高齢者雇用において支給される助成金とは?種類や対象要件などを含めて解説
高齢化社会に伴い、2021年4月から、高年齢者雇用安定法が改正され施行されました。中には経験ある高齢者に活躍してもらうため、高齢者の採用を積極的におこなっている企業もあります。
本記事では、高齢者を雇用する場合に企業が活用できる助成金について解説します。
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以下のお役立ちガイドでは、高齢者雇用に関わる各種保険の適用条件や、高齢者雇用状況報告書の記入方法についてご紹介しています。
>>>資料ダウンロード(無料)はこちらから:高年齢労働者雇用のお役立ちガイド
高齢者雇用における助成金とは?
高齢者雇用助成金は、60歳以上の高年齢者の雇用を促進するための施策です。助成金には以下の2種類があります。
- 雇用関係助成金
- 労働条件等関係助成金
「雇用関係助成金」は、雇用維持や再就職支援、雇入れ関係といった雇用に関係する助成金です。
「労働条件等関係助成金」は、生産性の向上等を通じた最低賃金の引き上げ支援、労働時間などの設定改善の支援、産業保健活動の支援といった労働条件にかかわる内容となっています。
雇用に関する助成金の中には、65歳以上への定年の引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備、高年齢の労働者と有期契約し、無期雇用への転換をおこなった事業主に対しての助成金もあります。
ただし、助成金を受け取るためには必要な要件を満たさなければいけません。どのような要件なのか詳しくご紹介しましょう。
助成金の受給対象となる「高齢者」とは
高齢者とは何歳以上のことをいうのか統一的な定義はありません。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、高年齢者というのは55歳以上の人のことをいい、中高年齢者とは45歳以上の人のことを述べています。
ただし、高齢者の雇用に関する助成金については、助成金やコースによって異なりますが、60歳以上の高齢者が中心となっています。
助成金の受給対象となるための要件
高齢者雇用における「雇用関係助成金」を支給される事業主の対象は以下のとおりです。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 期間内に申請を行う事業主
- 支給のための審査に協力する事業主
雇用関係助成金は、事業主が納めた雇用保険料でまかなわれているため、実際に助成金を受給するには各助成金の個別の要件を満たさないといけないものもあります。
また、支給のための審査とは、
- 審査に必要な書類を整備・保管すること
- 都道府県労働局やハローワーク、高齢・障害・求職者雇用支援機構から書類の提出を求められたら応じること
- 都道府県労働局やハローワーク、高齢・障害・求職者雇用支援機構の実地調査に応じること
などです。
助成金の支給申請期間は、原則申請が可能となった日から2ヶ月以内と設定されています。
助成金が割増される生産性の要件
事業主が生産性の向上を図るために、従業員の能力開発・意欲の向上、働き方や働きやすさの改革、業務の効率性や成果を高める設備などを導入し取り組む際には、労働関係助成金の割増等がおこなわれます。
助成金を申請する際、事業所が以下の方法で計算した「生産性の要件」を満たしている場合に助成の割増等があるため、参考にしてください。
助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、下記のどちらかを満たしておく必要があります。
- その3年度前に比べて6%以上伸びていること
- その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
3年度前というのは、3年度前の初日に雇用保険適用事業主であることが求められています。
また2の場合であれば、金融機関から一定の「事業性評価」を得ていることが必要です。
「事業性評価」とは、都道府県労働局が助成金を申請する事業所の承諾を得た上で、事業の市場での成長性、事業特性および経営資源・強みなどを取引のある金融機関に照会し、その回答を参考にして割増支給の判断をおこなうもののことです。
「生産性」は以下の計算式によって計算します。
引用:「令和4年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)」
付加価値とは、営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税効果の式で算定され、直近の会計年度も3年度前もプラスであることが求められています。
助成金の受給対象になる中小企業の範囲
雇用関係助成金の中には、中小企業と大企業とで助成金の額が異なる場合も。
「中小企業(事業主)」に該当するかどうかは、以下の基準から判断しましょう。
引用:「令和4年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)」
60歳以上の高齢者雇用に関連する助成金の種類
60歳以上の高齢者雇用に関連する助成金の種類には、次のようなものがあります。
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
- 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
- 65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
