健康診断費用の会社負担はどこまで? パートやオプション検査など対象範囲を解説
労働安全衛生法により実施が義務づけられている「健康診断」。健康診断にかかる費用はどこまで会社側が負担するのか、疑問に思っている人事労務担当者もいるのではないでしょうか。
基本的に、健康診断にかかった費用は会社側が負担するのが原則です。しかし、会社負担にならず自己負担になる健康診断もあります。
本記事では、どのような健康診断が会社負担になるのか、また自己負担になる健康診断とはどのようなものがあるのか詳しく解説します。
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健康診断の実施方法や結果の活用については以下のお役立ち資料で解説していますので、ぜひご活用ください。
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>>>健康診断についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
健康診断の費用は会社負担が原則!どこまでが対象になる?
労働安全衛生法で事業者に義務づけられている健康診断の費用は、法により実施が義務づけられている以上、当然に事業者が負担すべきものと定められています。
健康診断の費用を会社が負担するのは、労働安全衛生法で事業者に義務づけられている健康診断のみです。
健康診断の種類や受診対象者によっては法定外となるため、自己負担になるケースもあります。
健康診断が会社負担になるケースと、会社負担にならないケースをそれぞれ詳しくみていきましょう。
会社負担となる健康診断は4種類!実施時期や対象者なども解説
法律で実施が義務化されており、費用が会社負担になる健康診断は以下の4種類です
- 一般健康診断
- 特殊健康診断
- じん肺健康診断
- 歯科医師による健康診断
それぞれの健康診断について、実施時期や受診対象者を解説していきます。
一般健康診断:事業者が常時使用する労働者を対象に実施
一般健康診断の中には、5つの種類の健康診断があります。
- 雇入時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務健康診断
- 海外派遣健康診断
- 給食従業員の検便
下記の表にある労働者が対象となります。
引用:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
上記5つの中でも「雇入時の健康診断」と「定期健康診断」は受診対象となる従業員が多いため、法で定められている受診項目や実施時期を把握しておきましょう。
雇入時の健康診断の実施時期・法定受診項目
雇入時の健康診断は、雇入れの直前または直後の適切な時期に行います。受診項目は以下のとおりです。
引用:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
入社前に健康診断を実施したとしても、義務化されている以上労働者になる人が負担した金額は、後日精算することが望ましいでしょう。
定期健康診断の実施時期・法定受診項目
定期健康診断は1年以内ごとに1回の実施が必要です。定期というのは「毎年一定の時期に」という意味で、いつ行うか時期については会社で決められます。
受診項目は以下のとおりです。
引用:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
(※2それぞれの基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは省略できます。)
定期健康診断については、以下の記事で詳しく解説しています。
特殊健康診断:7つの有害業務で働く労働者を対象に実施
特殊健康診断は有害であるとされている業務に従事する労働者に対して、労働災害を防止するために行う健康診断です。
有害な業務とは
- 高気圧業務
- 放射線業務
- 特定化学物質業務
- 石綿業務
- 鉛業務
- 四アルキル鉛業務
- 有機溶剤業務
の7種類です。
実施時期は、雇入れ時・当確業務への配置換え・6ヶ月または1年以内に1度の間隔で実施しなければいけません。
「再検査」や「要精密検査」の結果が出た場合、二次検査として位置付けられており会社に検査の実施が義務づけられています。そのため、かかる費用は会社が負担すべきです。従業員の健康管理のため結果を把握し、事後措置をしっかり行いましょう。
特殊健康診断については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
じん肺健康診断:粉じん作業に従事する労働者が対象
粉じんが発生する職場において、長期間にわたり仕事をしていると粉じんを大量に吸い込み、肺が反応し病気になる可能性があります。粉じんの吸い込みによる、肺の病気を予防するための健康診断です。
受診対象となる労働者は、
- 現在常時粉じん作業に従事する労働者
- 過去に粉じん作業に従事したが、現在は従事していない労働者
です。実施時期はじん肺管理区分によって異なるため、3年に1回の人もいれば、1年に1回の人もいます。
引用:厚生労働省「じん肺、じん肺健康診断、じん肺管理区分について」より引用
管理区分は以下のとおりです。
引用:一般社団法人中部医師会:「じん肺健康診断」
現在粉じん作業をしていて、じん肺の所見がない人・過去に粉じん作業をしていたが著しい肺機能障害がない人には3年に1回、それ以外の従事者は1年に1回健診を実施しなければいけません。
じん肺の所見があると診断された場合には、労働局に健診結果とエックス線写真を提出する必要があります。
歯科医師による健診:有害な物のガスなどを発散する場所で働く労働者が対象
労働安全衛生法により、歯等に有害な業務に従事する労働者に対して歯科医師による健診を実施し、結果を所轄労働基準監督署長局へ報告することが定められています。
*令和4年10月より、50人未満の事業所でも報告が義務づけられる予定です。
歯科医師による健診が必要な有害な業務とは、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化⽔素、⻩りんその他⻭またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務です。
