ジェンダーハラスメントの実際と対策、具体例について解説
さまざまなハラスメントに関するニュースが飛び交う昨今、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメント以外にも「ジェンダーハラスメント」という性別を理由とするハラスメントや差別的扱いも問題とされています。今回はジェンダーハラスメントとはどのようなものなのか、事業主側として取り組むべき対策についてご紹介します。
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以下のお役立ち資料では、職場でできるジェンダーハラスメントを含むハラスメント対策について解説しています。ぜひ業務にお役立てください。
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ジェンダーハラスメントの基礎知識
まずはジェンダーハラスメントに関する基礎知識をご紹介します。
ジェンダーハラスメントの定義
ジェンダーハラスメントとは、性別役割分担意識に基づく冗談やからかい、嫌がらせ、強要を含むハラスメントや差別的言動のことです。
たとえば、女性に対する「女のくせに」「女らしくしろ」などの発言、男性に対する「男なのに〇〇できないのか」「男らしくしろ」などの言葉がけ、性別役割分業意識に基づく「家事・育児は女がするもの」「仕事を優先するのが男の役目」といった発言があげられます。
また、性別を理由に役割を決めつける行為もこれに該当します。例として、女性にお茶くみや来客対応を命じる一方で、男性にリーダーや残業を課すなどです。
さらに、姓で男性を呼び、愛称で女性を呼ぶなど、呼び方を区別することも問題視されています。
このようなジェンダーハラスメントは、従業員のモチベーションや企業イメージを損なうおそれがあるため、事業主側として注意が必要です。
なお、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数*2022」において、日本は146カ国中116位と先進国で最低レベルで、アジア諸国よりも低い結果となりました。
日本ではジェンダーギャップが依然として大きく、職場でのハラスメント、特にパワハラやジェンダーハラスメントが深刻な問題となっています。
*男女格差を表す指数。経済・教育・健康・政治の4分野で完全平等かを測る。
ジェンダーハラスメントに関する具体例
「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」によると、職場で受けたことのあるハラスメントでは「パワーハラスメント(パワハラ)」が27.6%と最も高く、次いで「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」8.5%、「ジェンダーハラスメント」4.2%となっています。
ジェンダーハラスメントでどのような行為を受けたのかは、「性別役割分担意識にもとづく冗談やからかい」が61.9%と最多でした。男女別では、「性別役割分担意識にもとづく嫌がらせ」を受けた男性が66.7%と女性の30.0%を大きく上回りました。
なお、ジェンダーハラスメントの行為者は「先輩」が50.0%と最も多くなっています。
具体例としては、以下のような言動が該当します。
- 仕事のプロジェクトで疑問点があったため、先輩に自分の主張や考えを伝えたところ、「女性のくせに意見を言うな」と言われた
- 自分のスケジュールやタスクが詰まっていて、さらに緊急の案件が出てきたため、上司に案件の調整を相談したら「こんなこともできないなんて男じゃない」と言われた
- プロジェクトメンバーに女性がひとりしかおらず、「○○ちゃん、○○さんにお茶持ってきて」と来客対応やお茶くみなどを命じられた
- 仕事を頑張りたいと話をしていると、「女性は家庭や育児を優先しろ」「まだ結婚しないの?」「子どもは?」などと上司や先輩から言われた
『男女正社員対象 ダイバーシティ推進状況調査(2020年度)』によると、総合職の男女ともに、重要な仕事は「男性が担当することが多い」と認識しています。特に女性の約6割がそう考えており、2年前の調査と比べて改善がみられません。
一方で、女性の昇格・昇進に関しては、「男性の方が昇進しやすい」と考える割合が依然として6割を超えています。