- 65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)
- 高年齢労働者処遇改善促進助成金
それぞれの支給要件や支給額をご紹介しましょう。
特定求職者雇用開発助成金【特定就職困難者コース】
特定就職困難者コースの助成金は、60歳〜64歳までの高年齢者・障害者・母子家庭の母などの就職困難者を、ハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に支給される助成金です。しかし、令和5年度より見直される予定で、65歳以上の方も対象になる可能性があります。
支給要件
本助成金を支給するには、以下の要件のいずれも満たしておく必要があります。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者の紹介により雇い入れること
- 雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であると認められること
継続して雇用するとは、対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ当該雇用期間が継続して2年以上であることです。
支給額
- 高年齢者(60歳〜64歳)、母子家庭の母等
1人あたり60万円(中小企業以外は50万円)
短時間労働者は40万円(中小企業以外は30万円) - 身体・知的障害者(重度以外)
1人あたり120万円(中小企業以外は50万円)
短時間労働者は80万円(中小企業以外は30万円) - 身体・知的障害者(重度または45歳以上)、精神障害者
1人あたり240万円(中小企業以外は30万円)
短時間労働者は80万円(中小企業以外は30万円)
短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の人のことをいいます。
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
65歳以上の離職者をハローワーク等の紹介により、1年以上継続して雇用することが確実な労働者として雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。
支給要件
助成金を支給されるには、次のいずれの要件も満たす必要があります。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
- 雇用保険の高年齢被保険者として雇い入れ、1年以上雇用することが確実であると認められること
支給額
- 1人あたり70万円(中小企業以外は60万円)
- 短時間労働者は50万円(中小企業以外は40万円)
しかし、特定求職者雇用開発助成金の見直しがおこなわれ、令和5年度から生涯現役コースが廃止される予定です。
廃止に伴い、特定困難者就職者コースの対象年齢が65歳以上の労働者も新たに対象になる予定になっています。
65歳超雇用推進助成金【65歳超継続雇用促進コース】
65歳以上への定年の引き上げ等の取り組みを実施した事業主に対して助成するコースです。高年齢者の就労機会の確保、および希望者全員が安心して働ける雇用基盤の整備を目的としています。
支給要件
本助成金を支給するためには、以下のいずれかの要件を満たしましょう。
- 65歳以上への定年の引き上げ
- 定年の定めの廃止
- 希望者全員を対象とする66歳以上の年齢までの継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用の導入
支給額
本コースの支給額は以下のとおりです。
- 65歳への定年の引き上げ:15〜30万円
- 66歳〜69歳への定年の引き上げ:20〜105万円
- 70歳未満から70歳以上への定年の引き上げ:30〜105万円
- 定年(70歳未満に限る)の定めの廃止:40〜160万円
- 希望者全員を66歳〜69歳の年齢まで継続雇用する制度の導入:15〜60万円
- 希望者全員を70歳未満から70歳以上の年齢まで継続雇用する制度の導入:30〜100万円
上記は、措置の内容や定年等の年齢の引き上げ幅、60歳以上の雇用保険被保険者数に応じて支給されます。
また、申請の際は、上記の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内の各月月初から5開庁日(行政機関の休日は除く)までに、「65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)支給申請書」に必要な書類を添えて、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の各都道府県支部 高齢・障害者業務課に支給申請をおこないましょう。
- 他社による継続雇用制度の導入
66~69歳:10万円
70歳以上:15万円
※ 上記の支給額を上限に、他社における制度の導入に要した経費の1/2の額を助成
上記は、実施した措置の内容に応じて上限があるため、留意しましょう。
65歳超雇用推進助成金【高年齢者評価制度等雇用管理改善コース】
本コースは、高年齢者の雇用管理制度等に係る措置を実施した場合に支給される助成金です。
措置を労働協約または就業規則に定め、支給の要件を実施した事業主に助成されます。
支給要件
本助成金を受給するためには、以下の要件を満たしておきましょう。
- 雇用管理整備計画の作成と認定
高年齢者のための雇用管理制度の整備等の取り組みに関連する「雇用管理整備計画」を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出してその認定を受ける必要があります。
