過重労働時間の基準は? 法改正後の36協定や労災、防止対策などを解説
長時間におよぶ時間外労働や度重なる休日労働、不規則な勤務などによって引き起こされる「過重労働」。
本記事では2019年4月の法改正を踏まえた上で、過重労働の労働時間の基準(36協定や労災の過労死ライン)、防止対策などについて詳しく解説します。
目次[非表示]
過重労働のリスクについては、以下の資料で詳しくご紹介しています。資料は無料でダウンロードができますので、ぜひお役立てください。
>>>無料資料ダウンロードはこちらから:お役立ち資料「過重労働のリスクとは?」
過重労働とは? 何時間働いたら該当するのか基準を解説
引用:厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー」各回共通のセミナー資料
「過重労働」とは、長時間におよぶ時間外労働や度重なる休日労働、不規則な勤務、頻繁な出張などによって、労働者の心身に大きな負荷がかかる働き方を指します。
「〇時間以上働くと過重労働とみなす」といった明確な法的基準はありませんが、過労死や過労自殺といった最悪の事態を回避するためにも、以下3つの基準を十分に理解しましょう。
- 「時間外・休日労働時間が月45時間超」は健康障害リスクが高まる
- 36協定「時間外労働の上限規制」
- 脳・心臓疾患および精神障害の労災認定基準(過労死ライン)
それぞれを詳しく解説します。
1.「時間外・休日労働時間が月45時間超」は健康障害リスクが高まる
引用:厚生労働省「過重労働による健康障害を防ぐために」
厚生労働省では医学的検討結果を踏まえ、「時間外・休日労働時間が月45時間を超えると、健康障害のリスクが徐々に高まる」と周知しています。
例えばLiuらによる研究では、
- 過去1ヶ月1か月間の時間外労働が約80時間以上では、月の時間外労働0時間に比べて心筋梗塞リスクが1.9倍
- 過去1年間の勤務日の睡眠時間が1日5時間以下では、6~8時間に比べて心筋梗塞リスクが2.5倍
という結果が出ました。睡眠不足や疲労蓄積が、重大な健康障害や事故・ケガを引き起こす確率を高めるため注意しなければなりません。
2.36協定の基準【2019年4月より時間外労働の上限規制あり】
引用:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」
法定労働時間を超えて働く場合や法定休日に労働させる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定(以下、36協定)を締結しなければなりません。
2019年4月の法改正以降、36協定で定めることができる時間外労働の上限規制が導入されました(詳細は下記参照)。
引用:厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック」
改正前は、特別条項を設けることで上限無く時間外労働を⾏わせることが可能でした。
しかし、改正後は臨時的な特別の事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられています。
厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」を必ず確認し、改正後の36協定を十分に理解した上で労働管理を行いましょう。
3.脳・心臓疾患および精神障害の労災認定基準(過労死ライン)
過重労働と関連する健康障害のなかでも、脳・心臓疾患を原因とする過労死や精神障害を原因とする自殺は深刻な社会問題となっています。
過労死や過労自殺を労災認定する基準の一つに「過労死ライン(病気や死亡に至るリスクが高まる時間外労働時間)」があり、事業者は十分に理解しなければなりません。
詳細は以下のとおりです。
引用:厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー」各回共通のセミナー資料
労災の認定基準については、以下の記事で詳しく解説しています。
また、2019年9月には「脳・心臓疾患の労災認定基準」が20年ぶりに改正されました。
働き方の多様化や職場環境の変化にともなって法改正が適宜おこなわれるため、人事労務担当者は定期的に情報収集をおこなうようにしましょう。
「脳・心臓疾患の労災認定基準」の改正ポイント(概要)
改正認定基準において特筆すべき点は、「労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定すること」です。
- 過労死ラインには至らなくともこれに近い時間外労働を行った場合、労働時間以外の負荷要因もあわせて評価し、労災認定する
- 労働時間以外の負荷要因に、「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「身体的負荷を伴う業務」などが新たに追加
- 交替制勤務や深夜勤務も負荷要因として検討し、評価する
「労働時間以外の負荷要因」についての具体例は多岐にわたるため、詳しくは参考サイトにてご確認ください。
※厚生労働省の参考サイト:
「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」
補足:「過重労働」と「長時間労働」の違いは?
