労災の認定基準|うつ病・腰痛・コロナはどうなる?認定されなかった場合は?
労災の認定は労働基準監督署が判定し、労災の被害にあった従業員への配慮はとても重要です。納得できるような説明と丁寧な対応が企業に求められます。
この記事では労災の基本的な認定基準と、認定されなかった場合の企業対応を解説します。
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労災の種類(業務災害と通勤災害)
労災(労働災害)とは、労働者の業務上の事由または通勤による傷病などを指し、労災保険の対象となる災害のことです。
「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分けられます。
「業務災害」
業務災害とは、労働者が事業場に雇われており、事業主の支配下にあるときに、業務が原因となって発生した災害(負傷、疾病、障害又は死亡)をいいます。
「業務遂行性」と「業務起因性」が認められるものを指します。
- 業務遂行性:労働者が労働関係のもとにあった状態で起きた災害である
- 業務起因性:業務が原因で起こった災害である
「業務遂行性」の労働関係がある状態とは、仕事をしていないが事業場内にいたとき(休憩時間など)や、事業場にいないが仕事をしていたとき(出張・社用での外出・配達・営業など)が対象です。
「業務起因性」の業務と災害との因果関係は、仕事中の災害だけでなく、社内施設の不備などによる災害も対象となります。
もし複数事業場で雇用されている労働者の災害(複数業務要因災害)の場合、業務遂行性・業務起因性の判断が難しいです。
脳・心臓疾患や精神障害など複数事業場の負荷を総合的に判断して労災と認められる場合もありますが、最終判断は労働基準監督署がおこないます。
「通勤災害」
通勤災害とは、労働者が通勤によりこうむった被った災害(負傷、疾病、障害又は死亡)をいいます。
「通勤」とは、就業に関して以下3つの移動を合理的な経路及び方法により往復することです。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
引用:厚労省「通勤災害について」
もちろん往復の経路を逸脱又は中断した場合には通勤と認められません。
ただし日常生活上必要であり、やむを得ず最小限に逸脱又は中断する場合は、その前後の往復は通勤の対象と認められます。以下の労働省令で定められている基準をもとに判断しましょう。
<逸脱・中断の例外となる行為>
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
引用:厚労省「通勤災害について」
もし労災が起きてしまった際に、人事労務担当者がどのような対応を取ればいいのかがわかるマニュアルを無料で配布しています。不測の事態に備えて、ぜひ資料をダウンロードしてみてください。
労災の詳細については、以下の記事でも詳しく解説しています。
労災の認定基準
労災によって労働者が受ける被害は、「負傷(ケガ)」と「疾病」に分けられます。それぞれの認定を誰がどのようにおこなうのか、認定の基準を確認しましょう。
労災の認定は誰がするか
労災の認定は労働基準監督署がおこないます。企業は申請をするだけで、認定の判断はできません。
とはいえ、労働者から労災の申請があったとしても、明らかに認定外の事例の場合は申請しなくても大丈夫です。
労働者に労災認定の説明をするためにも、企業としておおまかな基準は把握しておきましょう。
負傷(ケガ)が労災と認定される基準
「負傷(ケガ)」の認定は、以下の3つの状態に分けて考えられます。それぞれの状態で「業務遂行性」と「業務起因性」が認められた場合、労災と認定されます。
- 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
- 事業主の支配・管理下にであるが業務に従事していない場合
- 事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
引用:厚労省「労災保険給付の概要」
ただし、以下の場合はいずれも労災とは認められません。
- 故意に災害を発生させた
- 天災が原因であった
- 私的な行為の結果であった
①事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
労働時間内に職場で仕事をしている状態で起きた災害です。この場合は特段の事情がない限り認定基準(「業務遂行性」と「業務起因性」)を満たすため、労災と認められます。
②事業主の支配・管理下であるが業務に従事していない場合
昼休みや就業時間前後に職場にいたが、仕事をしていなかったときに起きた災害です。職場にいても私的な行為の結果の負傷は労災認定されませんが、その原因が事業場の施設や設備の不備などで発生している場合は労災に該当します。
