【ひな型あり】健康情報等取扱規程とは?定めるべき内容・義務・罰則・策定方法を解説
企業における労働者の健康情報は、働きやすい環境や安全を守る手段として重要なため、取扱う際にはルールや運用手段などを明確にしなければなりません。
本記事では、企業が定めるべき健康情報等取扱規程の定めるべき内容や義務、策定方法などについて解説します。
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健康情等取扱規程とは?
健康情報の取扱規程は、労働者の健康に関する取扱いをまとめたルールであり、健康情報が適切かつ円滑に取り扱われることによって、健康確保の取り組みがより一層推進されやすくなるためには欠かせません。
次の章からは、健康情報等取扱規程の目的、策定の義務化などについて解説していきます。
健康情報等取扱規程が策定された背景と目的
2019年4月に、働き方改革関連法の施行により、労働安全衛生法が改正されました。改正により、事業者は健康情報保護に関する措置である「健康情報取扱規程」の策定が義務付けられています。
企業の安全配慮義務を果たすためにも、健康情報等取扱規程を策定しなければいけません。
健康情報を適切に取り扱うためには、労使の協議によって情報を扱う目的や方法、権限などのルールを定めて、労働者に周知する必要があります。
健康情報を取り扱う目的は「事業者の責務」と「労働者の健康と安全の確保」であり、以下の2点が挙げられます。
- 健康確保措置の実施……労働安全衛生法に基づいて実施する健康措置(健康診断など)
- 安全配慮義務の履行……労働者が安全・健康で働けるために事業者が負う義務
ここでの健康情報とは、以下を指します。
- 健康診断の結果、医師等から聴取した意見、それに基づく事後措置、保健指導の内容
- 長時間労働者への医師による面接指導の結果、医師から聴取した意見、事後措置の内容
- ストレスチェックの結果、それに基づく医師による面接指導の結果、医師から聴取した意見、それに基づく事後措置の内容
- 健康相談の結果
- がん検診の結果
- 職場復帰のための面談の結果
- 治療と仕事の両立支援等のための医師の意見書
- 通院状況等疾病管理のための情報
- 産業保健業務従事者が労働者の健康管理等を通じて得た情報
- 上記のほか、任意に労働者等から提供された本人の病歴、健康に関する情報 等
健康情報等取扱規程の策定は法で定められた義務
健康情報等取扱規程の策定は、2019年4月より労働安全衛生法の改正によって義務化されました。
事業者においては、労働者の健康情報を正しく収集して、健康確保措置の実施に努めなければなりません。
また、健康情報には労働者のデリケートな情報が含まれています。労働者が雇用面に関して不利益な取扱いを受けないよう、個人情報の取扱いに配慮する必要があります。
健康情報等取扱規程を策定しないと罰則はある?
健康情報等取扱規程の策定は、労働安全衛生法第104条で義務付けられていますが、明確な罰則はありません。ただし、事業者が策定した規程が不十分な場合は、該当する指針に関し必要な指導を受ける可能性があります。(労働安全衛生法第104条の4)
また、事業者側からの個人情報の漏えい、もしくは不当な扱いをおこなった際は、個人情報保護法の罰則の対象(措置命令や報告義務違反)となるおそれがあります。
要配慮個人情報とは?
要配慮個人情報とは、不当な差別や偏見などの不利益を被らないように特に取扱いに配慮すべき情報のことです。健康診断結果などの健康情報も、「要配慮個人情報」に含まれます。
【要配慮個人情報】
人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により被害を被った事実のほか、身体障害・知的障害・精神障害などの障害があること、医師等により行われた健康診断その他の検査の結果、保健指導、診療・調剤情報、本人を被疑者又は被告人として逮捕等の刑事事件に関する手続が行われたこと、非行・保護処分等の少年の保護事件に関する手続が行われたことの記述などが含まれる個人情報
引用:要配慮個人情報とは?
上記に示している要配慮個人情報を取得する際には、事前に本人の同意を得ることが必要です。
健康情報等取扱規程に定めるべき9つの内容
「健康情報等取扱規程」の作成において、厚生労働省から公表されている「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針 」に定めるべき9つの指針が示されています。
事業者は、「策定の手引き」を参考にしながら自社の状況を考慮し、取り組んでいくのが望ましいとされているため、9つの内容について見ていきましょう。
1.健康情報を取り扱う目的と方法
健康情報等取扱規程を定める際は、まず健康情報を取り扱う目的を記載する必要があります。
目的の項目欄には、「健康確保措置の実施」と「安全配慮義務の履行」のためと示したうえで、適切に取り扱うように記載します。併せて、労働者の同意を得てから必要範囲内で健康情報を扱う旨も明記しておきましょう。
健康情報を扱う目的の具体例は以下のとおりです。
- 健康診断の結果に基づく健康確保措置の実施
- ストレスチェックの結果や長時間労働における医師の面接・指導・事後措置の実施
- 傷病・疾病のある労働者への業務措置の検討や実施 など
次に、健康情報を扱う方法についても記載する必要があり、「収集・保管・使用・加工・消去」などの扱い方を明記します。
取扱い方法の内容は以下を参考にしましょう。
引用:厚生労働省:事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き
2.健康情報を取り扱う担当者・権限・情報の範囲
健康情報等取扱規程の作成には、情報を取り扱える担当者と権限、情報の範囲を定めておくことが大切です。
