労災申請の方法や手続きの流れ、企業の対応、注意点をわかりやすく解説
従業員が仕事中や通勤中など病気やケガをした場合、労災申請をすることで労災保険給付を受けられます。
企業として、労災申請の手続きを漏れなくおこなえるよう、当記事では労災申請の方法や手続き、企業の対応・注意点などを詳しく解説します。
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労災申請とは
労災申請とは、従業員が業務中や通勤中に事故やケガをした場合、労災保険による補償を受けるために労災保険給付請求を申請することです。
労災申請では、労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出後、労働基準監督署により調査がおこなわれ、労災保険給付を受けられます。
労災申請をする場合、事前に労災保険の申請対象や申請で受けられる補償内容について知っておくことが必要です。
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労災申請ができる対象
そもそも労働災害とは、労災保険の対象となる災害で、従業員の業務上の、または通勤による傷病などを指します。
労災申請ができる対象は「業務災害」「複合業務要因災害」「通勤災害」の3種類に分けられます。それぞれの災害内容について、詳しく見ていきましょう。
引用:厚生労働省|労災保険 請求(申請)のできる保険給付等
業務災害
業務災害とは、従業員が業務をきっかけに負った災害(ケガや病気、障害、または死亡)をいいます。
まず、業務災害かどうかを判断するためには、業務と災害による死傷病の因果関係があること、つまり「業務遂行性」と「業務起因性」が認められることが必要です。
- 業務遂行性:従業員が労働関係のもとにあった状態で起きた災害
- 業務起因性:業務が原因で起こった災害
業務上の因果関係があると認められるためには、「業務起因性」が前提条件であり、「業務遂行性」が認められて初めて、業務災害と認定されます。
業務災害にあたる例は以下の通りです。
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事業場外で従業員が災害にあったケースであっても、企業の管理下にある場合は労働災害における業務災害として認められます。
複合業務要因災害
複合業務要因災害は2020年9月から施行された新しい枠組みで、複数の企業で働いている労働者が、2つ以上の事業の業務を要因として負った傷病等のことをいいます。
複数業務労働者とは、上記に該当する傷病等が生じた時点において、事業主が同一でない複数の事業場に同時に使用されている労働者のことを指します。
なお、以下の場合は複数業務労働者には該当しません。
- 労働者として就業しつつ、同時に労働者以外の働き方(フリーランス等)で就業している者
- 転職など、複数の事業場に同時に使用されていない者
ただし、傷病等が生じた時点で1つの事業場のみに雇用されている場合であっても、傷病等の原因・要因となるもの(長時間労働、強いストレスなど)が、2つ以上の複数の事業場に雇用されている際に存在していた場合は、複合業務要因災害として認定されます。
複合業務要因災害に該当する事例は以下の通りです。
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複合業務要因災害の認定は、複数の事業場における業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価し、労災として認められるかが判断されます。
通勤災害
通勤災害とは、従業員が通勤によって負った災害(ケガ、病気、障害または死亡)を指します。
「通勤」とは、仕事のために職場と住居の間を合理的な経路・方法で往復することです。
厚労省では、「通勤」として認める就業に関する移動方法を3つ挙げており、いずれかを満たす必要があります。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
引用:東京労働局「通勤災害について」
往復の経路を大きくそれる、または往復を中断した場合には通勤として認められません。
ただし、日常生活上必要な行為であって、最小限の逸脱や中断をする場合は通勤の対象となります。
通勤災害の例として、以下が挙げられます。
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労災申請をする場合、災害が「業務災害」「複合業務要因災害」 「通勤災害」のどれに該当するかを確認し、申請するようにしましょう。
通勤時の労災については、以下の記事で詳しく説明しています。
労災については、以下の記事でわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。
労災申請で受けられる補償内容8つ
労災申請で受けられる補償内容は8つに分けられており、給付内容や給付金額が大きく異なります。
給付内容と給付金額を一覧表にまとめましたので、ご確認ください。
※1:給付基礎日額とは、対象災害が発生した日など所定の日の直前3ヶ月間における賞与を除いた1日あたりの賃金額のこと
※2:算定基礎日額とは、対象災害が発生した日など所定の日以前1年間の賞与(ボーナス)の総額を365で割った額のこと(上限は150万円)
1.療養(補償)等給付
