過重労働を防ぐための対策とは?企業が取り組むべき方法について解説
長時間にわたる過重な労働は疲労の蓄積をもたらし、健康にも影響を及ぼします。しかし、定められた労働時間を上回って働いている労働者の割合が多いのが現状です。
本記事では、過重労働とならないため、会社としてどのような対策ができるか詳しく解説します。
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過重労働とは?
2022年12月時点で法的な定義はありませんが、過重労働とは、月100時間もしくは2〜6ヶ月平均で月80時間を超えて残業や休日出勤などをしている状態のことで、労働者に対し身体的・精神的負荷が大きい働き方を指しています。
過重労働は疲労の蓄積をもたらす重要な要因と考えられており、さらには心臓疾患や脳の疾患、精神障害などの発症リスクが高まるため、健康への被害を及ぼしかねません。
そのため、国は過重労働削減の取り組みとして、2019年に労働基準法の改正を行っています。
過重労働の細かい定義については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
過重労働になるラインは?
どのような働き方が過重労働になってしまうのか、基準を詳しく解説します。
法律で定められている労働時間
労働時間は労働基準法において以下のように定められています。
- 原則として1日8時間、1週間に40時間(法定労働時間)を超えて労働させてはいけない
- 毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければいけない
- 労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を与えなければいけない
引用:厚生労働省「時間外労働の上限規制-わかりやすい解説」
上記の法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や休日労働をさせる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定を締結しなければいけません。
さらに、所轄労働基準監督署⻑への届出が必要です。
健康障害のリスクが高まる労働時間
2022年12月時点で過重労働の法的な定義はありません。しかし、時間外労働・休日労働が月100時間、または平均して月80時間を超えて労働している場合、医学的にも脳卒中や心臓病のリスクが高まるといわれています。
時間外労働が月45時間を超えて長くなるほど、業務と病気の発症との関連性が徐々に強まります。
さらに月100時間または平均して月80時間を超える労働は、業務と病気の発症との関連性が高くなる傾向にあります。
過重労働が原因で引き起こされる健康障害
過重労働が原因で引き起こされる可能性の高い健康障害は、以下が挙げられています。
- 脳や心臓疾患の危険性
- 精神障害や自殺の危険性
- 事故やケガの危険性
それぞれを詳しく解説します。
脳や心臓疾患の危険性を高める
長時間労働による最も致命的な健康問題は、脳・心臓疾患です。
過重な労働負荷は脳や心臓疾患を発症させる可能性が高く、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は「労働災害」として扱われています。
そして労働災害として認められた件数は、年間数百件にも及んでいます。
脳・心臓疾患の労災請求・認定件数の推移
引用:厚生労働省「過労死等に係る労災補償の状況」
また長時間労働と心筋梗塞に関する独立行政法人労働安全衛生総合研究所らの研究によると、過去1ヶ月間、週労働が61時間以上の人の場合と、週労働が40時間以下の人の場合を比べると、61時間以上働いた人が心筋梗塞になるリスクは1.9倍に。
いかに労働時間と心臓疾患の関連性が高いかがわかります。
労働時間と心筋梗塞
引用:独立行政法人労働安全衛生総合研究所「長時間労働者の健康ガイド」
精神障害や自殺の危険性を高める
過重労働者は、業務における心理的な負荷により精神的な負担が増加している可能性が高いです。
そのため精神障害が原因で、認知能力や判断力が低下して自殺の可能性があるとされています。
また、長時間労働により心の健康を取り戻すための職場外での時間――たとえば睡眠時間や休養する時間、家族との時間や友人と過ごす時間などが不足してしまう場合があります。
このような状況の結果、心の不調を抱え、精神障害や自殺へと発展するおそれがあるため注意が必要です。
事故やケガの危険性を高める
労働時間が長いと睡眠時間が削られ、睡眠時間が短いと集中力が低くなり作業効率が下がってしまう場合もあります。その結果、事故やケガを引き起こす可能性が高くなるでしょう。
約9時間の睡眠時間が必要とされているなか、働く人々の多くは約5時間〜7時間の睡眠しかとれていません。
たとえ一晩あたりの不足している睡眠時間が2時間程度だったとしても、毎日の睡眠不足が積み重なると、作業効率が低下する可能性が出てきます。
週末に睡眠をまとめてとっても疲労を完全に回復できるわけではないため、毎晩毎晩しっかりと睡眠時間を確保することが、業務中の事故やケガの防止には大切です。
過重労働対策のため労働基準法の改正
過重労働を減らすため、国は2019年4月に以下のような労働基準法の改正を行いました。
- 時間外労働の上限規制の新設
- フレックスタイム制の導入
- 年次有給休暇取得の義務化
どのような改正なのか、それぞれを詳しく解説します。
①時間外労働の上限規制の新設
改正前は時間外労働の上限規制はありませんでしたが、改正後は新たに上限が設けられ、原則月45時間・年360時間となりました。
臨時的な特別の事情がない限り、この時間を超えることはできません。
しかし、臨時的な事情があり労使が合意する場合であっても、以下を守る必要があります。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計について、2〜6ヶ月の平均が全てひと月あたり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