実施時期は、
- 雇入れの際
- 対象業務への配置替えの際
- 対象業務についた後6ヶ月以内ごとに1回
となっています。上記の業務に常時従事する労働者に対して、必ず健診を実施しましょう。
【種類・対象別】会社負担にならない可能性がある健康診断
健康診断の種類や対象によって、自己負担になる健康診断についてご紹介します。
パート・契約社員・派遣社員の健康診断【雇用条件次第で自己負担になる】
パートや契約社員であっても条件を満たしているなら、健康診断の費用は会社負担になります。会社負担になる雇用条件とは、
- 1年以上の長さで雇用契約をしているか、または雇用期間を全く定めていないか、あるいは既に1年以上引き続いて雇用した実績があること。
- 1週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上であること。
の2つです。パートや契約社員でも上記の条件を満たしている労働者に対しては健康診断を実施する義務が発生するため、費用は会社が負担します。
派遣社員の健康診断は派遣元に義務がある
上記の条件を満たさない場合、健康診断の費用は自己負担になります。
派遣社員の場合、法により健康診断を実施する必要がありますがそれは派遣会社(派遣元)に義務づけられているため、派遣会社が費用を負担しなければいけません。
受診基準は派遣会社によって異なるため、条件を満たしている場合のみ受診可能です。
また、受診する健康診断の種類によっても派遣会社で受けるのか、派遣先の会社で受けるのか変わってきます。
ただし、特殊健康診断は派遣先の会社で実施することが定められているため注意が必要です。
以下の記事では、費用負担について対象者別に詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
アルバイトについての記事はこちら▼
契約社員についての記事はこちら▼
派遣社員についての記事はこちら▼
従業員の家族【原則は自己負担・協会けんぽの補助あり】
一部大企業では配偶者の健康診断の費用も会社負担になっているところもあるようですが、配偶者や家族の健診は事業者には義務づけられていないため、まだまだ社会一般的に行われてはいません。
協会けんぽでは40歳〜75歳未満の家族に対し、特定健康診査を設けています。補助金を活用して受診するのがおすすめです。
雇入れ時の健康診断【会社負担にも自己負担にもできる】
雇入れ時の健康診断の費用は、
- 入社後に健診を実施して会社負担にするケース
- 健康診断書の提出を求めて、個人負担にするケース
の2パターンあります。
しかし、雇入れ時の健康診断は常時使用する労働者に対して義務づけられているため、労働者になる人が入社前に受診しても、後日精算するのが望ましいでしょう。
>>>雇入れ時健康診断についての解説記事はこちら
定期健康診断のオプション検査【原則は自己負担・一部会社負担も】
会社が負担する費用は、基本的に義務づけられている本来の健康診断のみ負担します。それ以外のオプション検査に関しては、自己負担になるケースが多いでしょう。
ただ、検査項目ごとに会社の判断に委ねられることもあります。
協会けんぽの補助金を活用して一部会社負担にしたり、産業医が「就業判定のためオプション検査が必要」と判断したりする場合、会社負担になる場合もあるでしょう。
人間ドック【原則は自己負担・協会けんぽや自治体の補助あり】
人間ドックもオプション検査と同様、会社に実施義務はないため基本自己負担になります。協会けんぽや健康保険組合、自治体などが補助金や助成金を負担してくれるケースや、一部を会社負担とする場合もあります。
人間ドックを受ける労働者がいる場合、入社歴や奇数・偶数の年齢に分けて対象者を絞り込み、費用を会社側が一部負担することも可能でしょう。
再検査【基本は自己負担だが会社負担になるケースもあり】
健康診断結果で「要精密検査」「要治療」という結果が返ってきた場合、再検査が必要です。
会社は一般的に二次健診の勧奨をして終了というパターンが多いため、基本的に再検査の費用は自己負担になるでしょう。
ただし、特殊健康診断の再検査は実施が義務づけられているため、会社負担になります。
また、産業医が「就業判定のために再検査が必要」と判断した場合は、安全配慮義務が会社にはあるため、費用は会社が負担するのが望ましいでしょう。
再検査が必要な労働者に対して、検査日に有給の許可を出したり業務の調整などをしたりして配慮を示すことが大切です。
また、健康診断の二次検査の項目によっては「労災保険二次健康診断等給付」という制度を使って、無料で受診できるケースもあります。
健康診断の再検査については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
会社負担の上限なし!協会けんぽの補助金などを活用しよう
健康診断の費用相場は、1人5,000円〜15,000円程度です。健康診断は保険適用外の自由診療のため、地域や医療機関によって金額が異なります。
会社負担額の上限については明文化していないため、全額負担が基本となっています。国からのキャリアアップ助成金や協会けんぽ、自治体の補助金などをうまく活用し従業員の健康管理を行いましょう。
義務化された健康診断は会社負担!法定外は自己負担のケースも
法で義務づけられている健康診断の費用は、会社負担になります。しかし、オプション検査や再検査など会社負担ではなく自己負担になるケースもあります。
会社として従業員の健康管理を行うため、会社が負担すべき健康診断について理解し労働者の健康を守っていきましょう。
健康診断の実施方法や結果の活用については以下のお役立ち資料で解説していますので、ぜひご活用ください。
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また、従業員が多くなれば管理する人事労務担当者の人件費やコストも大きくなり負担も増えるため、効率化するのがおすすめです。
どのように効率化できるか、詳しくは「mediment」の資料でご説明していますのでぜひご覧ください。