労基署(労働基準監督署)の臨検とは?種類や頻度・指摘されやすい項目を徹底解説!
労働基準監督署の方面(監督課)という部署では、労働基準法などの法律に基づいて企業側へ調査する臨検(監督指導)が行われています。
臨検によって「指摘された、是正勧告を受けた」といった企業の話を耳にしますが、いったいどんな調査なのか、必要な項目や書類などあまりよく知られていません。
本記事では、労基署の臨検について種類や頻度、指摘されやすい項目などを詳しく解説していきます。
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労基署(労働基準監督署)の臨検とは?
労働基準監督署の臨検とは、労働基準監督官が労働基準法・労働安全衛生法・最低賃金法を遵守しているかどうかを確認する調査のことです。
書類チェックや聞き取り調査などを行い、労働関連の法令に違反していないかを確認します。原則として、労基署の臨検を断ることはできません。
次の章からは、臨検の種類や実施されるタイミングについて解説していきます。
【補足】労働基準監督署とは?
労働基準監督署とは、厚生労働省の出先機関で、各都道府県労働局の館内に設置されている機関です。全国に321の労働基準監督署があり、都道府県労働局からの指揮監督を受けて、業務をおこなっています。
労働基準監督署の内部組織は方面(監督課)、安全衛生課、労災課、業務課の4つで構成されていて、労働基準法など各種届出の受付、職場の安全や健康の確保に関する技術的な指導、労災保険給付などの業務をおこないます。
労働基準監督署は労基署、監督署などの略称で呼ばれる場合も多いです。
臨検監督は、方面(監督課)が担当となっています。
引用:厚生労働省「労働基準監督署の役割」
労基署の臨検:4つの種類と頻度(実施タイミング)とは?
労基署の臨検には4つの種類があり、実施されるタイミングは臨検の種類によって違いがあります。主な臨検に関する労基署の仕組みは、以下の図に示すとおりです。
仮に、労働基準法や労働安全衛生法などに違反していない場合でも、労基署の年間計画によって検査される可能性があります。
では、それぞれの臨検について詳しく解説していきましょう。
1.定期監督
定期監督は、労基署が監督計画に基づいて、企業に対して労働基準法や労働安全衛生法などに違反や改善点があるかどうかを調査します。
実施されるタイミングは、「事前に電話や文書で予告されてから」「予告なしの抜き打ち検査」の2つです。
2.申告監督
申告監督は、労働者から告発・告訴といった申告があったときに、真偽を確かめるために調査が行われます。実施されるケースは以下の2つです。
- 労働者からの申告を明かした上で呼び出し状を発行する
- 申告があったことを明かさず、定期監督と同じように実施する
3.災害時監督
災害時監督は、労働災害が起こった時に原因究明・再発防止のために調査が行われます。
調査対象は「事故現場」「労働者の人数・労働時間が適切か」「安全管理体制が整備されていたか」などです。
労働災害によって死亡者が出たり、多くの犠牲者が出たりした場合に実施されます。
4.再監督
再監督とは「是正勧告」されている企業に対して行われるのが再検査です。
「定期監督」「災害監督」「申告監督」等の調査で違反があった場合、是正勧告書が交付されます。
実施されるケースは以下の3つです。
- 違反内容が是正されたかどうかの確認
- 是正勧告書の期日までに是正報告書を提出していない
- 是正勧告書の交付に応じない
補足:是正勧告とは
是正勧告とは、職場環境や労働条件など問題がある場合に行われる行政指導のことです。
内容は、過度な長時間労働・残業代の未払い・36協定違反など。
交付された企業は必要な対応を行い、是正報告書を提出する必要があります。
労基署の臨検に必要な書類
一般的に臨検で要求される帳簿や書類は以下のとおりです。
労働基準法に必要な書類
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労働安全衛生法に必要な書類
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臨検で求められる書類は、労働基準監督官が調査前に連絡がくる場合や、調査予告の通知時に「必要書類」として記載される場合があります。
ただし、調査途中に追加の書類提出を求めてくるケースもあるようです。