過重労働について調べていると、長時間労働という言葉もよく見かけます。過重労働と長時間労働、それぞれの意味を理解した上で使い分けましょう。
長時間労働とは、文字通り「長い時間働いている状態」を意味します。
過重労働と同様に法的な時間の基準はありませんが、法定労働時間を大幅に上回ると、長時間労働とみなされることが多いです。
過重労働の場合、長時間労働のほかに不規則勤務、緊張を伴う勤務、頻回の出張・深夜業などの就労状況を鑑みて判断されます。つまり、過重労働とみなされる条件の一つに長時間労働があると理解するとよいでしょう。
長時間労働の基準や要因、対策については以下の記事でご紹介していますのでぜひご覧ください。
過重労働時間の計算方法・36協定締結の留意点
過重労働時間の計算方法は以下のとおりです。
引用:厚生労働省「過重労働による健康障害を防ぐために」
時間外労働が45時間以内に収まっていても、時間外労働=44時間、休⽇労働=56時間のように合計が⽉100時間以上になると法律違反となるため注意しましょう。
また、36協定の締結時には留意すべきことがいくつかあります。
- 協定する期間は「1日」「1ヶ月」「1年」に限る
- 過半数組合(ない場合は、過半数代表者)と書面で協定する
このほか厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」を参考にしながら、適切な36協定の締結および労働時間の適正把握に努めましょう。
「働き方改革関連法」により導入された3つの過重労働対策
時間外労働の上限規制以外の「年次有給休暇」「フレックスタイム制」「勤務間インターバル制度」についても、改正内容を把握しておきましょう。
義務化:年5日の年次有給休暇の確実な取得
厚生労働省の調べによると、年次有給休暇の取得率は1997年以降、ほとんどの年で50%以下が続いていました。 このため2019年4月の法改正により、全ての企業において「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務化されました(詳細は下記参照)。 引用:厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー」各回共通のセミナー資料 引用:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
そのほか以下の点にも留意してください。
- 5日を超える時季指定はできない
- 時季指定の対象労働者の範囲、時季指定の方法などを就業規則に記載する
- 労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存
任意選択:フレックスタイム制の拡充
フレックスタイム制とは、労働者が⽇々の始業・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることができる制度のことで、制度導入は任意となっています。 2019年4月の法改正により、清算期間の上限が「1ヶ月」から「3ヶ月」に延⻑されました。 引用:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
ただし清算期間が1ヶ月を超える場合には、
- 清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと
- 1ヶ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
上記2点を満たす必要があり、いずれかを超えた時間は時間外労働となります。 また、下記画像の内容にも留意しましょう。 引用:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
努力義務:勤務間インターバル制度の導入
2019年4月の法改正により、勤務間インターバル制度の導入が事業者の努力義務となりました(労働時間等設定改善法)。 勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保する仕組みをいいます。 引用:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」
制度の導入・運用方法についての詳細は、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」をご一読ください。
過重労働の現状と原因【過重労働防止対策の強化理由】
なぜ、これほどまでに過重労働防止対策の強化が進められているのでしょうか?
ここでは過重労働の現状、原因、そして会社が過重労働防止に取り組むメリットについて解説します。
過重労働の現状
過重労働の現状について、2つの要点を押さえましょう。
図表の出典元を含め、厚生労働省の「過労死等の防止のための対策に関する大綱」「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」を参考にしています。
現状①世界的にみても日本は労働時間・時間外労働が長い傾向にある
引用:厚生労働省「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
日本の年平均労働時間は欧州諸国より長く、2021年でいうと日本が1,607時間であるのに対し、ドイツは1,349時間です。
日本とドイツでは年間258時間もの差があり、1日8時間労働だと仮定すると年間で約32日(月間だと約2日)も多く働いているといえます。
引用:厚生労働省「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
さらに、週労働時間が49時間以上の者の割合(日本)は15.1%となっており、20人に3人が週9時間以上の時間外労働をしています。
世界的にみても日本は労働時間・時間外労働が長いため、意識的に防止対策を講じない限り、過重労働に繋がる可能性が高くなるでしょう。
現状②労災支給決定件数が増加! 自殺原因は「仕事疲れ」が最多
引用:厚生労働省「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
精神障害に係る労災支給決定件数は増加傾向にあり、2021年は629件でした。
10年前の平成23年と比較すると、約2倍も増加していることが分かります。
現状③勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者数の推移
