パワーハラスメントとは?6つの類型と具体的な防止策
改正労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法の施行により、企業にはパワーハラスメント(パワハラ)防止策を講じることが義務付けられています。人事労務担当者は、どのような行為がパワハラに該当するのかを理解しておく必要があるでしょう。
本記事では、パワハラの定義や行為の具体例とあわせて、予防策・再発防止策もご紹介します。
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職場でのハラスメントの現状や、事業主が取り組める防止策については以下の資料で詳しく解説しています。ぜひご活用ください。
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パワーハラスメント(パワハラ)とは
パワーハラスメント(パワハラ)とは、労働施策総合推進法にて次の3つの要素を満たすものと定義づけられています。
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この3つの要素を満たす場合、上司から部下におこなうものだけでなく、先輩と後輩などの同僚間、あるいは部下から上司に対してであってもパワーハラスメントに該当します。
一方で、個人によっては不満に感じる指示や指導があっても、業務の適切な範囲内とみられる場合にはパワーハラスメントには該当しません。
厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、パワーハラスメントの経験者は約3人に1人にのぼるといいます。
パワーハラスメントの相談件数も増加傾向にあります。厚生労働省の「令和4年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、パートタイム・有期雇用労働法及び育児・介護休業法に関する相談、是正指導、紛争解決の援助の状況について」によれば、2020年が18,363件、2021年が23,366件、2022年には50,840件と大幅に増加しているとのことです。
引用:厚生労働省「令和4 年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、パートタイム・有期雇用労働法及び育児・介護休業法に 関する相談、是正指導、紛争解決の援助の状況について」
パワハラの認知拡大にともなって、被害相談は今後も増加する可能性があります。
パワハラ防止措置の義務化について
パワーハラスメントに関する相談が増加する中で、2019年5月に成立した「改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」により、企業にはパワーハラスメントを防止する措置が義務化されました。
大企業だけでなく中小企業にもパワハラ防止措置が義務づけられており、企業規模によらず全ての事業場において対策に取り組むことが求められています。
また、パワハラ防止法に違反した場合の罰則は設けられていないものの、問題があるとみなされた企業に対しては行政からの指導や是正勧告が入る可能性があるだけでなく、是正勧告に従わない場合は企業名が公表されることがあります。
さらには、行政からパワーハラスメントに対する措置と実施状況について報告を求められた際に、報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には20万円以下の過料が科されるという罰則が設けられている点にも注意が必要です。
パワハラ防止法についての詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。
パワーハラスメント6つの類型と具体例
職場におけるパワーハラスメントには、次の6つの類型があります。
<パワーハラスメントの6つの類型>
身体的な攻撃 |
殴打や足蹴り、相手に物を投げつけるなどの行為 |
精神的な攻撃 |
人格を否定するような言動や長時間にわたる厳しい叱責などの行為 |
人間関係からの切り離し |
長期間にわたる別室への隔離や、集団での無視などの行為 |
過大な要求 |
肉体的苦痛をともなう過酷な環境下で、長期間にわたり勤務に直接関係のない作業をおこなわせるなどの行為 |
過小な要求 |
仕事を与えない、能力に適さない業務を遂行させるなどの行為 |
個の侵害 |
継続的な監視や個人情報の暴露などの行為 |
それぞれの類型で、具体的にどのような行為がパワハラにあたるのかについては次項より説明します。
1.身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、殴る・蹴る、物を投げつけるなどの直接的な暴力行為のことです。職場でこのような暴力行為があった場合は、パワーハラスメントとみなされます。