調査対象は、必要書類からも分かるように「労働条件」「安全衛生」に関する内容がメインになってくるでしょう。
では、具体的にどのようなことが指摘されやすいか解説していきます。
労基署の臨検で指摘されやすい8項目をチェック
労基署の臨検において指摘されやすい8項目をチェックしていきましょう。
調査内容によってバラつきはありますが、労働条件に関する内容や安全衛生に関する内容が多く見られます。
①労働条件の明示
労基署の臨検で指摘されやすい項目として挙げられるのが「労働条件の明示」です。
従業員を雇入れる際は、労働基準法15条の項目に基づいて、労働条件を労働者に対して書面で表示する必要があります。労働条件の明示は以下のとおりです。
- 労働契約の期間
- 就業場所・従事すべき業務
- 始業終業の時刻・超勤の有無・休憩時間・休日・休暇等労働時間に関すること
- 賃金(計算方法・支払い方法・締め支払い時期)に関すること
- 退職に関すること(解雇事由も含む)
さらにパートタイム労働者に対しては、加えて以下のことが義務化されています。
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 退職金の有無
違反した場合は、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるので注意が必要です。
②労働時間の超過や時間管理
臨検で指摘されやすい内容に「労働時間の超過に問題がないか」「時間管理できる仕組みは整備されているか」等が挙げられます。
時間外労働協定の締結や変形労働時間制の導入の手続き(36協定の作成・届け出)をせずに、従業員を1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えて労働をさせた場合は指導対象となります。(労働基準法32条違反)
また、タイムカード・ICカードといった時間管理できるシステムがない場合も、指導対象となるため注意が必要です。
③労働者名簿や賃金台帳の作成
臨検において注意しておきたいポイントが「労働者名簿と賃金台帳」です。
企業の規模にかかわらず、経営者は労働者名簿と賃金台帳の作成および一定期間の保管が義務付けられています。(労働基準法107条、108条)
さらに、労働者名簿と賃金台帳には記載しなければならない項目があるため、記入漏れがあれば、労働基準監督官から指摘されやすいでしょう。
④就業規則の届出
常時10名以上の従業員がいる企業は、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出なければならず、違反した場合は罰則の可能性があります。(労働基準法89条)
労働基準法89条の違反に対しては、30万円以下の罰則の可能性があるため、必ず労基署に届出を提出しておきましょう。
⑤賃金の不払いや未払い残業の有無
臨検の指摘されやすい項目として「賃金不払い」や「賃金未払い残業(サービス残業)」なども挙げられるでしょう。
「不払い」とは支払う側が義務を把握しているのに払っていない場合、「未払い」は支払う側に自覚がなく払っていない場合を指します。
賃金不払いは労働基準法24条の違反対象、賃金未払い残業がある場合は労働基準法37条の違反対象になります。
⑥最低賃金の確認
最低賃金に満たない給料しか払っていない場合は、労働基準法24条・最低賃金法4条違反の対象となるため、臨検の前にチェックしておく必要があるでしょう。
最低賃金には都道府県別に設定されている「地域別最低賃金」と企業の業種別に設定された「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
2種類の最低賃金に違反した場合は以下のとおりです。
- 地域別最低賃金の違反:最低賃金法4条違反となり50万円以下の罰金の可能性
- 産業別最低賃金の違反:労働基準法24条違反となり30万円以下の罰金の可能性
⑦健康診断・ストレスチェックの実施
健康診断は、企業の規模を問わず実施する義務が課せられており、年1回以上の定期健診の実施がない場合は指導の対象となります。(労働安全衛生法66条違反の対象)
また、常時50人以上の企業の場合は、毎年1回のストレスチェックの実施が義務づけられています。
実施後は、管轄の労働基準監督署に実施報告書を提出する必要があり、提出を怠ったときには労働安全衛生法第100条に基づく罰則が発生します。