- 高年齢者の雇用環境整備の措置の実施
雇用環境整備の措置として、高年齢者の雇用機会を増大するための雇用管理制度の見直し、または導入および健康診断を実施するための制度の導入が求められています。
支給額
本コースの支給額は次のとおりです。
- 支給対象経費の60%(生産性要件を満たした事業主は75%)、中小企業以外は45%(生産性要件を満たした事業主は60%)
支給対象経費とは、雇用管理整備の導入または見直しの際に、専門家等に対して必要な相談をした際の経費、措置の実施にともない導入した機器やシステムにかかった経費のことです。
50万円を上限とする経費の実費を支給対象の経費とし、初回に限り50万円とみなされています。
生産性要件を満たした場合の助成については、生産性の伸び率が1%以上(6%未満)である場合は、対象外です。
65歳超雇用推進助成金【高年齢者無期雇用転換コース】
本コースは、有期雇用から無期雇用への転換を実施した場合に支給される助成金です。
支給要件
無期雇用転換コースの支給は、無期雇用転換期間内に50歳以上かつ定年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換した場合に支給されます。
支給額
本コースの支給額は次のとおりです。
- 1人あたり48万円(中小企業以外は38万円)
- 生産性の要件を満たした事業主については、1人あたり60万円(中小企業以外は48万円)
生産性要件を満たした場合の助成について、生産性の伸び率が1%以上(6%未満)である場合は対象外です。
ただし、支給申請年度における対象労働者の合計人数は、転換日を基準として適用事業者10人までと決められています。
高年齢労働者処遇改善促進助成金
高年齢労働者処遇改善促進助成金は、雇用形態に左右されず公正な待遇の確保を推進する観点から、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇改善に取り組む事業主に対して助成するため、令和3年4月1日より新設されました。
事業主は本助成金を活用し、高年齢労働者が継続して働きやすい環境を整えられるでしょう。
支給要件
本助成金を受給するためには、以下4つの要件を満たすことが求められています。
①以下の事項を算出・比較し、全体の減少率が95%以上であることが確認できる事業主であること
A |
賃金規定等改定の措置に基づき、増額された賃金が支払われた日の属する6ヶ月間に、算定対象労働者が受給した増額改定前の賃金の額で算定した高年齢雇用継続基本給付金の総額 |
B |
賃金規定等を増額改定後、各支給対象期において、当該算定対象労働者が受給した増額改定後の賃金の額で算定した高年齢雇用継続給付金の総額 |
算定対象労働者が20人に満たない事業所は、対象労働者の希望により雇用形態が変更になり、賃金規定等改定後も給付金を受給する労働者を除いて減少率を算定します。
②就業規則や労働協約で定めるところにより、賃金改定等を増額し、改定後の賃金規定等を6ヶ月以上運用している事業主であること
③増額改定前の賃金規定等を6ヶ月以上運用していた事業主であること
新たに賃金規定等を整備する場合は、賃金規定等改定の措置に基づき、増額された賃金が支払われた日の属する月前6ヶ月間の、算定対象労働者の賃金支払状況が確認できる事業主であることが必要です。
④支給申請日において、増額改定後の賃金規定等を継続して運用している事業主であること
支給額
本助成金の支給額は、増額改定した賃金規定などを適用した年度により以下の助成率で支給されます。
- 令和4年度:AからBを引いた額に、5分の4(中小企業以外は3分の2)を掛けた額
- 令和5年度または令和6年度:AからBを引いた額に、3分の2(中小企業以外は2分の1)を掛けた額
A |
賃金規定等改定の措置に基づき、増額された賃金が支払われた日の属する6ヶ月間に、算定対象労働者が受給した増額改定前の賃金の額で算定した高年齢雇用継続基本給付金の総額 |
B |
賃金規定等を増額改定後、各支給対象期において、当該算定対象労働者が受給した増額改定後の賃金の額で算定した高年齢雇用継続給付金の総額 |
助成金の申請は、支給対象期間の第1期から第4期まで、最大4回可能です。
助成金を確実に申請するために気をつけるべき点
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)や、特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)などは、ハローワークより案内してもらえますが、提出する出勤簿や雇用契約書などの整合性を見るため、法律に沿った審査が入ります。
法律に沿っていなければ、不支給になる場合もあるため注意しましょう。
65歳超雇用推進助成金は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構という機関が審査をおこないます。
確実な申請のためには労働基準法などの労働に関する法令をクリアにする必要があるため、専門家の助けを借りるのも一つの案でしょう。
高齢者雇用の助成金を活用しシニアが活躍できる職場づくりを
少子高齢化が進む中、社会全体として、高年齢者が意欲と能力のある限り、年齢にかかわりなく働ける労働環境を整えていかなければいけません。
高年齢者の中には経験が豊富で、いつまでも働き続けたいと願っている人もいます。
高齢化がさらに進むと予想されている将来を考えて、今から助成金を活用し高齢者が働きやすい職場環境を作っていきましょう。
以下のお役立ちガイドでは、高齢者雇用に関わる各種保険の適用条件や、高齢者雇用状況報告書の記入方法についてご紹介しています。