通勤中の労災はどこからが認められる?基準や注意点を含めて解説!
通勤中、事故に遭う可能性はだれにでもあります。公共交通機関や自動車などどのような通勤方法であっても、けがをしたり交通事故に巻き込まれたりするかもしれません。
通勤中に事故に遭った場合、通勤災害として労災保険を受け取れるケースがありますが、労災として認められるには定められている条件があります。
本記事では労災認定されるための基準とは何か、また知っておくべきポイントについて詳しく解説します。
目次[非表示]
通勤災害と業務災害との違い
労働災害に該当する災害には「通勤災害」と「業務災害」の2種類に分けられます。
「通勤災害」とは通勤中の災害を指し、会社への出社や退社する際に事故やけがをしてしまうことです。
通勤経路上で遭遇した災害を対象としており、車だけでなくバスや電車などの公共交通機関を利用して事故にあった場合やけがをした場合にも労災の対象になります。
「業務災害」とは、業務に関連する場で事故やけがをしたり、病気になったりする災害のことをいいます。
業務災害として認められるには、業務とけがなどの間に一定の因果関係があるかどうかの「業務起因性」と、事業主の支配・管理下にあるかどうかの「業務遂行性」両方の条件を満たさなければいけません。
通勤災害と業務災害とでは労災保険からの給付の名称が少し異なりますが、補償内容についての違いはほとんどありません。
しかし、以下の3点で通勤災害のほうが補償範囲が狭いといえます。
- 通勤災害であれば休業直後3日間の休業補償がない
- 通勤災害で休業中、労働基準法の解雇制限の規定が適用されない
- 通勤災害は原則として、初回は200円を超えない範囲で治療費を労働者が負担する
労災の詳細に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
もし労災が起きてしまった際に、人事労務担当者がどのような対応を取ればいいのかがわかるマニュアルを無料で配布しています。不測の事態に備えて、ぜひ資料をダウンロードしてみてくださいね。
>>>資料ダウンロード(無料)はこちらから:労災対応マニュアル
「通勤」はどこまでが含まれる?
通勤中に事故や被害に遭い労災として認められるには、災害に遭った場所が「通勤という行為から逸脱していないか」、また「通勤経路や方法が合理的と判断されるか」がポイントとなってきます。
厚生労働省において「通勤」として定められているのは以下の3点です。
- 住居と就業場所の往復
- 就業場所から他の就業場所への移動
- 住居と就業場所の往復に先行し、または後続する移住間の移動
上記の移動を、合理的な経路および方法でおこなう必要があります。
合理的な経路および方法とは、就業に関する移動の場合に一般的に労働者が用いるものと認められる経路や方法のことです。
通常利用する経路であれば、通勤のために複数経路があったとしてもいずれも合理的な経路とみなされます。
通勤災害として労災認定を受けるには前提として、労働者の住居と就業場所との間の往復移動が労災保険法における通勤の要件を満たしておかなければいけません。
3つの要件をそれぞれ詳しく紹介します。
①住居と就業場所の往復
住居とは、登録している住所がある場所ではなく、労働者が居住して日常生活を送っている家のことで、本人の就業のための拠点となるところを指しています。
就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業場所の近くにアパートなどを借りてそこから通勤している場合、アパートが住居となります。
また、通常は家族のいるところから出勤しているが、別のアパートを借りて早出や長時間の残業のときだけ当該アパートに泊まりそこから出勤する場合、家族と一緒にいる住居とアパートの双方が住居として認められるでしょう。
②就業場所から他の就業場所への移動
就業の場所とは、業務を開始または終了する場所のことを指しています。
営業職など外勤業務のあるに労働者であれば、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。
また、就業の場所から他の就業場所への移動とは、複数の異なる事業場に従事する労働者がひとつ目の就業場所での業務が終了したあとに、ふたつ目の就業場所に向かうための移動のことをいいます。
③住居と就業場所の往復に先行し、または後続する住居間の移動
転勤前に住んでいた家から新たな就業場所に通勤するのが困難になったため、家族と離れ単身赴任をすることになった労働者に適用されます。
通勤が困難として考慮される距離は、片道60キロメートル以上等とされています。
また、
- 配偶者がいない場合の転勤に伴う子どもとの別居
- 配偶者も子供もおらず、介護が必要な父母、親族と同居していたが転勤のため別居する場合
についても条件が適用されます。
通勤災害になるポイント
通勤中の災害と認められるためには、業務をおこなう目的でその日に会社に出退勤していることが必要です。
休日の場合でも休日出勤をおこなった日に災害に遭ったなら、就業に関するため通勤災害として認められるでしょう。
また通勤ラッシュを避けるため、少し早めに出勤したような場合でも同じように通勤災害に該当します。
通勤途中に就業や通勤と関係ない目的で合理的な移動の経路から逸れたり移動を中断したりした場合は、逸脱や中断している間やその後の移動は原則として通勤とはみなされません。