ただし、誤ってぶつかってしまったなどのケースはパワーハラスメントには該当しないと考えられます。
2.精神的な攻撃
精神的な攻撃とは、人格を否定するような言動や長時間の叱責、威圧的な叱責などのことです。
たとえば、業務中に長時間にわたり必要以上に厳しく叱り続ける、他の社員がいる前で大声を出して怒鳴る、複数人あてのメールに個人を攻撃するような内容を含めるなどの行為はパワーハラスメントに該当すると考えられます。
一方で、重大な問題行動があった社員や、遅刻などの問題が改善されない社員への一定程度の強い注意はパワーハラスメントに該当しないと考えられます。
3.人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しとは、長期間別室に隔離したり、自宅研修をさせたり、仕事から外したりする行為のことです。また、社員による集団での無視も人間関係からの切り離しにあたります。
ただし、人材育成を目的とした短期間の別室での教育や、懲戒処分を受けた社員を通常業務に復帰させるために一時的に別室で必要な研修を受けさせるなどのケースはパワーハラスメントに該当しないと考えられます。
4.過大な要求
過大な要求とは、長期間過酷な環境下で勤務に直接関係のない作業をさせたり、教育をせずに対応できないレベルの目標を課して達成できない場合に激しく叱責するなどの行為のことです。上司が部下に対して、私的な雑用を強制的におこなわせるといった行為も過大な要求にあたります。一方で、育成のために能力よりも少し高いレベルの業務を任せたり、繁忙期に業務量が増えたりするような場合はパワーハラスメントに該当しないと考えられます。
5.過小な要求
過小な要求とは、管理職を退職させるために誰でもできる業務にあたらせたり、社員に嫌がらせとして仕事を与えなかったりなどの行為のことです。
社員の能力に対して、レベルの低すぎる業務にあたらせる行為は過小な要求にあたります。ただし、各個人の能力に応じて業務内容や業務量を軽減するケースは、パワーハラスメントに該当しないと考えられます。
6.個の侵害
個の侵害とは、社員を職場外で継続的に監視したり、私物の写真を勝手に撮影したりする行為や、性自認・病歴などの個人情報を他の社員に暴露したりする行為のことです。社員への配慮を目的として、家族の状況をヒアリングする、本人の了承のもと必要な範囲で人事労務の担当者に伝達するなどはパワーハラスメントに該当しないと考えられます。
パワーハラスメントが企業に及ぼす影響
職場でパワハラが発生することで、企業にはどのような影響があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
労働者への影響
パワーハラスメントを受けた労働者は、身体的な攻撃やプライバシー、名誉、尊厳の侵害などによりパフォーマンスを十分に発揮できなくなります。日常的なパワーハラスメントが心身に悪影響を及ぼし、PTSDなどの後遺症が残ることも考えられます。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(2020年)」によると、パワハラを受けたと感じた人は怒りや不安を感じるほか、仕事に対する意欲が減退する、眠れなくなる、通院するなどの影響を受けていることがわかっています。
これらのことから、パワハラによって、生産性が低下する可能性があるだけでなく、人材の定着率にも影響があらわれると考えられます。
職場への影響
パワーハラスメントが起きた部署やフロアでは、モラルの低下や職場秩序の乱れを起因として職場および当事者の同僚などの勤労意欲や風紀の低下が発生する可能性があります。なお、パワハラにおける職場には、業務をおこなうオフィスや現場だけでなく、勤務時間外の懇親の場や社員寮、通勤中なども含まれます。
パワーハラスメントのある職場では、これらのことから休職や退職が発生することもあるでしょう。パワーハラスメントは、職場全体の生産性が低下するだけでなく、不正の発生などのリスクも高まります。
企業への影響
パワーハラスメントは、経営にも大きなリスクになることのある事柄です。場合によっては、企業全体に広く影響が及ぶケースもあります。
社員からの訴訟によって損害賠償による金銭的な損失が生じる可能性があるほか、労働災害の申請があれば労働監督署の調査が入る可能性もあります。ハラスメントを起因として精神疾患が発症した場合には、業務災害と認定され労災給付の対象となる点も理解しておきたいところです。
これらを通じて、企業イメージが低下すれば、採用にも影響を及ぼし優秀人材の採用が困難になってしまうこともあるでしょう。
労災の認定基準については、以下の記事で詳しく解説しています。
過去に発生したパワーハラスメントの事例
