雇入れ時の「安全衛生教育」は義務!内容や実施方法をまとめて解説
企業は従業員の雇入れ時には様々な対応が必要です。その中でも「安全衛生教育」は法で義務化された重要な教育です。
しかしノウハウが十分とは言えない面があり、未実施の企業が多いのが現状です。法の決まりや実施方法などを理解し、適切な教育をおこないましょう。
目次[非表示]
雇入れ時の「安全衛生教育」とは?
「安全衛生教育」とは、労働者の安全を守るために事前に危険防止などについて教育をおこなうことです。
以下3つの種類があり、実施が義務付けられています。
|
今回は「1.雇入れ時の教育」について詳しく解説します。
安全衛生教育については、以下の記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
また、従業員の雇入れ時には、健康診断の実施も義務付けられています。詳しくは、以下の記事で解説しています。
雇入れ時安全衛生教育の目的と必要性
安全衛生教育の目的は、安全衛生についての事前教育により労働災害を防ぐことです。
経験年数の少ない未熟練労働者は作業に慣れておらず、また危険に対する感受性も低いため、労働災害の発生率が高い状況にあります。
そのため、雇用してすぐの業務にとりかかる前の段階で、職場の危険を理解し自ら回避できるように教育することが、労働災害防止のために非常に重要な役割を果たします。
もし労災が起きてしまった際の対応については、以下のお役立ち資料で詳しく解説しています。
>>>資料ダウンロードはこちらから(無料):労災対応マニュアル
労災の認定基準や補償内容については、以下の記事で解説しています。
雇入れ時安全衛生教育の8つの項目
雇入れ時の安全衛生教育は、以下の8項目です。(労働安全衛生規則第35条より)
- 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 作業手順に関すること。
- 作業開始時の点検に関すること。
- 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること。
- 整理、整頓及び清潔の保持に関すること。
- 事故時等における応急措置及び退避に関すること。
- 前各号に掲げるものの他、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項。
ただし、労働安全衛生法施行令第2条第3号に掲げる業種(その他の業種)の事業場の労働者については、第1号から第4号までの事項についての教育を省略することができます。
雇入れ時安全衛生教育の対象者
雇入れ時におこなう安全衛生教育の対象者は、常時・臨時・日雇いなどの雇用形態を問わず全ての労働者です。
パートやアルバイト、外国人などに対して安全衛生境域を実施していない事業場が多いので、漏れのないよう気を付けましょう。
雇入れ時安全衛生教育の実施方法
雇い入れ時の安全衛生教育は、必ず自社で実施する必要はなく、外部委託することも可能です。
もちろん事業場の業務内容と危険を理解している熟練の従業員が教育するのが理想ですが、カリキュラムや資料を一から作成するのはとても大変な作業です。
自社での実施が難しい場合は、各業種の協会や組合、民間企業などへの委託も検討しましょう。
雇入れ時安全衛生教育の流れ
自社で安全衛生教育を実施する場合、労働安全衛生規則第35条により定められた8つの項目をどのように伝えれば良いのでしょうか。
厚生労働省の委託により作成された安全衛生教育マニュアルに掲載されている「教育の流れ」をご紹介します。
1.職場にはさまざまな危険があることを説明する
あらたに仕事についた人は、職場にどのような危険が潜んでいるのか知らない場合が多いです。まずは危険意識が薄い従業員に、労働災害の具体的な事例を紹介し、職場にはさまざまな危険があることを理解してもらいましょう。
厚⽣労働省「職場のあんぜんサイト」では、業種や災害の種類別に様々な労災事例が検索できます。写真やイラストも交えて掲載されており、より効果的な理解が得られますので上手に活用しましょう。
2.「かもしれない」で危険の意識を持ってもらう
実際に起きた事例の紹介だけでなく、「かもしれない」という「可能性」を伝え、常に労働者に危険への意識を常に持つたせるよう促しましょう。
以下の図の事例を参考に、「〇〇作業場にある△△機械にはさまれるかもしれない」「〇〇倉庫に積んである△△が崩れるかもしれない」など、実際の現場の名前を出して具体的に伝えることが効果的です。
引用:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「製造業向け 未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル 」
3.災害防止の基本①ルールと活動の理解