引用:厚生労働省「時間外労働の上限規制-わかりやすい解説」
上記に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に科せられる可能性があるため注意が必要です。
②フレックスタイム制の精算期間の延長
フレックスタイム制とは、一定期間における総労働時間を定め、労働者がその期間内で日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら自由に決めて働くことができる制度です。生活と仕事の両立を図りながら、効率的に働くことができます。
引用:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
2019年の法改正により、フレックスタイム制の精算期間の上限が1ヶ月から最大3ヶ月間に延長され、プライベートと仕事とのバランスがより取りやすくなっています。
③年次有給休暇取得の義務化
会社は10日以上の年次有給休暇が付与されている従業員に対して、年5日以上の有給休暇を与えなければいけません。
そのため、会社側が労働者の希望を聞いた上で、いつ年次有給休暇を取得させるかをあらかじめ決めておくことが大切です。時季指定をする場合、就業規則に以下の点を記載します。
- 時季指定の対象となる労働者の範囲
- 時季指定の方法等
どのように就業規則に記載するかは、以下を参考にしてください。
規定例
第◯条
第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
過重労働対策の具体的な実施方法
過重労働を防ぐための具体的な対策方法について解説します。
対策①:事業者の意思決定と方針の表明をおこなう
現在、会社の労働環境などの改善が、健康で安全な社会を作るための企業貢献として高く評価されています。
過重労働対策を成功させるためには、まず事業者が「過労死や過重労働による健康障害を生じさせない」という方針を決定し、表明することから始めましょう。
方針の表明は、「すべての労働者の健康確保を最も重視しなければならない」という事業所トップの決意を知らせることになるからです。
過重労働対策の方針は、過重労働を防止する企業風土を目標として労働者の意見を聞き、事業所全体の合意形成を十分に行い決定します。
その後、決定事項を文書等により全労働者に周知徹底してください。
対策②:衛生委員会等を活用する
常時50人以上の労働者を雇用している事業所は、労働衛生にかかわる事項を検討する衛生委員会と安全委員会を設置しなければいけません。
衛生委員会等は、事業場全体が過重労働に対する問題意識を共有したり、従業員の意見を過重労働対策に反映させたりします。
さらに、事業場の実態に即した制度づくりなどを調査審議するため、毎月1回以上開催することが求められています。
調査審議した概要は、作業場の見やすいところへの設置や書面での労働者への交付など、事業所全体で共有することが大切です。
対策③:時間外、休日労働時間の削減をする
健康障害につながる可能性の高い過重労働は、長時間に及ぶ時間外労働が主な原因となっています。そのため時間外労働の削減を目指すよう努めることが、労働者の健康を確保する上でとても重要です。
時間外労働時間の上限は、原則として月45時間・年360時間と定められています。
限度時間を超えて時間外・休日労働をさせる場合は具体的に時間を定めなければならず、「業務の都合上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招くおそれのあるものは認められません。
どうしても時間外労働が発生する場合、時間外労働の時間を限度時間に近づけるよう努めましょう。
また過重労働が常態化している場合には、業務の見直しや分散を行い、労働時間を改善し長時間労働を削減するような工夫ができるでしょう。
対策④:従業員の健康管理体制を整える
過重労働対策を進めていくためには、産業医をはじめとする産業保健スタッフが従業員の健康管理体制を整え、積極的に対策を行うことが重要です。
企業は常時使用する労働者に対し、1年以内に1回、定期的に健康診断を実施しなければいけません。
健康診断には、過重労働による健康障害防止にも関係する項目が含まれています。診断後、有所見者については、産業医から就業に関する措置の意見聴取をする必要があります。
その際、必要に応じ過重労働対策の観点からの意見を求めることが望ましいでしょう。
有所見者に対しては、保健指導の実施や日常的な自己管理の徹底、肥満防止や禁煙、睡眠時間の確保をするよう指導します。
また、心の健康面ではストレスチェックの活用も効果的です。
従業員数が50名以上の企業にはストレスチェックの実施が義務付けられておりますので、結果を分析し、過重労働対策に役立てましょう。
対策⑤:医師による面接指導をおこなう
医師による面接指導は、長時間の労働により疲労が蓄積し健康障害発症のリスクが高まった労働者に対し、問診などの方法により心身の健康状態を把握し、適切な指導を行うことです。
脳・心臓疾患の発症が長時間労働との関連性が強いという医学的知見をふまえ、病気の発症リスクを抑えるために、会社は長時間労働者に対して医師による面接指導を行わなければいけません。
また、面接指導の対象にならない労働者に対しても、脳・心臓疾患発症を予防するため面接指導やそれに準じた措置を講ずるように努めましょう。
過重労働にならないよう対策し健康で働きやすい職場にしよう!
過重労働は従業員の健康障害のリスクを高めるだけでなく、労働者の本来の能力を生かせないことにつながります。そのため過重労働を防止し対策を取ることは、労働者の健康を確保するための企業の努めといえるでしょう。
国においても「働き方改革」により、時間外労働・休日労働の上限時間が決められたり、年次有給休暇が義務化されたりして、労働者の健康を優先する取り組みがなされています。
企業は労働者の勤務体系や労働時間を正確に把握し、必要であれば措置を講じつつ、従業員が健康で快適に働ける、活気ある職場環境にできるよう努めましょう。
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