モラハラとは?職場におけるモラハラの特徴や具体例、対策方法を解説
モラハラ(モラルハラスメント)とは、言葉や態度で他人の人格や尊厳を傷つける言動のことです。職場でのモラハラは、休職や退職につながるほか、企業イメージの低下も招くリスクがあります。
本記事では、職場におけるモラハラとは何か、またその具体例や対策方法について解説します。
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職場でのハラスメントの現状や、事業主が取り組める防止策については以下の資料で詳しく解説しています。ぜひご活用ください。
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職場におけるモラハラ(モラルハラスメント)とは
職場におけるモラルハラスメントとは、労働者の人格や尊厳を侵害し、肉体的・精神的な苦痛を与え、退職に追い込んだり、職場の雰囲気を損なったりすることを指します。これは、言葉や態度、身振り、文書などによっておこなわれます。
フランスでは、労働法典によって「労働者の権利及び尊厳を侵害し身体的もしくは精神的健康を損なわしめ、またその職業的将来を危うくさせる恐れのある、労働条件の毀損を目的とし、またはそのような結果をもたらすハラスメントの反復した行為」と定義づけられています。
パワハラやセクハラとの違い
モラハラだけでなく、ハラスメントにはいくつかの種類があります。ここでは、代表的なハラスメントであるパワハラやセクハラと、モラハラの違いについて説明します。
モラハラとパワハラの違い
パワハラ(パワーハラスメント)とは、
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
の3つの要素を満たすものと労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)にて定義づけられています。
▼パワハラ防止法について知りたい方はこちら
つまりパワハラも、モラハラと同様に暴力や言動、態度などで労働者を傷つける行為を指しています。ただし、パワハラには前述した明確な定義がある一方で、職場におけるモラハラについては日本の法によって定められた定義がありません。
フランスの労働法典にあるモラハラの定義から、日本でいうパワハラはモラハラとほぼ同様の意味を持つとも考えられるでしょう。
モラハラとセクハラの違い
セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、「職場においておこなわれる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること」と男女雇用機会均等法にて定義されています。
▼男女雇用機会均等法について知りたい方はこちら
セクハラでは、パワハラのような威圧的な態度や暴力、言動ではなく、性的な言動を起因として労働者に不利益が生じたり、就業環境に影響が出たりすることを指します。なお、異性に限らず同性にセクハラがおこなわれるケースもあります。
職場でのモラハラの具体例
では、どのようなものが職場でのモラハラにあたるのか、具体的に見ていきましょう。
噂を流すなどの中傷行為
多数の社員に送信するメールに、特定の個人を攻撃するような内容や噂を記載して送る行為はモラハラにあたります。「〇〇さんは使えない」などの悪口もモラハラに該当します。
特定の個人を孤立させる行為
特定の個人が職場内で孤立するように仕向ける行為もモラハラに該当します。特定の個人に対してあいさつをされても返さないなどの無視をする、業務から外し隔離された場所で長時間業務にあたらせるなどの行為も、モラハラに該当する可能性があるため注意しましょう。
過小あるいは過大な業務にあたらせる行為
本人の能力からみて、過小あるいは過大な業務にあたらせる行為はモラハラに該当します。たとえば、管理職に誰でも遂行できるような業務をおこなわせたり、業務に関係のない私的な雑用の処理を強制的におこなわせたりする行為がこれにあたります。
組織権限の濫用
労働条件や契約を自分勝手に変更するなど、組織権限を濫用した嫌がらせ行為もモラハラに該当します。労働契約の変更は、労働者と使用者が対等の立場で、合意に基づいておこなうものと労働契約法で規定されています。