危険への知識と意識を理解してもらった上で、次に伝えるのは職場における災害防止策です。
職場にはさまざまなルールや活動があり、それらの遵守が災害の防止に繋がることを教えましょう。
例えば「服装のルール」は、衛生面のためだけでなく、転倒防止や機械への巻き込み防止などの目的もあります。「作業手順」は効率化のためだけでなく、安全の確保のために決められている場合もあります。
各職場に設けられている決まりごとは、従業員がその意味と目的を理解した上でおこなうことで、役割を果たします。
4.災害防止の基本②職場での安全管理
次に伝えることは、具体的な予防のポイントです。
「転倒」「腰痛」「はさまれ・巻き込まれ」「熱中症」など、自社で起こりやすい災害の予防ポイントをまとめ、安全管理を自主的におこなうよう指導しましょう。
例えば「転倒」防止のために、通路には物を置かない、照明は明るくする、すべりにくい靴を選ぶなどの対策があります。加えて、急がず丁寧に作業するなどの心得も伝えることが予防に繋がります。
5.災害防止の基本③異常事態や災害時の対応
災害の防止策だけでなく、実際に災害が起きたときの対応も労働者は知っておく必要があります。
機械のエラーなど異常事態が発生した際の対応、負傷者が発生した際の連絡先、火災や爆発時の避難経路の確認などが挙げられます。
災害はいくら注意を払っていても、ゼロにすることは不可能です。いざというときに従業員が冷静に対応できるよう、具体的な例をあげて学んでもらいましょう。
安全衛生教育の資料・テキスト・情報の入手
安全衛生教育を実施するにあたり、一からカリキュラムや資料を作成するのは大変です。以下サイトに資料やテキスト、動画が準備されていますので、上手に活用しましょう。
① 厚生労働省:職場の安全サイト
また上記サイトでは、労働災害の発生状況や具体的な事例の紹介もしています。労働者への理解を深めるために、実際に起きた事例を伝えることは非常に効果的ですので、参考にしてみてください。
「事務職」の雇入れ時安全衛生教育
危険度の少ないように感じる「事務職」ですが、もちろん災害はゼロではなく、雇入れ時の安全衛生教育は必要です。
事例が少なく内容に困る担当者も多いかもしれませんが、実際には伝えるべきことは多岐に渡ります。以下のような内容を指導しましょう。
- デスクワークに伴う腰痛や眼精疲労の対策
- ストレスマネジメントの方法
- ハラスメント対策
- 労災の規定や職場の労働安全衛生体制の紹介
- 天災時の対応 など
「派遣社員」の雇入れ時安全衛生教育
派遣社員の場合、雇入れ時安全衛生教育は派遣元に実施義務があり、派遣先が実施する必要はありません。しかし、従業員の安全のために、派遣元が教育を実施しているかの確認は怠らないようにしましょう。
また特別教育が必要な場合(法令で定められた危険・有害な業務に派遣労働者を従事させるとき)は、派遣先に実施義務がありますので、確認を忘れないでください。
「外国人労働者」の雇入れ時安全衛生教育
近年、外国人労働者の増加に伴い、外国人の労災も増加しています。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「外国人労働者に対する安全衛生教育には、適切な配慮をお願いします。」
外国人労働者の労災防止には厚生労働省も注力しており、以下のような外国人雇用管理指針を発表しています。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「外国人労働者に対する安全衛生教育には、適切な配慮をお願いします。」
外国人労働者には特に配慮した教育が必要ですが、言葉の壁もあり難しいのが現状です。
厚生労働省より様々な言語の資料が公表されていますので、上手に活用し、時間をかけて丁寧に安全衛生教育を実施しましょう。
また、外国人在留支援センターの利用もご検討ください。
外国人労働者の安全衛生管理に関する相談を労働者・雇用者ともに受け付けており、フリーダイヤルもありますので全国からのアクセスが可能です。
雇入れ時の「安全衛生教育」はテキスト・資料や外部委託も活用して必ず実施を
経験年数の少ない労働者は労働災害の発生率が高く、雇入れ時の安全衛生教育は非常に重要な役割を果たします。
とはいえ自社でカリキュラムや資料の作成から全てを実施するのはとても大変です。厚生労働省が積極的にテキストや資料などを発信していますので、上手に活用しましょう。外部に委託することもおすすめです。
また安全衛生教育は雇入れ時だけでなく、作業内容を変更する際や、危険・有害な業務に従事させる際、指導・監督する立場に就任させる際などにも必要です。
安全衛生教育の管理体制をに整え、大切な従業員の安全を守り、信頼度の高い企業を目指しましょう。
もし労災が起きてしまった際の対応については、以下のお役立ち資料で詳しく解説しています。