まず、健康情報を取り扱う担当者には、人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある人・産業保健業務従事者・管理監督者・人事事務担当者などを記載します。
次にそれぞれの担当者が扱える情報の範囲(健康診断・ストレスチェック・長時間労働による面接指導など)を衛生委員会の場で決めておく必要があります。同時に扱える権限も明確にしておくと良いでしょう。
3.健康情報を扱う目的の周知と本人への同意
事業者は健康情報の収集や取得に関して、事前に取り扱う目的を労働者に周知する必要があるため、通知方法を決めておきましょう。また、健康情報を取得した際には直ちに本人の同意を得なければなりません。
一般的な通知方法は、口頭・企業内ネットワーク・社内メール・パンフレット配布・社内掲示板があります。通知をおこなった際に「同意書にサイン」「同意するメールの返信」「Webサイト上の同意ボタンをクリック」など本人の同意が得られるように設定しておくと良いでしょう。
4.健康情報の適正な管理方法
健康情報の「個人データ」に関しては取扱い方に注意する必要があるため、管理方法をしっかり定めておきましょう。管理方法は以下の3点が重要です。
- 情報の正確性の確保……個人情報は必要範囲内のみで、正確・最新の内容を保持する
- 漏えい・滅失・改ざん防止の体制整備……個人情報を扱う責任者の指定・漏えいが発生した場合の報告連絡体制・守秘義務の徹底・情報システムの安全管理措置など
- 情報の消去……個人情報を利用する必要性がない場合は消去(紙媒体は焼却・溶解、電子媒体は復元できないようにデータ消去)
5.健康情報の開示・訂正
健康情報等取扱規程には、労働者からの健康情報の開示請求・訂正・追加・削除・消去・利用停止などに応じる旨を記載する必要があります。
開示請求に関しては、請求の受付先・提出書面の手続き方法などを労働者に事前に知らせておきましょう。訂正する際も、訂正者・内容・日時などを明確に示さなければなりません。
6.健康情報の第三者への提供
事業者は、労働安全衛生法令などを除いて、第三者に労働者の健康情報を提供する場合は、事前に本人の同意を得る必要があります。
第三者に提供する際には、文書・データを用いて記録を作成・保存しなければならないため、以下の内容を個人情報保護法第29条に照らし合わせて健康情報等取扱規程に記載しておきましょう。
- 労働者本人の同意を得ている旨
- 第三者の氏名や名称・その他第三者を特定できる事項
- 個人データによって識別される労働者本人の氏名・その他本人を特定できる事項
- 個人データの項目 など
同様に、第三者から提供を受ける場合も、個人情報保護法30条に基づいて健康情報等取扱規程を作成しましょう。
7.事業承継・組織変更による情報の引き継ぎ
健康情報等取扱規程には「事業承継・組織変更」による健康情報の引継ぎ事項を記載する必要があります。
記載例としては、「合併・分社化など他の事業者から事業承継がおこなわれる際に健康情報を取得する場合は、安全管理措置を講じた上で適正な管理の下、情報を引き継ぐ」と明記するようにしましょう。
また、健康情報が事業承継前と利用目的が大きく変わる場合には、労働者本人の同意を得ることも示さなければなりません。
8.健康情報の取扱いの苦情処理
健康情報の取扱いに関して、労働者からの苦情に対応できる体制を整備する必要があります。以下の内容を事前に取扱規程に定めておくと良いでしょう。
- 苦情処理窓口の設置
- 苦情処理の手順
- 従業員からの相談窓口(連絡先・手続き)など
9.健康情報等取扱規程を従業員へ周知する方法
健康情報等取扱規程は、就業規則や社内規程などによって定めると同時に、内容について労働者へ周知し、事業者側は適正に実施しなければなりません。
周知する方法は、以下の例を参考にしてみましょう。
- 企業内ネットワーク・社内メールに掲載
- パンフレットの配布
- 事業場内の掲示板
- 研修を利用して連絡
健康情等取扱規程の作成方法
健康情報等取扱規程の作成には、企業側の意見が偏らないように労使間で十分検討する必要があります。取扱規程が定まった後は、労働者へ知らせるために「就業規則」に明記するのが望ましいとされています。
労働者50人以上の事業場と50人未満の事業場ではどのような違いがあるのか、作成方法を見ていきましょう。
・労働者が50人以上の事業場
常時使用する労働者が50人以上の事業場では、衛生委員会もしくは安全衛生委員会での審議が求められています。
衛生委員会の場を活用して、健康情報等取扱規程作成の労使間協議を実施していきましょう。
・労働者が50人未満の事業場
常時使用する労働者が50人未満の事業場は、労働者または職場単位で審議する必要があります。
安全衛生委員会・職場懇談会などをおこない、労働者の意見が反映される機会を設けることが望ましいでしょう。
健康情報等取扱規程のひな型(サンプル)
厚生労働省では、健康情報等取扱規程のサンプルが提示されているため、参考資料として活用してみましょう。
引用:厚生労働省「健康情報等の取扱規程(サンプル)」
他にも厚生労働省の「健康情報の取扱規程を策定するための手引き」からも取扱規程のひな型が紹介されています。
健康情等取扱規程で労働者の職場環境を守りましょう
健康情報等取扱規程の策定は、労働者の健康保持や個人情報の保護などに大きな役割を果たします。より良い職場環境を構築するためにも、労働者が安心して健康情報を提供できる体制づくりが大切です。
また、健康情報等取扱規程を完成させるといった形式だけにとらわれず、企業と労働者が向き合い、円滑な運用ができるよう努めていきましょう。
以下のお役立ち資料では、健康診断の実施方法や結果の活用について解説しています。ぜひご活用ください。