最大で50万円の罰則金の支払い義務(労働安全衛生法120条)が課せられるので注意しましょう。
⑧安全衛生管理のチェック
労基署の臨検では、安全衛生管理も重要視しているため、細かいチェックがあります。
主なチェック内容は以下のとおりです。
- 産業医選任の状況
- 産業医面談の実施状況
- 安全衛生委員会の運営メンバーの構成
- 健診結果の基準値に満たない従業員に対して、医師意見の記載の有無など
上記のように「産業医の機能強化が万全なのか」「安全衛生への配慮ができているか」といった細かな確認が行われます。
これまでに示してきた臨検で、労基署から違反が認められた場合はどのような処置が行われるのか解説していきます。
労基署の臨検に違反した場合
平成30年に実施された定期監督では、1年間に約68%の企業で労働基準関係法令違反の問題が浮かび上がっています。主な違反内容は下の図記のとおりです。
労基署の臨検に違反した場合には、内容によって以下の3つが交付されます。
- 是正勧告書の交付:法令違反があった場合に交付される
- 指導票の交付:改善の必要があると判断された場合に交付される
- 使用停止等命令書の交付:施設や設備の不備や不具合によって労働者に危険があり緊急を要すると判断した場合に交付される
是正勧告書は、違反した法律・条文・違反事項が書かれており、是正期日までに違反事項を解消するように求められます。(行政指導で法的強制力なし)
指導票は、法律違反ではありませんが、違反につながる恐れがある事項や行政方針の改善が求められるでしょう。(行政指導で法的強制力なし)
使用停止等命令書は、行政処分で法的強制力があるため、命令に従わない場合6ヵ月以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金となります。
ただし、不服があれば行政不服審査法・行政事件訴訟法により申し立てることが可能です。
労基署の臨検の流れ
労基署の臨検の一般的な流れは、以下の図のとおりです。
労基署の臨検は「労基署の年間計画から選定」「労働災害」「労働者からの申告」などによって企業側が検査される仕組みです。主な臨検の流れは4つとなっています。
- 臨検を予告する
- 臨検を実施する
- 臨検結果を企業側に報告する
- 指摘された内容を改善後、是正報告書を提出する
では、それぞれの内容をチェックしていきましょう。
臨検の予告
労基署の臨検は、予告なしで実施するパターンと、電話やFAXなどで調査予定日を予告するパターンの2つがあります。
予告なしで実施する場合、データ改ざんの恐れがあるため、基本的には臨検を拒否することができません。
ただし「責任者・担当者がいない」「急な対応ができない」ときは、日程調整に応じてもらえる可能性があります。
予告がある場合でも基本的に長期間の猶予がないため、日程が厳しいなら労働基準監督署と相談しながら調査予定日を決めていきましょう。
臨検の実施
臨検の実施は、労働基準監督官2名で調査するのが基本となっており、「自己の身分証」「訪問の目的」を明らかにする決まりです。
責任者への面会を要求した後、臨検の実施を行っていきます。
臨検調査はおおむね以下のとおりです。
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臨検結果の報告
調査の実施後は、労基署から臨検結果の報告があります。
- 法違反がなかった場合:「改善の指導なし」として臨検終了
- 改善や法違反が露見した場合:文書指導(是正勧告書・指導票・使用停止等命令書)などが交付
文書指導が行われた場合は、指摘された内容に従って改善に努めていく必要があります。
是正報告書の提出
是正報告書は、文書指導(是正勧告書・指導票・使用停止等命令書)に記載されている事項について、是正や改善した状況を報告します。
ただし、是正や改善が完了していなくても、途中経過報告として提出することが可能です。
是正報告書は以下の内容を記載して提出、是正の確認がされると臨検が終了します。
- 違反内容
- 是正内容
- 是正完了日など
労基署の臨検への対応はデータ管理が重要!
労基署の臨検は、法令を遵守しているか確認することが目的であり、事前に調査して対象企業を絞り込むわけではありません。
そのため、いつ臨検が来ても問題がないように備えておくことが重要となります。
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