ここからは、実際に発生したパワーハラスメントの事例をご紹介します。どのような事例がパワハラとされるのか、「あかるい職場応援団」の裁判例をもとに見ていきましょう。
上司などからによる罵倒やのけ者行為が不法行為と認められた例
上司などがある社員に対して、社内で常時監視するような行為や新人を近づけさせない、挨拶をしても返さないなどのいじめが不法行為にあたると認められた例です。
その他にも、パワーハラスメントの被害者が異動命令を拒否したために「会社がつぶれる」などの言葉を投げかけられうつ状態となり、さらにその後、退職強要を受けていました。
これらのいじめや退職強要を受けたうえ、理由なく退職させられたためにうつ状態や腰痛が起こったとして慰謝料の支払いを請求する裁判に発展しています。裁判では、上司らによる行為が不法行為に当たるとして、慰謝料の請求が認められています。
会社役員によるパワハラや暴行が自殺に因果関係ありとされ高額賠償が命じられた例
会社役員2名から受けた日常的な暴行や退職勧奨が、パワーハラスメント被害者の自殺に因果関係があるとして高額の損害賠償が命じられた例です。
この事例では、仕事のミスが発生すると大声で怒鳴る、頭を叩く、殴る・蹴るなどの暴力行為がおこなわれていました。また、仕事上のミスの損害を弁償するように求め「支払わなければ家族に支払ってもらう」、「会社をやめたければ7,000万円を支払え」など述べていたこともパワーハラスメントと認められています。
この事例では、自殺とパワーハラスメントの因果関係が認められ、死亡した社員が今後得られたであろう収入相当額と慰謝料など、合計5,400万円の損害賠償が命じられています。
パワーハラスメントが起こりやすい職場環境
このような事例を発生させないために、パワーハラスメントが発生しやすい職場環境を理解しておきましょう。
パワーハラスメントが発生しやすい職場環境には、次のような特徴があります。
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このような特徴が自社にもあると感じた場合には、パワハラを発生させないための予防策の実施を検討しましょう。
パワーハラスメントを発生させないための防止策
さまざまな影響を及ぼすパワーハラスメントを防止するために、企業はどのような対策を講じればよいのか、次項より解説します。
パワハラ防止を目的とした研修を実施する
パワーハラスメント防止を目的とした研修を、管理職と社員それぞれに向けて実施しましょう。厚生労働省が用意する研修の雛形を用いれば、コストをかけない教育の実施も可能です。
それ以外では、外部がおこなうパワーハラスメント防止研修を受講させることも有効です。自社での教育が難しい場合は、より詳細な研修を望む場合には、外部の研修の利用を検討してみましょう。
相談窓口を設置する
相談窓口の設置は、パワーハラスメントに発展しそうな事案への迅速な対応につながります。社内に相談窓口を設置する場合は、人事労務やコンプライアンス部門、産業医などが対応にあたるとよいでしょう。
自社での設置が難しい場合には、外部機関を利用する方法もあります。企業のハラスメント相談窓口を代行する企業に委託することで、自社の人的リソースを節約しながら適切な対応をとれるようになります。
啓蒙活動をする
パワーハラスメントが与える影響や、自社のパワハラに関する方針やルール、相談窓口の利用方法などを周知することも予防策として有効です。パワハラ防止のためのポスターの掲示やトップメッセージ、説明会など、積極的な周知活動を継続しておこない、社内への浸透を図りましょう。
再発防止策を講じることも重要
予防策だけでなく、再発防止策を講じることも重要です。前述した防止策の継続的な取り組みは、再発防止にもつながります。
実際にパワーハラスメントが発生した場合は、対応後の職場環境が安全かつ快適な状態かを確認し、行為者が再度問題を起こすリスクがないかをチェックするとともに、新たな行為者が発生しない環境の構築に努めましょう。
具体的には、行為者への再発防止研修や事故発生時のメッセージ発信などが考えられます。社内事例をもとに、防止策のブラッシュアップなど取り組みを見直すことも大切です。
職場環境改善のためには、職場内のコミュニケーションの活性化や、長時間労働の是正などが必要になるでしょう。
パワーハラスメントのない職場を目指して
直接的な暴力だけでなく、監視や無視、暴言などの職場でのいじめ行為などもパワーハラスメントに該当します。パワーハラスメントは社員の業務パフォーマンスに影響するだけでなく、企業イメージの低下や訴訟リスクにつながるものです。
自社でパワーハラスメントが発生しないよう、人事労務担当者はパワハラ防止策を検討・実施し、適宜見直しを図りながら継続的にパワハラの予防に努めましょう。
職場でのハラスメントの現状や、事業主が取り組める防止策については以下の資料で詳しく解説しています。ぜひご活用ください。