たとえば、役職者に対して十分な説明がないまま賃金減額を決定し、それを了承しない役職者に対して減額を了承するよう強く求めるなどの行為は、モラハラに該当する可能性があります。
必要以上の監視や干渉
特定の個人を職場外で継続的に監視する、私物の写真を了承なく勝手に撮影するなどの行為もモラハラにあたります。プライベートに関する情報をしつこく聞き出そうとするような過度な干渉もモラハラに該当するでしょう。
暴力や脅迫にあたる行為
殴る・蹴るなどの暴力行為や、脅迫にあたる行為もモラハラです。仕事でミスをした際に殴る・蹴るの暴行を加える、「言うことを聞かなければプライベートに関する情報を暴露する」といった脅迫行為もモラハラに該当すると考えられます。
実際にあったモラハラの事例
前述したとおり、モラハラはパワハラとほぼ同様の意味を持つ言葉です。よって、日本におけるパワハラ関連の裁判事例の一部には、モラハラの事例と思われるものもあります。ここからは、「あかるい職場応援団」に掲載されている裁判例から、職場でのモラハラにあたると考えられるパワハラの裁判事例をご紹介します。
職場でのいじめが会社にも責任があるとされた事例
先輩社員が後輩に対して悪質ないじめを繰り返したことが、会社にも責任があるとされいじめた本人と企業の両者に損害賠償が命じられた事例です。
この事例では、医療機関にて先輩社員がおこなった後輩社員を服従させるような言動や行動によって、いじめを受けた職員が自殺に追い込まれてしまいました。具体的には、勤務時間終了後に朝まで飲み会に付き合わされる、先輩社員の肩もみや洗車などの雑用を一方的に命じられる、一気飲みを強いて急性アルコール中毒になってしまうなどのいじめ行為があったことがわかっています。
いじめを受けた職員が自殺したのち、遺族である両親が先輩社員と医療機関に対し民事損害賠償請求を提起し、3年近く継続したいじめ行為に対して認識が可能であったにもかかわらず、いじめを防止する措置をとらなかったとして医療機関側にも損害賠償が命じられました。
同僚社員によるいじめによって精神障害を発症したと認められた事例
複数の同僚社員からの陰湿で執拗ないじめによって精神障害が発症したと認められ、労働基準監督署長がした療養補償給付不支給処分の取り消しが認められた事例です。
この事例では、同僚社員7名から女性に対して聞こえるように非難され、悪口を言われるなどの行為があったほか、別の男性社員から飛び蹴りのまねや殴るまねを複数回されるなど、さまざまないじめ行為がありました。
これらのいじめは集団で、かつ長期間にわたっておこなわれており、それに対して企業側からの支援策がとられなかったことも不安障害や抑うつ状態に関係していると認められています。
この裁判は、労働基準監督署長の不支給処分の取り消しを求める行政訴訟であったことから、損害賠償は発生していません。しかし、この事例同様にいじめや嫌がらせを認識しながらも企業側が何ら措置をとらない場合には、民事損害賠償請求訴訟を起こされる可能性があります。
モラハラをしやすい人・されやすい人の特徴
モラハラには、しやすい人、されやすい人がいます。それぞれにどのような特徴があるのか見ていきましょう。
モラハラをしやすい人の特徴
モラハラをしやすい人には、次のような特徴があります。
・他人からどう思われるかを気にする |
これらの特徴に当てはまるものが複数ある場合、モラハラの行為者(加害者)になってしまうリスクがあるといえるでしょう。
モラハラをされやすい人の特徴
また、モラハラをされやすい人も存在しています。とはいえ、モラハラをされやすい人はその人自身が悪いわけではありません。しかし、モラハラをされやすい人は良心的で罪悪感を持ちやすいために、モラハラをされると「自分が悪いのでは」と考えてしまう傾向があります。
モラハラをされやすい人には、その他に次のような特徴があります。
・モラハラをされるのは、自分の能力や努力に問題があるからだと思ってしまう |
モラハラが職場に及ぼす影響
職場でモラハラが発生すると、企業には次のような負の影響があらわれます。
離職率の上昇