また、上司による女性部下の育成については、総合職女性において「同様に育成している」と答えた割合がやや高まったものの、「部下の育成に重点を置いていない」割合も高まっています。
このように、業務分担や昇進、育成面で性別による格差が根強く残されており、管理職のアンコンシャスバイアス*の存在が示唆されています。一方で、サービス業や建設業では、育成の男女均等度と就業継続可能性の両面で改善の兆しがみられました。
*無意識の偏見や思い込み
ジェンダーハラスメントが起こりやすい職場
ジェンダーハラスメントが起こりやすい要因として、以下の点があげられます。
- 従業員の男女比の偏り
男性が多い職場や女性が多い職場で、少数派の異性が配属された場合、固定観念から性別役割を強いられる可能性がある。たとえば、女性に「お茶くみ」、男性に「力仕事」を期待されるなど - ジェンダーに関する意識の低さ
性別による役割分担意識が根強く残っている世代と、多様性を重んじる新しい世代との間で、ジェンダーに対する認識のギャップが生じる - ジェンダーに対する意識の差や育った環境や世代の違い
LGBTQ+などに対する理解度が異なる。ハラスメントに対する共通認識を持ちにくい - 管理職が特定の性別に偏っている
昇進・昇給で不利な扱いを受ける性別がいれば、その性別への意識が希薄になりがちになる - 性差に関する理解不足
ハラスメントについての理解が不十分な人がいれば、不適切な言動につながる恐れがある
また、職場の男女構成や、従業員のジェンダーに対する意識の違いがハラスメントにつながる大きな要因となっています。
<ジェンダーギャップが大きい職業>
女性の割合が1割以下の職業 |
男性の割合が1割以下の職業 |
航空機操縦士、大工、消防員、金属・機械・電気・IT・建築・土木技術関連職など |
歯科衛生士、保育士、栄養士、看護師など |
ジェンダーハラスメントとその他のハラスメントとの違い
ジェンダーハラスメントとは、性別に関する嫌がらせや差別のことを指します。一方、セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、性的な言動のことです。たとえば、相手の容姿について性的な発言をする、不必要に身体を触ることなどがセクハラに該当します。
SOGI(ソジ)ハラスメントとは、性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)を理由とするハラスメントのことです。LGBTなどの性的マイノリティに限らず、誰に対してもSOGIに基づく差別的な発言や行為はSOGIハラスメントとなります。
具体的には、「レズ」「ホモ」「オカマ」などの差別的な言葉の使用や、本人の了解なく性的指向や性自認を他人に暴露する「アウティング」などがあげられます。
セクハラとジェンダーハラスメントは、どちらも性別に関連するハラスメントであり、区別が難しい側面もありますが、セクハラは性的な側面に着目するのに対し、ジェンダーハラスメントは性別役割意識に基づく嫌がらせを指します。
一方、SOGIハラスメントは、性的指向や性自認を理由とするハラスメントであり、別の概念となります。
ジェンダーハラスメントに対して事業主側としてできること
ジェンダーハラスメントに対して事業主側としてできることにはどのようなものがあるか、まとめました。
ハラスメントに関して必要な配慮や対策
職場におけるハラスメントを防止するためには、以下の取り組みが重要です。
-
ハラスメント禁止規定の整備
就業規則などに、ハラスメントの定義と具体的な禁止行為例、違反時の懲戒処分を明記します。この規定を職場内外に公表することで、ハラスメントを許さない姿勢を内外に示すことになります。 -
規定の周知と意識啓発
策定した禁止規定を社員に徹底周知するため、全従業員を対象とした定期的な研修を実施します。ハラスメントの概念や具体例、被害者心理への理解を深め、言動に注意を払うよう促します。研修内容は社内報やイントラネットで常時閲覧できるよう環境を整備し、継続的な意識啓発を図ります。 -
相談窓口の設置と適切な対応
法令で義務付けられた相談窓口を社内外に設置し、その存在を社員に広く周知します。相談担当者には、被害者心理の理解やプライバシー保護など、適切な対応ができるよう十分な研修をおこないます。労使(労働者と使用者)で構成する委員会の設置も有効です。相談者に不利益が及ばないよう配慮し、緊急時には職場から離れる権利を保障する必要があります。 -