引用:厚生労働省「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
さらに勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者数をみると「仕事疲れ 28.2%」が最多です。次いで「職場の人間関係 24.5%」となっています。
就業中の出来事を起因とした精神障害の発病、過労自殺を防ぐためにも、職場環境や就労環境の改善は必要不可欠です。
過重労働の原因は「仕事量」や「人員不足」にある
引用:厚生労働省「令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は53.3%(2021年)という結果が出ており、その具体的な内容をみると、「仕事の量 43.2%」「仕事の失敗、責任の発生等 33.7%」「仕事の質 33.6%」となっています。
引用:厚生労働省「令和2年版過労死等防止対策白書」
さらに所定外労働(残業)が生じる理由は、「業務量が多いため 57.0%」が最も多く、次いで「人員が不足しているため 40.4%」「仕事の繁閑の差が大きいため 30.7%」という結果となりました。
これらのデータから、「人員不足による業務量の過多」が過重労働の主な原因といえるでしょう。
会社が過重労働防止に取り組むメリット
過重労働が慢性化すれば、労働力の低下に繋がりかねません。過重労働の防止に努めると次のような効果が期待できます。
- 退職や休職による人材の損失を防げ、生産性が上がる
- 健康な労働者が増えることで、作業効率が高まる
- 健全な就労環境が社会的信用に繋がる
労働者が意欲的かつ健康的に働ける環境を整えた先に、企業の成長があるでしょう。
会社が行うべき過重労働の防止策
法律で義務化されている過重労働の防止対策を3つご紹介します。
対策①全ての労働者の労働時間を適正に把握する【義務】
2019年4月の法改正以降、事業者に対し、全ての労働者の労働時間を適正に把握することが義務づけられました(安衛法第66条の8の3、安衛則第52条の7の3第1項、第2項)。
引用:厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー」各回共通のセミナー資料
管理監督者や裁量労働制の適用者を含む全ての労働者が対象で、労働時間の記録は3年間保存してください。
労働時間に加え、労働者の業務量を把握し、多いようであれば部署内で調整するなど対策をおこないましょう。
また、労働時間が自己申告制となる副業や兼業、テレワークには配慮が必要です。例えばテレワークの場合、労働時間外におけるメール送付やシステムへのアクセスは事前許可制にするといった残業対策を講じましょう。
対策②衛生委員会や安全委員会の活用【一定規模以上の企業は義務】
衛生委員会・安全委員会とは、労働者の労働災害の原因や健康障害防止策などを協議する場です。以下の事業場では設置義務があります。
引用:厚生労働省「安全衛生委員会を設置しましょう」
労働者の意見を過重労働防止策に反映させるなど、衛生委員会や安全委員会を有効活用しながら事業場の実態に即した制度づくりを行いましょう。
安全委員会と衛生委員会を統合して開催する場合の「安全衛生委員会」については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
対策③医師による面接指導(産業医面談)【対象要件を満たせば義務】
引用:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」
長時間労働者への医師による面接指導(産業医面談)は、労安衛法第66条の8に基づき実施が義務づけられています。実施対象の要件はいくつかありますが、「時間外・休日労働が月80時間超」がその一つです。
事業者は、健康障害発症のリスクが高まった労働者に対し、問診その他の方法で面接指導を実施し、面接結果を踏まえた措置を講じる必要があります。
過重労働への対策としておこなわれた労働基準法の改正内容や、具体的な対策の実施方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
社内の意識改革をおこなう
長時間労働を良しとする風潮が社内に残っている場合は、意識改革をおこないましょう。管理職のみならず、従業員を含む全社で意識改革に臨むことが重要です。
みんなで「長時間働かなくても問題ない」という考え方になれば、周りを意識して定時を過ぎても帰れない人を減らせるでしょう。
外部から講師や専門家を呼んで、長時間労働や業務効率化、マネジメントに関する研修を実施するのが効果的です。
また、意識改革と同時に企業の仕組みを変えるのも大切です。残業時間ではなく業績によって評価されるような制度にして、残業時間を減らす工夫をすると良いでしょう。
労働者に、「本来の就業時間内に仕事を終わらせることで評価につながる」と思ってもらうのがポイントです。
ストレスチェックの実施も重要
厚生労働省の調べによると、メンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合は2021年で59.2%(前年比2.2%減)で、取組内容の多くは「ストレスチェックの実施」です。
しかし、常時50人以上の労働者がいる事業所はストレスチェックの実施義務がありますが、50人未満の事業所では「当面の間は努力義務」とされています。
過重労働の蔓延化による人材の損失・生産性の低下などのリスクを回避するためにも、事業規模を問わず、積極的にストレスチェックを行うことが望ましいです。
ストレスチェックの実施メリットや実施方法など、詳しくはこちらをご覧ください。
過重労働の基準や防止対策については法改正の情報収集を欠かさずに!
国を挙げて過重労働防止対策を強化しているため、人事労務担当者は法制度に変更がないか定期的に確認する必要があります。
過重労働のリスクについては、以下の資料で詳しくご紹介しています。
資料は無料でダウンロードができますので、ぜひお役立てください。
>>>無料資料ダウンロードはこちらから:お役立ち資料「過重労働のリスクとは?」
法改正が入ると、労働者の健康管理におけるデータ管理業務も変更・煩雑化し、業務負担が増える人事労務担当者も少なくありません。
健康管理システム「mediment(メディメント)」では、煩雑化したデータ管理に対する効率化サポートが可能です。
また、ストレスチェックや健康診断の結果データ分析・健康課題の自動抽出も行えます。お困りの際はぜひお問い合わせください。