健康診断を福利厚生費にする「3つの要件」をチェック!人間ドックについても解説
企業が、従業員の健康診断費用を福利厚生費として経費計上することは可能です。ただし、要件があります。
健康診断実施後に「要件を満たしていなくて福利厚生費にできない!」なんてことにならないように、事前に要件を確認するのがおすすめです。
また、少し高額な人間ドックなども福利厚生費にできるのか、対象の範囲なども確認しましょう。
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企業の健康診断費用の勘定科目は「福利厚生費」
常時使用する従業員に定期的に健康診断を受けさせることは、労働安全衛生法第66条において雇用主の義務とされています。健康診断の費用負担については法令に定められていませんが、厚生労働省は「事業所に義務付けられている以上企業が負担すべき」としています。
そのため、ほとんどの企業が健康診断の費用を負担しているでしょう。
企業が負担した健康診断の費用は、経済的利益の提供であるにもかかわらず、給与でなく「福利厚生費」として計上が可能です。
「企業」が負担した健康診断費用は「福利厚生費」
原則としては、企業が負担した健康診断費用は役員・従業員への経済的利益の提供であり、給与等に該当します。
しかし健康診断が企業に義務付けられていることを鑑みて、給与課税として扱う必要はなく、福利厚生費としての計上が認められているのです。
もちろんすべての費用が対象ではなく、必要な要件を満たしていないと福利厚生費にすることはできません。節税のために、健康診断実施前には要件を必ず確認しましょう。
【補足】「個人事業主」は従業員の費用だけが「福利厚生費」にできる
補足ですが、個人事業主の場合は企業と異なり、すべてを福利厚生費にすることはできません。個人事業主の健康診断費用の経理処理は以下のようになります。
- 個人事業主本人 :経費計上できない
- 青色事業専従者の家族:経費計上できない
- 従業員(パート・アルバイト含):福利厚生費として経費計上できる
個人事業主の場合、事業主本人や家族には健康診断受診が義務付けられていないため、健康診断費用を福利厚生費にすることはできません。
雇っている従業員がいる場合は、企業と同じく従業員に健康診断を受けさせることは義務となります。そのため、従業員の健康診断費用に限り福利厚生費としての経費計上が可能です。
健康診断を福利厚生費にするための3つの要件
企業が負担した健康診断費用は福利厚生費にできますが、要件を満たしている必要があります。
要件を満たさない場合は福利厚生費にできないので、注意が必要です。事前に確認しておきましょう。
1.対象者全員が受診できる体制であること
健康診断を福利厚生費として計上できる1つ目の要件は、まずは「対象者全員が受診できる体制であること」です。
健康診断の対象者とは、正社員だけでなく、正社員の週の所定労働時間の 3/4 以上働くパート・アルバイトも含まれます。
また週の所定労働時間の 1/2 以上 3/4 未満働くパートタイム労働者に対しても「健康診断の実施が望ましい」とされています。
必ず自社従業員の対象者を確認し、全員が漏れなく受診できる体制を整えましょう。
また、受診者に差が出ないことも要件のひとつになります。例えば一部の役員だけに高額な検査が準備されている、など役職などで差が出ないように、すべての従業員に一律の検査を計画してください(従業員自身が自費でオプションを付けることは問題ありません)。
ただし健康管理の概念から、「〇〇歳以上」など、年齢による区分は問題ないとされています。必要であれば、年齢で区切って検査項目を調整しましょう。
2.費用全額を企業から医療機関へ直接支払っていること
2つ目の要件は、「費用全額を企業から医療機関へ直接支払っていること」です。必ず受診者全員の費用を企業が一括して負担しましょう。
もし受診しない従業員がいても、対象者全員が受診でき、かつその費用を企業が負担する体制が整えられていれば、福利厚生費として計上して問題ありません。(※法律上は従業員全員の受診が義務付けられていますので、受診しない従業員がいてもいいわけではありません。)
また支払いは企業から直接医療機関へ行いましょう。
従業員が健康診断費用を医療機関へ支払い、領収書をもとにあとから費用を従業員に返還する方法では、福利厚生費として処理ができなくなるので気を付けてください。
3.常識範囲内の金額であること
3つ目の要件は「常識範囲内の金額であること」です。
