労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)とは?特徴や実施方法を解説!
企業は労働災害を防ぎ、労働者の心身の健康を守るため、適切な措置を講じなければなりません。
また新たなリスクに備え、OSHMSをアップグレードする必要があります。この記事では、人事・労務担当者に向けてOSHMSの特徴や実施方法を解説しています。
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労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)とは?
労働安全衛生マネジメントシステム(略称、OSHMS) は、労働安全衛生法令や自主的な安全衛生活動を組織的かつ体系的に運用管理するための仕組みです。
厚生労働省のOSHMS指針が改正され、以下の4つがポイントとして挙げられています。
【OSHMS 指針改正のポイント】
- 同一法人の複数の事業場を一つの単位とした運用が可能に
- 限定的だった業種を幅広い業種での導入・運用を明示した
- 化学物質リスクアセスメントの実施
- 健康の保持増進のための活動の実施
改正された点を踏まえ、社内のOSHMSシステムの構築に取り組みましょう。
以下の資料では、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の取り組み事例についてもご紹介しています。
>>>資料ダウンロード(無料)「労災を防ぐための取組み"OSHMS"を知っていますか?」
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の目的とは?
OSHMSの目的は、企業が一体となって継続的に事業場の安全衛生水準の向上に取り組むことによって、労働災害(以下、労災)を防止し、働く人すべてが健康で安全が確保できる職場の形成を目指すことです。
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の規格とは?
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)には、国際標準化機構(ISO)が策定した「ISO45001」という国際規格があります。
厚生労働省は、ISOが「ISO 45001及びISO/IEC TS 17021-10」を発行したことを踏まえ、労働安全衛生マネジメントシステムに関する日本工業規格(JIS Q 45001、JIS Q 45100、JIS Q 17021-10及びJIS Q 17021-100)を制定しました。
国際規格(「ISO45001」)とは?
OSHMSには、「ISO45001」という国際規格があります。
「ISO45001」は「計画(Plan)-実施(Do)-評価(Check)-改善(Act)」といったPDCAサイクルを回して継続的な改善をおこない、労災の予防および安全で健康的な職場にするためのOSHMSの仕組みとその運用を要求しています。
「組織の状況」や「取組みの計画策定」などISOマネジメントシステム特有の要求事項があるのが特徴です。
日本工業規格(JIS Q 45001、JIS Q 45100、JIS Q 17021-10及びJIS Q 17021-100)とは?
厚生労働省が、ISOによる「ISO 45001及びISO/IEC TS 17021-10」の発行を踏まえ、制定した日本工業規格です。
「ISO45001」と「JISQ45001」は国際的に同等であることが認められているため、「JISQ45001」で認証を取得すれば、ISO45001の認証を取得したことになります。
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の5つの特徴
OSHMSには5つの特徴があります。5つの特徴についてご説明していきます。
引用:厚生労働省「厚生労働省OSHMS指針が改正されました」
1.PDCA サイクルが組み込まれている
OSHMSのメインとなるのは、「PDCA サイクル」です。①計画を立て(Plan)、②実行し
(Do)、③その結果の評価に応じて(Check)、④改善する(Action)という4つの流れを繰り返すことによって管理業務を継続的に改善していく手法です。①〜④の頭文字を取り、「PDCA サイクル」と呼ばれています。
【Plan:計画を立てる】
PDCAのP(Plan)とは、目標を設定し、業務計画を作成する段階です。解決したい問題や利用したい機会を見つけて理解を深めます。目標における情報を収集し解決策を考え、計画を立てていきます。
【Do:実行する】
PDCAのD(Do)とは、Pの段階で立てた計画を実施する段階です。
問題を解決するための方法を検討し、実施します。実施した後は該当の方法が有効であった、また改善が必要であったかを記録しておきましょう。次に活かすために大切です。
【Check:評価する】
PDCAのC(Check)とは、計画に沿って実行出来ていたのかを評価する段階です。実施した解決策の結果を段階①のPlan(計画)の時の予想と比較して分析し、解決策が有効であった、また改善が必要であったかを評価しましょう。
【Action:改善する】