しかし例外も設けられています。
通勤を逸脱・中断しても「通勤」とみなされる場合
通勤途中に逸脱または中断しても、合理的な経路に戻ったなら再び通勤として認められる例外行為は以下のとおりです。
- 日用品の購入、その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校においておこなわ行われる教育、その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使、その他これに準ずる行為
- 病院または診療所において、診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ扶養している孫、祖父母および兄弟姉妹の介護(継続的にまたは反復しておこなわ行われるものに限る)
また、以下のような通勤途中でおこなうささいな行為の場合は、逸脱・中断とはなりません。
- 経路近くの公衆便所を使用する場合
- 経路上の店でタバコやジュースを購入する場合
通勤災害として認められるケースと認められないケース
通勤災害として認められる場合と認められない場合の具体例を、注意点とともにご紹介します。
ケース①通勤途中に引き返して事故にあったケースと注意点
通勤途中に忘れ物に気づき自宅や会社に戻る際、その途中で事故に遭ったりけがをしたりした場合、忘れ物が業務に必要なものであれば労災として認められる可能性は高いです。
しかし、忘れ物が全く仕事に関係のない物であれば、通勤災害として認められる可能性は低くなります。
ケース②保育園など子どもの送迎中に事故にあったケースと注意点
共働きの家庭では、保育園や幼稚園の送迎は「合理的な経路」として「通勤」にあたるため、途中で災害に遭った場合、労災保険が適用される可能性が高いです。
ただし、合理的な理由もなく著しく遠回りとなるような経路は「合理的な経路」とは認められず、労災認定は難しくなります。
ケース③看護のため、1日おきに寝泊まりしている病院から通勤する途中で事故に遭ったケースと注意点
家族の看病のため、病院に寝泊まりしそれが長期間継続しておこなわれていたなら、病院が住居として認められ、住居からの通勤ということで労災として認定されます。
一時的な宿泊では難しい場合がありますが、一定期間宿泊し続けたり1日おきであっても寝泊まりしたりしているという継続性がポイントです。
ケース④業務終わりに飲み会へ参加した帰り道で、転倒してけがをしたケース
飲み会への参加は「日常生活上必要な逸脱又は中断」とは言えないため、労災として認められないでしょう。会社の人との飲み会であっても、業務には関係のない行為ですので「通勤」にはあたりません。
通勤中に事故にあった場合の労災申請手続き
通勤中に事故やけがをしたと従業員から報告があった場合、労災の手続きをするため書類の作成が必要です。作成した書類は労働基準監督署に提出しなければいけません。どのような流れでおこなうのか解説します。
労災保険指定の病院を受診した場合の申請手続き
通勤災害が発生し労災保険を適用するためには、災害にあった従業員が病院を受診し、その後事業者・労働者双方の書類作成や押印などが必要です。
通勤災害で労災保険指定の病院を受診した場合、「療養給付たる療養の給付請求書通勤災害用(様式第16号の3)」に必要事項を記入して手続きをおこないます。
書類を作成するにあたって裏面に、いつどこで災害に遭ったか、通勤経路や時間、交通手段など会社に到着するまでのすべてを詳細に記載しなければいけません。
給付申請書の作成後、給付の種類によって病院か労働基準監督署へ提出し、労災保険の療養の給付申請手続きが完了します。
労災保険指定の病院を受診した場合、災害に遭った労働者に治療費の負担はありません。
労災保険指定外の病院を受診した場合の申請手続き
通勤災害が発生後、労災保険指定外の病院を受診した場合には、「療養給付たる療養の費用請求書通勤災害用(様式第16号の5(1))」に必要事項を記載します。
労災保険指定外の病院を受診した場合は、災害に遭った労働者がいったん治療費を全額負担しなければいけません。その後、労災だと認定されると、支払った治療費が返金されます。
通勤中自動車で事故にあった場合の労災について
自動車通勤をしている従業員が通勤途中で事故に遭った場合、労災保険か自動車損害賠償責任保険かどちらで処理するかは会社の担当者が自由に決められます。
労災保険と自賠責保険の補償内容はそれぞれ異なり、たとえば、けがによる休業が必要な場合は、労災保険では休業補償が適用され、自賠責保険では休業損害が適用されます。
注意点として、労災保険と自賠責保険を同時に使用することはできないため、どちらか一方を選択しなければいけません。
速やかに対処するため通勤中の労災について事前に確認しておこう
通勤中に事故やけがをした場合、厚生労働省が定める「通勤」の要件を満たしているなら労災として認められます。
労働者から「事故に遭った」などの報告を受けたならすぐに対応できるよう、労災に関する情報を事前に調べておき、手続きをするためのポイントをしっかりおさえておきましょう。
もし労災が起きてしまった際に、人事労務担当者がどのような対応を取ればいいのかがわかるマニュアルを無料で配布しています。不測の事態に備えて、ぜひ資料をダウンロードしてみてくださいね。