③事業主の支配にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張や社用での外出時、職場外にいて、仕事をしている最中に見舞われた災害です。事業場内にはいませんが、仕事をしている状態であれば事業主の支配下にあるとされ、一般的には労災と認められます。
疾病が労災と認定される基準
労働者が事業主の支配下にある状態で、有害因子にさらされたことによって発症した「疾病」は、「業務遂行性」「業務起因性」があるとされ、労災と認められます。次の3つの要件を満たす場合が該当します。
- 労働の場に有害因子が存在していること
- 健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと
- 発祥の経過および病態が医学的にみて妥当であること
引用:厚労省「労災保険給付の概要」
「有害因子」とは物理的因子、化学物質、病原体などだけでなく、身体に過度の負担のかかる作業(長時間重労働など)なども含まれます。
また、有害因子の量やさらされる期間によって発症時期は異なりますので、時間が経過していても労災認定の対象になり得ます。
最終的には、業務と健康障害の間に医学的な因果関係が認められるかどうかが判断基準です。
因果関係の判断が難しい場合もあるため、労災保険の補償対象となる疾病をまとめた「職業病リスト」が厚労省により作成されています(労働基準法施⾏規則 別表第1の2)。
労災対象の可能性がある疾病が起きた場合には、まずは職業病リストを確認しましょう。
新しい医学的知⾒や疾病の発⽣状況などを踏まえ定期的に⾒直しがおこなわれていますので、都度最新のものを参考にしてください。
労災の申請方法については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
「脳疾患・心臓疾患・精神障害・腰痛・新型コロナ」個別の労災認定基準
労災被害の中でも特に事例が多い疾病について、より詳しい認定基準を確認しましょう。
「脳・心臓疾患」労災の認定基準
脳梗塞などの「脳血管疾患」、心筋梗塞などの「心臓疾患」は、日常生活による諸要因(加齢、生活習慣、生活環境など)や遺伝などが原因で起こることも多く、仕事との因果関係の判断が難しい疾病です。
「脳・心臓疾患」の労災認定基準は以下の要件が定められています。
<脳・心臓疾患の労災認定要件>
以下のいずれかの「業務による明らかな過重負荷」を受けたことにより発症した脳・心臓疾患であること。
- 長期間の過重業務(評価期間:発症前おおむね6ヶ月間)
- 短期間の過重業務(評価期間:発症前おおむね1週間)
- 異常な出来事(評価期間:発症直前から前日)
「過重負荷」とは、医学的経験則に照らして、もともと本人がもっていた脳・心臓の基礎的病態を、自然経過を超えて著しく悪化させると客観的に認められるものを指します。
まず「労働時間」を評価し、「労働時間以外の負荷要因」も総合的に考慮して判断されます(以下フローチャート参照)。
引用:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」
「労働時間以外の負荷要因」は、以下のような事例です。
- 勤務時間の不規則性(長時間拘束、連続勤務、不規則勤務、深夜勤務など)
- 事業場外における移動を伴う業務(過剰な出張、移動を伴う業務など)
- 心理的負荷を伴う業務(生命や財産を脅かす危険性、孤立した状態での業務、パワハラ、急な配置転換など)
- 身体的負荷を伴う業務(重量物の運搬作業、人力での掘削作業など)
- 作業環境(温度環境、騒音など)
「精神障害」労災の認定基準
「精神障害」も「脳・心臓疾患」と同じく、日常の要因が原因で発症することも多く、業務との因果関係の判断が難しい疾病です。
認定基準は、以下3要件とされています。
<精神障害の労災認定要件>
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業身以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
引用:厚生労働省「精神障害の労災認定」
以下の図は「認定の対象となる精神障害」の分類です。外傷、アルコール、薬物などによる障害は除きます。
引用:厚生労働省「精神障害の労災認定」
精神障害の認定は以下フローチャートの順に判断されます。
引用:厚生労働省「精神障害の労災認定」
自殺した場合
労働者が自殺を図った場合は、精神障害によって正常な判断能力や抑制力などが著しく妨げられた結果によるものとされ、原則としてその死亡は労災認定されます。
持病の悪化の場合
業務以外による精神障害を持っていた労働者の症状が悪化した場合は、直ちにその悪化が業務によるものとは判断されません。
業務に関わる範囲で精神的に負担のかかる出来事が起こり、その後おおむね6ヶ月以内に精神障害が著しく悪化したと医学的に認められる場合のみ、悪化した部分について労災として認められます。