ケガや病気が治癒するまでの治療費や入院費用など、医療費が補償されます。ただし、労災病院や労災保険指定医療機関を受診し、療養した場合は窓口での支払いは不要です。
引用:厚生労働省|労災保険 請求(申請)のできる保険給付等
2.休業(補償)等給付
ケガや病気の療養のために仕事ができず、生活に必要な賃金を受けられない場合、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の給付金を受け取れます。
引用:厚生労働省|労災保険 請求(申請)のできる保険給付等
3.障害(補償)等給付
労災により引き起こされたケガや病気を治療したにもかかわらず、一定の後遺症が残った場合に給付されます。
障害(補償)等給付には障害障害補償年金と障害補償一時金の2種類があり、後遺症の症状により認定される「障害等級」により、給付金額が異なります。
- 障害補償年金:障害等級第1級~7級まで該当する障害が残った場合
- 障害補償一時金:障害等級第8~14級に該当する障害が残った場合
4.遺族(補償)等給付
労災によりケガや病気を負い、従業員が死亡した場合、遺族の人数に応じて遺族補償年金と遺族特別年金、遺族特別支給金など一定の金額が給付されます。
引用:厚生労働省|労災保険 請求(申請)のできる保険給付等
5.葬祭料等(葬祭給付)
従業員が死亡し、死亡者の葬祭をおこなう場合、葬祭をおこなう遺族に対して給付されます。
6.傷病(補償)等年金
ケガや第3級以上の障害に該当する病気を負った場合や、療養開始後1年6ヶ月経過しても治っていない場合に給付金を受け取れます。
7.介護(補償)等給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち、障害等級第1級または第2級の障害等級の精神・神経障害および胸腹臓器障害者が、現に介護を受けている場合に給付されます。
1か月ごとに請求する場合が多いですが、3か月分をまとめて請求することも可能です。
ただし、病院へ入院している場合や障害者支援施設で介護を受けている場合、特別養護老人ホームに入所中の場合などは、十分な介護を受けられていると見なされ、給付されません。
8.二次健康診断等給付
これまでの7つとは毛色が異なり、労災の発生を予防することを目的とした給付が二次健康診断等給付です。
直近の定期健康診断で、血圧・血中脂質・血糖・肥満などすべての検査結果で異常値が認められていながら、脳血管疾患または心臓疾患の症状を患っていない場合に給付されます。傷病等が生じたあとの補償ではないため、注意しましょう。
二次健診に関しては、下記の記事でも触れていますので参考にしてみてください。
労災申請方法・手続きの流れ
労災給付にもさまざまな種類があり細かい手続きの流れは異なりますが、基本的な申請の流れは同じです。
実際に給付されるまでの手続きの流れについて、手続きをおこなう対象者とあわせて詳しく見ていきましょう。
1.【従業員】労災の発生を企業へ報告
労災が発覚した場合、従業員は企業へ報告する必要があります。報告が遅れると労災保険給付を受け取るための書類作成や提出、調査が遅れてしまいます。
企業は労災が起こった状況をより正確に把握することが何より大切であり、適切な労災保険給付を提供できるよう請求書を作成します。
2.【従業員】医療機関を受診し医師の診察を受ける
従業員は医療機関を受診し、医師の診察を受けます。労災保険指定医療機関で診察・治療を受けると医療費が一切かかりません。
一方、指定病院以外の医療機関を受診した場合は、いったん10割自己負担で清算した後、申請すれば全額手元に戻ってきます。
療養の給付請求書の手続きがスムーズなのは指定医療機関であるため、労災保険指定病院先を把握しておきましょう。
労災保険指定病院かどうか不明な場合、労災の取り扱いがあるかどうかは、医療機関に直接確認しましょう。
もしくは、厚労省の労災保険指定医療機関検索からも検索できます。医療機関名や所在地、診療科目名から検索できますので、ご活用ください。
3.【従業員・企業】労災申請に必要な書類を作成
企業は、従業員から受けた状況報告と医療機関での請求書をもとに、労災申請に必要な労災保険給付の請求書類を作成します。
従業員は、所轄の労働基準監督署または厚生労働省のホームページから、所定の請求書を入手し記載しましょう。
必要書類と書き方については、次の章で詳しくご紹介しています。
4.【企業】申請書類を労働基準監督署へ提出
企業は従業員から報告を受けた後、従業員の病院での診察・治療が落ち着いたタイミングで申請書類を労働基準監督署へ提出します。
提出自体は企業を通じておこなっても、従業員が直接労働基準監督署長に提出してもかまいません。
企業が書類を提出する場合、労災請求書作成時に被災従業員の氏名、労災発生日、労災発生状況を確認した人の名前、ケガや病気が生じた部位や状態、受診した医療機関など、書類作成に必要な内容を正確に理解しておく必要があります。
提出先は、被災従業員が所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。提出方法は、窓口での提出に加えて郵送も可能です。窓口で提出する際は、全国労働基準監督署の所在案内でお近くの労基署をご確認ください。
5.【労基署】労災事故の調査・給付の決定
申請書類提出後、労働基準監督署長により労災に該当するかどうか調査がおこなわれ、労災事故と認定された場合に、従業員は労災保険給付を受け取ることができます。
労災の種類にもよりますが、給付金が支給されるのは、申請から1~3か月程度です。