PDCAのA(Action)とは、実施結果を検討し、業務の改善をおこなう段階です。Pで計画し、Dでテストをした結果をCで評価し、最後のAで実行します。
2.手順化・明文化・記録化によるノウハウ継承
システムの適正な運用のために、関係者の役割や責任、権限及び各種手順等を文書によって明確化し、記録を保存します。
安全衛生活動を確実に実施してノウハウを継承することで、今後の安全な職場の形成に活かせるでしょう。
3.リスクの調査・調査結果に基づく措置
リスクアセスメント(危険性又は有害性の調査)、及びリスクアセスメントの結果に基づく措置の実施により、災害を起こす前の予防的管理ができます。
4.経営トップが従業員と一体となって運用する
経営トップが、安全衛生方針を表明することで、事業運営と一体となり、組織的に取り組めます。
5.労働者の意見を反映し、組織的に取り組める
労働者は実際に職場で働いているため、作業内容やリスクを把握している場合が多いです。
労働者の意見を聴いて反映することで、目標や計画に職場の課題を解決するための取組みを盛り込めます。
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の3つの仕組み・導入フロー
OSHMSは、「1.基本的な仕組み」、「2.効果的な仕組み」、「3.仕組みの見直し」の3ステップでおこなわれ、14のポイントがあります。
OSHMSを導入するといっても難しく考える必要はありません。労災防止のために、事業場で現在取り組んでいる事柄に少し加えるだけで十分な効果が見込めます。積極的に取り入れましょう。
OSHMSの3つのステップと14のポイントについて説明します。
1.基本的な仕組み
OSHMSの基本的な仕組みのポイントについて説明します。
OSHMSを効果的に運用するための基盤は、事業者がOSHMSの目的である事業場の安全衛生水準の向上を図るための基本的な方針(=安全衛生方針)を表明し、労働者に周知することです。
引用:厚生労働省 「3ステップでやさしく導入労働安全衛生マネジメントシステム~ 中小規模事業場向け労働安全衛生マネジメントシステム導入マニュアル ~」
【ポイント1 「安全衛生方針の表明」 (指針第5条)】
安全衛生方針は、事業場における安全衛生水準の向上を図るための安全衛生に関する基本的な考え方を示すものです。
トップが事業場の安全衛生方針を明確に表明すると、従業員の安全衛生の意識を高められます。
【ポイント2 「リスクアセスメント及び実施事項の決定」(指針第10条)】
事業場の実態に応じた労災防止対策を実施するためには、法令を遵守するとともにリスクアセスメントを実施し、リスク低減の措置を決める必要があります。
OSHMSを適切におこなえるよう、法令遵守のための措置とリスクアセスメントを実施する手順及びリスク低減措置を決定する手順を定めましょう。
【ポイント3 「安全衛生目標の設定」 (指針第11条) 】
安全衛生目標の設定をしましょう。ポイント2のリスクアセスメントの結果や以前設定した安全衛生目標がある場合、達成状況等を踏まえ、実施可能で少し高めな目標にしましょう。数値などで示せると後から評価しやすいです。
ポイント1で決定した「安全衛生方針」に基づき、「安全衛生目標」 を設定し、一定期間で達成すべき到達点を明確に示しましょう。
決めた目標 を労働者及び関係請負人その他の関係者に周知し、組織的に取り組めるようにします。
【ポイント4 「安全衛生計画の作成」 (指針第12条)】
事業場におけるリスクアセスメントの結果等に基づき、一定の期間毎(1年の場合が多い)に安全衛生計画を作成しましょう。
安全衛生計画は、安全衛生目標を達成するための具体的な実施事項や日程等について定め、下記の事項を含むようにします。
① リスクアセスメントの結果等に基づき決定された措置の内容及び実施時期に関する事項
② 日常的な安全衛生活動の実施に関する事項
③ 安全衛生教育の内容及び実施時期に関する事項
④ 関係請負人に対する措置の内容及び実施時期に関する事項
⑤ 安全衛生計画の期間に関する事項
⑥ 安全衛生計画の見直しに関する事項
引用:厚生労働省 「3ステップでやさしく導入労働安全衛生マネジメントシステム~ 中小規模事業場向け労働安全衛生マネジメントシステム導入マニュアル ~」
【ポイント5 「安全衛生計画の実施等」 (指針第13条)】
ポイント4にて作成した安全衛生計画について適切かつ継続的に実施する手順を定め、手順に基づき、実施します。
【ポイント6 「日常的な点検、改善等」 (指針第16条) 】
日常的な点検・改善を実施します。作成した安全衛生計画の実施状況等を日常的に点検(評価)及び改善する手順を定めましょう。
手順に基づき実施状況等の点検(評価)及び改善をおこないます。得られた結果は、次回の安全衛生計画の作成に活かしましょう。
2.効果的な仕組み
基本的な仕組みに加え、OSHMSが連続的でかつ継続的に実施されるように、併せておこなうと効果的な仕組みについて説明します。
引用:厚生労働省「3ステップでやさしく導入労働安全衛生マネジメントシステム ~ 中小規模事業場向け労働安全衛生マネジメントシステム導入マニュアル ~」
【ポイント7「体制の整備」 (指針第7条)】
OSHMSを運用していく上での責任者を明確にするなどの体制の整備は、円滑な運営のために必要不可欠です。
【ポイント8 「労働者の意見の反映」 (指針第6条)】