「腰痛」労災の認定基準
腰痛は多くの人が悩む疾病のひとつです。業務上の原因があるかどうかの認定基準として、2区分に分けて以下のように定められています。
<腰痛の労災認定要件>
以下2区分において、医師により療養の必要があると診断されたものであること。
- 災害性の原因による腰痛
負傷などによる腰痛で、次の2つの要件どちらも満たすもの
・腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
・腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること- 災害性の原因によらない腰痛
突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの引用:厚労省「腰痛の労災認定」
「災害性の原因による腰痛」とは、例えば持った重量物が予想に反して重かった(反対に軽かった)などにより片寄った力が働いた場合や、2人で重量物を運んでいる最中に1人がつまづき1人に急激な強い力がかかった場合の腰痛です。
「災害性の原因によらない腰痛」とは、腰にとって不自然な姿勢を保った作業による筋肉の疲労や、過度な重量物を取り扱う業務を長期間(10年以上)継続して従事したことによる骨の変化を原因とした腰痛などがあげられます。
持病の悪化の場合
椎間板ヘルニアなどの既往症などが再発・重症化した場合には、その前の状態に回復させるための治療に限り労災認定の対象となります。
「新型コロナ感染」労災の認定基準
新型コロナに感染した場合も、以下の要件を満たせば労災認定されます(2023年1月時点)。
<新型コロナ感染の労災認定要件>
- 感染経路が業務によることが明らかである場合
- 感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した可能性が高い場合
「感染リスクが高い業務」とは、複数の感染者が確認された労働環境下で働いていた場合や、顧客などとの接触の多い業務(小売業者、バス・タクシー運転手、育児サービス従事者など)に従事していた場合を指します。
医師・看護士や介護の業務に従事している人は、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則対象とされています。
自宅療養をした場合
コロナ感染後に医師の診察を受けず自宅療養すると、疾病の認定基準「医学的に妥当であること」の基準を満たすことができません。
この場合は、PCR検査や抗原検査の結果を確認できる書類を提出すれば医学的判断とされ、労災と認められることになっています。
確認できる書類が得られない場合は、個別に労働基準監督署に相談しましょう。
ワクチン接種による健康障害の場合
ワクチン接種は基本的には自由意思に基づくものであり、業務として認められません。ワクチン接種による体調不良などは労災の対象外です。
ただし医療従事者・高齢者施設などの従事者に関しては、ワクチン接種は事業主の事業目的達成に役立つものとされ、ワクチン接種後の健康障害も労災として認められています。
第三者からの被害による労災の認定基準
道路を通行中に建設現場からの落下物に当たる、また交通事故に遭うなど、第三者の行為などによって生じた災害は、基本的には第三者へ損害賠償を請求し補償を受けます。
しかし、第三者からの被害が業務中や通勤中の場合、基準を満たしていれば労災の認定対象になり、労災保険から補償を受けることができます。
第三者からの被害であれば労災保険は求償(被害者に代わって賠償請求をすること)するため、「第三者行為災害届」などの書類提出が必要です。
もしすでに第三者から損害賠償を受けていた場合は、差額分が労災保険の対象となります。
損害賠償を受けると完結してしまうかもしれませんが、該当する際は必ず労災の申請もおこないましょう。
労働基準監督署に労災認定されなかった場合
労災には先述してきたような認定基準があり、基準に満たず認定されない事例もあります。
では認定されなかった場合、従業員のために企業はどのような対応をすればよいのでしょうか。以下2通りの選択ができます。
不服申し立てをする
労災が認められなかった場合、労災保険審査請求制度に沿って「審査請求」という不服申し立てができます(労働者災害補償保険法38条1項)。もし審査請求でも認定されなければ「再審査請求」ができ、それでも不服が残る場合は「行政訴訟」を起こすことも可能です。
しかし、報告漏れなど特別な理由がない限り、不服申し立てによって認定結果が覆るのは珍しいです。まずは担当の弁護士に、審査請求をするべきかどうか申請内容をもとに相談しましょう。
健康保険で対応する
労災が認められなかったということは「業務外」の事由と判断された証明であり、健康保険の対応が可能です。健康保険対応の場合は、労働者の医療費は3割負担であり、休業期間中には傷病手当が受け取れます。