モラハラは、ときに精神疾患の発症やその他身体的不調などを引き起こす可能性があるものです。モラハラによる不調によって、休職や退職に追い込まれるケースもあるでしょう。職場のモラハラの放置は、離職率の上昇をもたらしてしまう可能性があります。
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生産性の低下
モラハラの行為者が、被害者を攻撃するために円滑な業務を阻害する行動をとることで、職場全体の生産性が低下してしまうことがあります。また、モラハラの被害者が、モラハラによる心身への影響によって業務パフォーマンスを落としてしまうこともあるでしょう。
さらには、噂や悪口が蔓延することで職場環境が悪化し、モラハラ当事者以外の業務パフォーマンスが低下するリスクも考えられます。
企業イメージの低下
前述したモラハラの事例のように、モラハラを原因として会社が訴えられることも考えられます。裁判によってモラハラがあったことが広まれば、企業イメージが低下してしまうでしょう。また、企業イメージの低下は採用にも悪影響を及ぼします。企業イメージ低下により、優秀人材の確保が困難になる可能性があります。
職場におけるモラハラの予防策
モラハラ当事者だけでなく、企業全体にも影響を及ぼす職場でのモラハラを防ぐには、具体的にどのような対策を講じれば良いのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
モラハラ研修の実施
職場におけるモラハラを予防するには、各個人がモラハラとは何かを知り、そのような行動をとらないように働きかけることが大切です。そのために、管理職をはじめとして労働者に広くモラハラに関する研修を実施しましょう。
予防のためには、モラハラ研修の継続的な実施が重要です。一度だけでなく、定期的に実施するようにしましょう。
社員への情報提供や啓発活動
モラハラに関する各種情報を社員に提供する、モラハラに関する啓発活動を継続的に実施することも予防策として有効です。
情報提供については、モラハラチェックリストやモラハラへの対策法を配布する方法が考えられます。啓発活動では、ポスターの掲示などだけでなく、モラハラについて社内報に掲載するなどして継続的に取り組んでいきましょう。
相談窓口の設置
モラハラに関する相談窓口を設置する方法もあります。相談窓口は社員が相談しやすいよう、「モラハラかもしれない」事例でも相談が可能であることなどを広く周知すると良いでしょう。
社内に相談窓口を設置する場合には、管理職や社員を相談員に選任する方法や、人事労務部門やコンプライアンス部門、産業医、カウンセラー、労働組合を担当に置く方法があります。
相談窓口業務を外部に設置する場合には、弁護士や社会保険労務士、ハラスメント対策のコンサルティング会社、メンタルヘルスや健康相談などの相談窓口を代行する企業に委託する方法があります。
モラハラが起きたときの対応策
これら予防策に努めていても、モラハラが発生してしまうことはあります。万が一モラハラが発生してしまった際でも、迅速かつ適切に対処できるよう、モラハラが発生した場合の対応策を事前に定めておくことをおすすめします。
まず、モラハラに関する相談があった場合には、すぐに事実確認をおこないます。相談者が録音データや日記などの証拠を有している場合には、それらを提出してもらいましょう。
あわせて、相談者への心のケアも大切です。
モラハラの事実が確認できたときには、モラハラの行為者と相談者それぞれにとるべき措置を検討します。措置を実施したあとには、同様の事例が発生しないように、事例をもとに再発防止策を検討しましょう。
快適な職場環境をつくるためにモラハラ対策を
暴言や暴力、悪口、嫌がらせなどのいじめ行為は、被害者の心身に悪影響を及ぼすだけでなく、職場全体の生産性の低下や離職を招くリスクのあるものです。
人事労務担当者は、職場にモラハラが起こらないよう予防策を講じるとともに、発生してしまった際の対応策を事前に定め、迅速かつ適切な対応がとれる体制を構築しておきましょう。
モラハラ研修の実施や相談窓口の設置が難しい場合には、外部に委託することも可能です。自社のリソースを鑑みながら、無理なく継続的に予防策を実施できるよう施策を検討してみましょう。
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