支給を受けた場合は高年齢再就職給付金の支給対象になりません。
支給事例として、以下の図を参考にしてください。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」
高年齢再就職給付金の支給期間
高年齢再就職給付金の支給期間は、60歳以後に再就職した日の属する月から、1年または2年を経過する日の属する月までです(ただし65歳に達する月が限度)。
- 再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が200日以上のとき
⇒再就職日の翌日から2年を経過する日の属する月まで - 支給残日数100日以上200日未満のとき
⇒再就職日の翌日から1年を経過する日の属する月まで
被保険者が65歳に達した場合は、上記期間にかかわらず65歳に達した月までの支給となります(ただし各暦月の初日から末日まで被保険者であることが必要)。
高年齢雇用継続給付の支給額(計算方法)
高年齢雇用継続給付は、60歳以降の賃金が60歳時点に比べて75%未満に低下した状態で働き続ける場合に、各月に支払われた賃金の0~15%が支給されます。
計算方法
正確な支給額は、賃金の「低下率」によって以下2通りに分かれて計算されます。
(「低下率(%)」=支給対象月に支払われた賃金額/※賃金月額×100) |
<低下率が61%以下である場合>
支給額=各月の賃金額×15%
<低下率が61%超75%未満である場合>
支給額=ー183/280×支給対象月に支払われた賃金額+137.25/280×賃金月額
※「賃金月額」とは、60歳に到達する前6か月間の総支給額(保険料等が控除される前の額・賞与は除く)を180で除した賃金日額の30日分の額)を指します。
<計算例>
引用:厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」
早見表
実際の計算には、以下の早見表を活用すると便利です。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」
上限額と下限額
なお、支給額には上限と下限が設けられています(2022年8月1日〜2023年7月31日)。
- 上限額:364,595円
- 下限額:2,125円
賃金額と支給額の合計が上限である364,595円以上となる場合は、合わせて364,595円となるように差額のみが支給されます(賃金が364,595円以上の場合は支給なし)。
反対に、計算した結果の支給額が下限である2,125円以下となったときは、支給されません。
この金額は、「毎月勤労統計」の平均定期給与額により毎年8月1日に改定されますので、毎年確認しましょう。
みなし賃金の取り扱い
賃金が低下した理由の中には、被保険者本人や事業主に責任がある場合や、他の社会保険により保障がなされる場合など、雇用保険での給付が適切でない場合があります。例えば以下のような事例です。
- 被保険者の責めに帰すべき理由、本人の都合による欠勤(冠婚葬祭等の私事による欠勤も含みます。)
- 疾病または負傷
- 事業所の休業(休業の理由、休業の期間は問いません。)
- 同盟罷業、怠業、事業所閉鎖等の争議行為
- 妊娠、出産、育児
- 介護
引用:厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
これらの場合は、雇用保険からの給付が適切でないとされる減額分を、「みなし賃金額」として、高年齢雇用給付金の計算において低下率から除外されますので、注意しましょう。
高齢者雇用継続給付金の申請手順
高年齢雇用継続給付の申請手続きは、事業主が事業所を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に申請します。原則として2か月に一度、支給申請書を提出する必要があります。
基本的には事業主が申請をおこないますが、被保険者本人が希望する場合は、本人が申請手続きをおこなうことも認められています。
高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金で手続きの概要は少し異なりますので、以下図をご参照ください。
【①高年齢雇用継続基本給付金の申請概要】
【②高年齢再就職給付金の申請概要】
引用:ハローワークインターネットサービス「雇用継続給付 高年齢雇用継続給付について」
高年齢雇用継続給付金は廃止される?改正ポイント
高齢者の雇用を支援するために大きな役割を果たしている高年齢雇用継続給付金ですが、冒頭でも述べた通り、今後は縮小・廃止されることが決まっています。
具体的には、2025年(令和7年)4月から、給付率15%が10%に減額されます(経過措置として令和7年3月31日までに60歳になっている人は15%を維持)。
縮小・廃止へ向かう背景には、シニア層の雇用確保が浸透しつつある現状があります。2021年4月の法改正では企業に対する65歳までの雇用確保の義務化に加え、70歳までの就労確保を講じることが「努力義務」となりました。
こうした法改正やそれに伴う援助措置等の充実、働き方改革による同一労働同一賃金の義務化等により、高年齢雇用継続給付金の必要性そのものが薄れているためです。
引用:厚生労働省「高年齢雇用継続給付の見直し(雇用保険法関係)」
廃止が決まっているとはいえ、縮小や廃止そのものはまだ先の話であり、高年齢雇用継続給付金は現在も運用されています。
今後の動向を念頭に入れつつ、再雇用人材やシニア層を中心とした従業員への説明を丁寧に実施していくといいでしょう。
高年齢雇用継続給付金のQ&A
最後に、高年齢雇用継続給付金について、よくある疑問をまとめました。制度活用にお役立てください。
Q1.高年齢雇用継続給付金の課税処理は?
A1.高年齢雇用継続基本給付金・再就職給付金ともに非課税です。
Q2.高年齢雇用継続給付金の振込日はいつくらい?
A2.概ね支給決定日から1週間程度で指定した口座に振込まれます。
「高年齢雇用継続給付支給決定通知書」を確認するか、通知書が届いていない場合はハローワークへ来所のうえ、問い合わせましょう(電話不可)。
Q3.「再就職手当」との併給は可能?
A3.再就職手当と高年齢再就職給付金の併給はできません。双方の支給要件を満たす場合は、どちらか一方の給付金を選ぶ必要がありますので、慎重に選択しましょう。
Q4.「育児休業給付」「介護休業給付」との併給は可能?
A4.育児休業給付・介護休業給付の対象となる休業をした月は、高年齢雇用継続給付の支給対象月とはなりません。ただし、月の一部が育児休業給付・介護休業給付の支給対象となる場合は、支給対象となります。
Q5.「老齢厚生年金(在職老齢年金)」との併給は可能?
A5.高年齢雇用継続給付の給付額に応じ、年金の一部が支給停止される場合があります。詳細については、最寄りの年金事務所へ問い合わせましょう。
参考:厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
高年齢雇用継続給付金は縮小も含め正しい理解のもと手続きを
高年齢雇用継続給付金は縮小・廃止が決まっている制度ではあるものの、現時点では企業側にも労働者側にもメリットの大きい給付制度のひとつです。
運用中の給付制度を最大限に活用しつつ、2025年以降の縮小に向け、対象となる従業員への説明など、スムーズに対策が開始できるよう準備を進めておくといいでしょう。
以下のお役立ちガイドでは、高齢者雇用に関わる各種保険の適用条件や、高齢者雇用状況報告書の記入方法についてご紹介しています。