労災保健対応であれば従業員の自己負担はゼロなのに対し、健康保険対応の場合は一部自己負担が発生しますが、迅速に確実な補償を受けることが可能です。
弁護士の意見をもとに、従業員と相談して対応をおこないましょう。
労災認定で受けられる労災保険の補償
労働基準監督署で労災が認められると、被害を受けた労働者は労災保険の補償を受けられます。アルバイトやパートなど雇用形態にかかわらず全ての労働者が対象です。
治療費(療養(補償)等給付)や休んだ期間の収入分(休業(補償)等給付)の給付が有名ですが、それ以外にも補償体制が整っています。労災発生時に労働者が受けられる補償の概要を把握しておきましょう。
<労災保険給付の種類>
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1.療養(補償)等給付
治療費や薬剤費の実費の支給です。
労災病院や労災保険指定医療機関などで療養を受ければ、費用は直接医療機関に支払われます。それ以外の医療機関の場合は、一時的に労働者が支払い、立て替えた金額が労働者に支払われます。
通院に要した費用(交通費)については、居住地又は勤務地から片道2kmを超え、条件を満たした労災指定医療機関の場合のみ、実費相当額が支給される仕組みです。
2.休業(補償)等給付
療養のため働くことができない期間の受けられない賃金を補償する給付です。
休業日数が4日以上になったとき、4日目から支給を受けられます。休業日が連続している必要はなく、週に1度の通院日なども要件を満たしていれば対象です。
金額は「休業1日につき給付基礎日額の60%相当額」とされていますが、休業特別給付金という項目で20%の上乗せがあり、実際には80%相当額が支給されます。
※「給付基礎日額」とは、事故が発生した日の直前3か月間に支払われた金額(賞与や臨時給付は含まない)の総額を、その期間の歴日数で割った一日当たりの額です。
3.障害(補償)等給付
傷病が治癒(症状が固定した状態)した後に、障害等級に該当する障害が残ったときに受け取れる給付です。
金額は等級と給付基礎日額に応じて決められており、障害等級第1~7級の場合は年金形式で、第8~14級の場合は一時金で支給されます。
4.遺族(補償)等給付
労働者が労災により死亡したとき、遺族(亡くなった方の収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹)の生活補償として支払われる給付です。
遺族の人数と給付基礎日額により、一時金・年金などの形で支払われます。
5.葬祭料等(葬祭給付)
労働者が労災により死亡したときには、葬儀の費用も補償されています。
支給額は、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、基礎給付日額の60日分)です。
6.傷病(補償)等年金
療養開始後1年6ヶ月を経過しても傷病が治癒(症状が固定すること)しておらず、傷病等級に該当した場合に、年金・一時金として受け取れる補償です。
金額は給付基礎日額をもとに、等級に応じて支給日数が決められています。
7.介護(補償)等給付
障害(補償)等給付金・傷病(補償)等給付金を受給している人のうち、一定条件を満たした介護状態の場合、その介護費用が支給されます。
給付額は介護の状態や費用負担者によって金額が異なり、最大171,650円が上限となっています。
8.二次健康診断等給付
事業主がおこなった定期健康診断で異常の所見が認められた場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断の費用と、予防を図るための特定保健指導の費用が補償されます。
定期健康診断で、血圧・血中脂質・血糖・腹囲(またはBMI)の全てに異常の結果を受けた人が対象です。
各給付の詳細な条件や給付額、手続き方法は、厚生労働省のサイトをご参照ください。
⇒厚生労働省「労災補償関係リーフレット等一覧」
労災は認定の基準を確認し早急な手続きを
労災保険はアルバイトやパートなど雇用形態にかかわらず全ての労働者が対象です。労災の認定基準を満たすような疑いのある災害が発生した場合は、企業は早急に手続きをおこないましょう。
最終的な認定は労働基準監督署の判断によりますが、従業員が納得できるような対応と丁寧な説明が企業に求められます。必要な場合は弁護士への相談も検討し、適切な対応で大切な従業員を守りましょう。
以下の資料では、労災認定基準について図や表でわかりやすく解説しています。ぜひ業務にお役立てください。
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労働問題を解決する情報については、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。