労災の防止には、現場で働く従業員が主体的に関わることが重要です。安全衛生委員会で従業員の意見を反映する等の対応をとりましょう。
【ポイント9 「明文化」 (指針第8条) 】
必要な事項や手順を文書で明確にし、システムが継続的におこなえるようにしましょう。記録しておく項目は下記の通りです。
① 安全衛生方針
② システム各級管理者の役割、責任及び権限
③ 安全衛生目標
④ 安全衛生計画
⑤ 次の手順
・労働者の意見の反映 ・安全衛生計画の実施
・文書管理 ・計画の日常の点検・改善
・リスクアセスメント ・災害調査、システム監査
・リスク低減措置
引用:厚生労働省 「3ステップでやさしく導入労働安全衛生マネジメントシステム~ 中小規模事業場向け労働安全衛生マネジメントシステム導入マニュアル ~」
【ポイント10「記録」 (指針第9条)】
OSHMSにて実施した事柄は、今後効果的な運営を継続するために状況を記録し保管しましょう。
記録すべき項目は、安全衛生計画の実施状況やシステム監査の結果等です。
【ポイント11 「緊急事態への対応」 (指針第14条)】
緊急事態(自然災害や危険物質の漏洩などの労働者の命の危険に関わる事象)が発生した際には、冷静に適切な対応をし、労災の発生を防げるように準備しておきましょう。
事前に、「緊急事態」が生じる可能性を想定し、緊急事態が発生した場合に労災防止のための措置を定めておきます。万が一、緊急事態が発生した際には、定めた措置に従い対応できるようにします。
【ポイント 12「労働災害発生原因の調査等」 (指針第16条)】
万が一、事業場で労災が発生した際には、二度と再発することのないように災害調査を実施し、適切な再発防止対策を講じます。
あらかじめ労災や事故が発生した場合の原因調査、問題点の把握と改善を実施する手順を決めておきましょう。
3.仕組みの見直し
「1.基本的な仕組み」と「2.効果的な仕組み」でOSHMSを運用した際に、十分な労災防止の効果が出ているかどうかをシステム監査等で検証し、その結果によって必要によりシステム全体の改善を図ります。
引用:厚生労働省 「3ステップでやさしく導入労働安全衛生マネジメントシステム~ 中小規模事業場向け労働安全衛生マネジメントシステム導入マニュアル ~」
【ポイント 13 「システム監査」 (指針第 17 条) 】
ポイント1〜12 の項目について、適切に実施され期待する効果が出ているかについてシステム監査をします。 システム監査の実施手順を作成し、計画に基づき定期的におこないましょう。
システム監査の結果、改善が必要だと判断した場合には、OSHMSに従っておこなう措置の改善を講じます。
【ポイント 14 「労働安全衛生マネジメントシステムの見直し」 (指針第 18 条)】
システム監査や日常の点検等の結果を元に、OSHMSの効力や有効性を確保するため、安全衛生方針をはじめとして、定期的にOSHMSの全般的な見直しをおこなっていきいましょう。
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)で得られる効果
OSHMSの導入により、導入前よりも「労災の減少」と「安全衛生水準が向上した」という2つの効果が出ています。それぞれについて説明します。
【OSHMS導入により労働災害が減少】
OSHMSの導入により、労災が減少したという結果が出ています。OSHMSを導入している企業は、導入していない企業よりも労災の発生率が少なくなりました。
下図は JISHA 方式適格 OSHMS 認証(16 ページ参照)を取得した事業場(延べ 1,140 事
業場)の年千人率(休業 1 日以上)※の推移を示したものです。認証を更新するたびに労働災害が減少する傾向が見られており、認証後 13 〜 15 年 OSHMS を運用している事業場の千人率(休業 1 日以上)は、全産業の千人率(休業 4 日以上)の 5 分の 1 となっています。
引用:厚生労働省「OSHMS指針が改正されました」
【導入後は安全衛生水準が向上】
OSHMS を導入した企業は、安全衛生水準が9割以上向上したという結果が出ています。
平成29年に中央労働災害防止協会および製造業安全対策官民協議会がおこなったアンケートによると、OSHMS を導入した後に、安全衛生水準が向上したかとの質問に対し、「明らかに向上した」、「向上した」の割合が 93%という結果が報告されています。
引用:厚生労働省「OSHMS指針が改正されました」
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)は従業員と企業の安全を守るために重要
以上、OSHMSについて説明しました。OSHMSは、経営層を含む全従業員が組織的に従業員の安全と健康を守り、安心して働ける職場環境を作っていく大切な取り組みです。
OSHMSをおろそかにすると、労災の発生につながる危険性があり、企業のイメージが下がってしまう可能性もあります。
OSHMSに取り組むことで労災の防止や職場の安全衛生水準の向上に貢献し、企業の発展が期待できます。難しく考える必要はありませんので、現在取り組んでいる安全対策にプラスしてOSHMSを取り入れてみましょう。
以下の資料では、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の取り組み事例についてもご紹介しています。