外部への情報発信
社外の第三者に対するハラスメント防止の観点から、社内規定を企業ホームページなどで公開することが求められています。このような取り組みは、企業の社会的評価の向上にもつながります。
職場におけるハラスメント防止には、経営トップのリーダーシップのもと、規定の整備、研修による意識啓発、適切な相談体制の構築、対外的な情報発信など、多角的なアプローチが不可欠です。労使が一体となった継続的な取り組みが何より重要です。
ジェンダーハラスメントに関する具体策
ジェンダーハラスメントは、固定的な性別役割観に基づく差別的言動であり、特に女性が被害に遭いやすいとされています。企業がハラスメント対策を講じる際は、以下の点にジェンダーハラスメント防止の視点を取り入れる必要があります。
- 就業規則などでジェンダーハラスメントを具体的に禁止し、固定観念を払しょくする研修を実施する。
- 業務分担や社内慣習について、ジェンダーに基づく差別的要素がないかチェックし、是正する。
- 性別に関わらず仕事と家庭の両立ができる働き方を推進し、平等な組織文化を育成する。
- 女性の管理職登用など、経営におけるジェンダー平等を実現することで、ハラスメントのない職場環境を作る。
また、ハラスメント発生時には被害者のプライバシー保護と不利益防止を図りつつ、迅速な事実確認と加害者処分、再発防止策を講じる必要があります。社員一人ひとりが報告しやすい風通しの良い組織風土を醸成することも重要です。
ジェンダー視点に基づくハラスメント対策は、単に法令遵守にとどまらず、働きやすい職場づくりや企業価値向上につながるでしょう。
ジェンダーハラスメントに関する労働裁判例
ジェンダー関連労働裁判例集より、実際の事例についてもご紹介します。
賃金、昇格に関する事例①
【プロッズ(賃金等請求)事件】
商業デザイン会社に勤務していた女性従業員(原告)が、以下の点で会社(被告)から性別を理由とする不利な取り扱いを受けたと主張し、差額の支払いなどを求めました。
- デザインディレクター職相当の賃金が支払われなかった
- 初任給が男性社員より低かった
しかし、裁判所は「原告と同種の経験と職務内容を持つ男性従業員が存在したことを認めることができない」として、処遇の差が男女差別に基づくものだと評価できないと判断しました。
なお、この他にも時間外割増賃金、パワハラによる昇給差別、賞与不支給に関する人事権濫用などが争点となっていました(原告一部勝訴、控訴)。
男女差別の有無を判断するには、同等の従業員を比較対象とすべきかが重要な論点となります。企業には公正な評価・処遇が求められており、こうした訴訟リスクを防ぐためにも適切な人事労務管理が不可欠です。
賃金、昇格に関する事例②
【巴機械サービス事件】
被告会社のコース別人事制度(一般職と総合職で給与体系が異なる)について、以下の3点が問題となった事件です。
- コース別人事制度自体が男女同一賃金の原則(労基法4条)に反するか
- 原告ら女性を一般職に振り分けたことが均等法違反か
- 総合職への転換を認めなかったことが均等法違反か
裁判所は次のように判断しました。
- コース別人事制度自体は性別によるものではないため、直ちに労基法違反とはいえない。
- 原告らの採用時の一般職振り分けには性差別は認められない。
- しかし、総合職転換の希望に会社が具体的な対応をせず、「女性は総合職なし」と発言したことは、均等法違反(間接差別)に当たる。
そのため、総合職地位確認や差額賃金請求は認められなかったものの、会社の違法な差別により被った精神的苦痛に対し、原告らに慰謝料100万円が支払われることになりました。
つまり、採用・配置自体は適法とされましたが、総合職への転換機会が不当に制限された点が間接差別と判断された事案です。
ジェンダーに配慮したハラスメント対策を
性別にかかわらず、全ての従業員がハラスメントから守られ、公平な機会が与えられる職場こそが、活力ある組織を作り上げる原動力となります。ジェンダーに捉われない包括的なハラスメント対策が企業の発展につながります。
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