健康診断は医療機関によって金額に幅がありますが、おおよそ5,000~15,000円程度です。
一般的な健康診断の場合は、15,000円を超すようなプランでないことを申込時に確認しましょう。
健康診断を福利厚生費にするための2つのコツ
では次に、健康診断費用を福利厚生費にするために参考にしていただきたいコツを2つ、ご紹介します。
1.就業規則に健康診断のルールを盛り込む
健康診断の最低限のルールを明文化しておくこと、可能であれば就業規則に盛り込んでおくことをおすすめします。
健康診断を実施すると、受診を拒否する従業員や違う病院で受けたいなど、様々な要望が出てくる場合が多いです。従業員の意向を組んだ柔軟な対応は大切ですが、経理的な問題と照らし合わせると複雑になりかねません。
「指定医療機関」や「受診日時」、「受診しない場合の罰則」など最低限のルールを就業規則に明記しておくことが、スムーズな経理処理にも結び付きます。
2.従業員の希望の有無を書面に残す
健康診断を受診しない従業員がいた場合、可能であれば「従業員本人の意思で受診していない」旨を書面に残すことをおすすめします。
給与ではなく福利厚生費として損金算入することは納税者有利の選択であることから、税務署からの指摘に備え、企業が健康診断の機会を提供していることを明確に証明するためです。
例えば「希望しない」に〇をつけた書類を残す、などでも十分有効です。
「人間ドック」も福利厚生費にできる?国税庁の見解を確認
では、企業が一般的な健康診断ではなく、検査項目が多く費用が高い「人間ドック」を実施した場合はどうなるのでしょうか?
実は「人間ドック」であっても、一般的な健康診断と同様に要件を満たせば「福利厚生費」として経費計上できます。国税庁のホームページの中に、以下の具体的な事例が記載されています。
「役員及び使用人全員に春秋2回定期的に健康診断を実施しているほか、成人病予防のため、年齢35歳以上の希望者全てについて2日間の人間ドックによる検診を実施」(引用:国税庁「人間ドックの費用負担」)
上記の場合、国税庁は「一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません」としています。
人間ドックでも常識範囲内の金額であれば、福利厚生費としての処理が可能です。その常識範囲内の金額については明確な基準はありませんが、「2日間の人間ドック」が認められていることから、数万円程度は許容範囲であると推測できるでしょう。
健康診断を福利厚生費にできないときは「給与」扱い
要件を満たせば福利厚生費として計上できる健康診断の費用ですが、要件を満たさなかった以下のような場合は、福利厚生費ではなく従業員への「給与」としての扱いになります。
- 一部の役員だけが健康診断を受けた
- 常識範囲外の高額な宿泊プランの健康診断を受けた
- 従業員が健康診断費用を立替えた
- 健康診断受診の義務対象者ではない従業員家族が受診した 等
これらの場合は原則通り経済的利益の提供としてみなされ、給与として計上します。
給与の場合は所得税の源泉徴収が必要となりますし、また役員の場合は定期同額給与に該当しない給与(賞与)として法人税の課税対象として扱われることにもなります。
節税になる福利厚生費としての計上と異なり、給与(賞与)の場合は源泉徴収などの手間が増えるだけでなく、法人税の課税も増える可能性がありますので、ご注意ください。
【補足】健康診断にかかる「消費税」の注意点
健康診断の費用には、実は消費税が課税されています。そのため消費税の計算時には、課税仕入れとして扱います。
ただし注意が必要なのは、給与として支給した場合。消費税が課税されている健康診断費用であっても、給与の場合は課税仕入れに入れることはできません。
福利厚生費の場合は課税仕入れとして節税が期待できますが、給与の場合は課税仕入れにできないことを注意しておきましょう。
健康診断(人間ドック)は要件を確認して福利厚生費に
健康診断も人間ドックも、要件を満たせば福利厚生費にできることをお伝えしました。
健康診断を福利厚生費にできる要件は、以下3つです。
- 対象者全員が受診できる体制であること
- 費用全額を企業から医療機関へ直接支払っていること
- 常識範囲内の金額であること
福利厚生費にならない場合は節税できないだけでなく、別の税負担が大きくなる場合もありますので、要件を確認し、可能な限り健康診断の費用は福利厚生費にすることをおすすめします。
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