あくまで、労災かどうかを判断するのは企業ではなく、労働基準監督署です。
仮に労災に該当しないと判断され、従業員に不服があり再調査依頼をしたい場合は、管轄の労働局へ審査請求もできます。
労災の認定基準については、以下の記事で詳しく説明しています。
労災申請時に必要な書類と情報
労災申請では、申請する給付の種類に応じた所定の様式を用いて申請書を作成し、労基署へ提出しなければなりません。
申請事案がどの給付に該当し、どの書式を用いて申請が必要かミスのないように確認する必要があります。
労災申請時の必要書類
労災申請時の必要書類は、以下の通りです。ここでは休業(補償)等給付と障害(補償)等給付の申請を例にご紹介します。
例1:休業(補償)等給付申請の場合
通勤災害・複数業務要因災害の場合は様式第8号、通勤災害の場合は様式第16号の6をもとに、名前や平均賃金算定内訳(支払われた賃金・賃金締め切り日・労働日数・労働時間数・年次有給休暇)等の内容を記載します。
記載後は、受診した医療機関へ提出しましょう。
【労災申請時の必要書類】
通勤災害・複数業務要因災害の場合:「休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書」様式第8号 通勤災害の場合:「休業給付支給請求書」(様式第16号の6) |
例2:障害(補償)等給付申請の場合
障害(補償)等の場合は様式第10号、通勤災害の場合は様式第16号の7を基に、労働保険番号や従業員の名前・住所、所属事業場名(直属所属する事業場が一括適用取り扱いをしている支店や工場、工事現場等のみ)、厚生年金保険、事業場の証明書(必要な場合のみ)、添付書類その他の資料名等を記載します。
記載後は、労働基準監督署長へ提出しましょう。
【労災申請時の必要書類】
障害(補償)等の場合:「障害補償給付・複数事業労働者障害給付支給請求書」(様式第10号) 通勤災害の場合:「障害給付支給請求書」(様式第16号の7) |
労災申請時に必要な情報
労災申請時に必要な情報は、以下の通りです。
労働保険番号
労災の給付申請書を作成する際には、労働保険番号を記載する必要があります。労働保険番号とは、労災保険に加入している各企業ごとに割り当てられた、登録番号です。
従業員から依頼があった際に対応できるよう、自社の労働保険番号を把握しておきましょう。
事業主証明
労災給付の申請書には、事業主が労災を証明する欄があり、「事業主証明」と呼ばれます。証明する内容は、以下の2点です。
- 負傷または発病の年月日
- 災害の原因および発生状況
内容が事実である場合は、スムーズに対応するようにしましょう。
【補足】事業主証明は拒否できる?
労災であるかの確認が難しい場合は、従業員からの事業主証明の依頼を断ることはできるのでしょうか。
例えば、業務による腰痛を労災として申請してきて、原因が日常生活によるものなのか業務によるものなのか判別が難しい場合などです。
事業主証明を拒否することはできますが、正当な理由がなくてはいけません。
拒否をする際は、労基署長宛に「証明拒否理由書」を作成し、事業主証明をしない理由と労基署からの調査依頼には応じる旨を示しましょう。従業員に対しても、丁寧な説明が求められます。
労災は退職後にも申請できる?申請時効期間について
労災保険は、仮に退職した後であっても後から申請できます。ただし、給付の種類によって時効期間に違いがあるため注意が必要です。
以下に各給付の申請時効期間を示しています。
参考:厚生労働省|労災保険 請求(申請)のできる保険給付等
労災申請における企業側の対応と注意点
最後に、労災申請における企業側の対応について、把握しておくべき注意点やポイントを解説します。
・企業は従業員の申請に助力する義務がある
労災申請は、労災を利用したい従業員本人による実施が原則です。しかし、事故のために手続きが困難なケースも多く、企業の窓口を通じて申請をおこなう場合も多くあります。
その際、労災保険法施行規則23条1項において「事業主は手続きをおこなうことができるように助力すべき」と定められているため、企業は事前確認をおこない、申請の援助をする必要があります。
・労災隠しは犯罪!従業員私傷病報告の提出を
事業者は、労災等により従業員が死亡又は休業した場合には、遅滞なく従業員死傷病報告等を労働基準監督署長に提出しなければなりません。
労働基準法施行規則第57条、労働安全衛生規則第97条により定められており、労災隠しは犯罪に該当します。罰則が課せられる場合もあるため、注意が必要です。
・再発防止対策の策定・実施が重要
労災が発生した場合、災害の原因を分析し再発防止対策を立て、実施することが大切です。
労働基準監督署から労働災害再発防止書等の作成・提出を依頼される場合もありますが、基本的に労災が発生した事業場は、自主的に災害原因の分析や対策の策定をしなければなりません。
労災申請後はスムーズな対応&再発防止に尽力を
業務災害や通勤災害における労災保険は、すべての従業員が対象です。労災申請をする場合、早期に従業員から報告を受け、適切な手続きの実施によって従業員を守ることができます。
そのためにも、企業は労災保険における知識を正しく理解し、従業員の申請へ協力するとともに、スムーズな対応と再発防止対策の策定をおこない、同様の労災を繰り返さないように努めましょう。
medimentでは、もし労災が起きてしまった際に、人事労務担当者がどのような対応を取ればいいのかがわかるマニュアルを無料で配布しています。不測の事態に備えて、ぜひ資料をご活用ください。