企業が取り組むべきメンタルヘルス対策とは?効果的に進めるポイントも紹介
近年、働く人の約6割が仕事や職業に関して強い不安やストレスなどを感じており、メンタルヘルス上の理由で休職や退職をしています。
本記事では、企業が従業員に対して安全で安心して働いてもらうためにできる、メンタルヘルス対策について詳しく解説します。
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メンタルヘルス対策とは?
近年、注目されている「メンタルヘルス対策」。そもそもメンタルヘルス対策とは、心の健康に関する積極的な健康の保持増進や仕事による健康障害の防止、健康不全の早期発見・早期対処、職場復帰支援対策をおこなうことをいいます。
メンタルヘルス対策の目的としては、すべての労働者を対象に心の健康レベルを引き上げることを目的の一つとしています。
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メンタルヘルス対策をおこなうべき重要性
仕事や職業生活に関することで強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、令和2(2020)年は54.2%であり、依然として半数を超えています。
引用:厚生労働省|職場におけるメンタルヘルス対策の状況
また、業務による心理的負荷を原因として精神障害を発症し、あるいは自殺したとして労災認定がおこなわれる事案も近年増加しており、社会的にも関心を集めています。
引用:厚生労働省|職場における心の健康づくり「精神障害等による労災認定件数」
このように、事業場においてメンタルヘルスに対する対策は必要であり、より積極的に心の健康の保持増進を図ることが求められています。
メンタルヘルス対策で得られるメリットとは
メンタルヘルス対策をおこなうと、企業にとってさまざまなメリットが得られます。実際に、どのようなメリットがあるのかご紹介します。
・職場の生産性低下の防止
メンタルヘルス不調になると、本来その人が持っていた業務を遂行する能力を十分に発揮できなくなる場合が多いです。
メンタルヘルス不調に陥る人は、元々仕事熱心であった人も多いため、企業にとって貴重な戦力を失うことになります。
メンタルヘルスケアを実践することで、労働者自身によるストレスへの気づきのノウハウを身につけたり、メンタルヘルス不調を早期発見・早期対処したりすることが期待できます。
メンタルヘルスケアの実施に積極的に取り組んでいる労働環境は労働者にとって働きやすく魅力的なため、メンタルヘルスケアの推進は採用の強化にもつながるでしょう。
・生産性や活力の向上
メンタルヘルス不調に陥った人だけではなく、社員全員や組織を対象に職場環境改善を図ったり組織開発をおこなったりすることは、社員の労働生活の質を高めワークモチベーションを維持し、生産性や活力の向上につながります。
社員のワークモチベーションが維持できることにより、離職率の低下と、定着率アップに期待できるでしょう。
・リスクマネージメント
メンタルヘルス不調に陥ると、集中力や注意力の低下による事故・トラブルにつながりかねません。
また、企業のメンタルヘルス不調の対応が不適切だったために不調を悪化させてしまった場合、労災請求や民事訴訟につながる場合もあります。
これらのトラブルを防止するためにも、メンタルヘルスケアを適切に実践していくことが大切です。
メンタルヘルス不調になる原因
メンタルヘルス不調にはどのような原因があるのか、詳しく紹介していきます。
・過重労働からくるメンタルヘルス不調
過重労働は心身の健康に重大な影響を与えます。長時間労働は典型的な過重労働ですが、長時間労働に伴い、特に睡眠時間を確保できないことが問題のひとつです。
睡眠時間とメンタルヘルス不調には密接な関係があり、睡眠時間の減少はメンタルヘルス不調者の発生頻度を高めます。
長時間労働は、不規則な食事と睡眠時間の短縮を招き、それがうつや心身のストレス反応を生じさせています。
鳥 悟氏により調査された睡眠時間と抑うつ状態の関係に着目すると、以下のグラフのように睡眠時間が少ないほど、抑うつ状態の指標であるCESDが高くなるといった結果が得られています。
引用:鳥 悟「過重労働とメンタルヘルス」
しかし、労働時間を削減できても睡眠時間が不足していれば、メンタルヘルスの改善効果はないといった結果もあり、適切な睡眠時間の確保は大切です。
・職場でのハラスメントによるメンタルヘルス不調
2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した割合は31.4%でした。
また、都道府県労働局における2020年6月の労働施策労働推進法施策後の「パワーハラスメント」の相談件数は1万8千件、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も2020年度には約8万件にのぼるなど、メンタルヘルス対策は急いで解決する必要がある課題となっています。
メンタルヘルス対策で企業が取り組むべき対応3つ
ここまでさまざまなメンタルヘルス不調の原因を見てきました。
企業がメンタルヘルス不調を改善するために、取り組むべきメンタルヘルス対策の取り組みを3つご紹介します。
引用:厚生労働省|メンタルヘルス対策の体系とストレスチェック
①メンタルヘルス不調を未然に防止する【一次予防】
一次予防で大切なことは、メンタルヘルスケアを推進するための教育研修や情報提供です。労働者にセルフケアやラインケアの重要性に対する情報を提供する点と、ストレスへの対応で困った際、頼れる機関の紹介などを積極的におこなう点が重要です。
また、ストレスチェック制度や職場の環境改善などをおこなうことで、メンタルヘルス不調を未然に防げます。
ストレスチェックは2015年より法律で義務化されており、ストレスチェックの実施で、労働者自らもストレスに気づけます。
②メンタルヘルス不調を早期発見し適切な措置をおこなう【二次予防】
二次予防として大切なことは、メンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応です。
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具体的には、上記3つのことをおこなっていきます。
管理監督者向けには、部下の不調にいち早く気づく視点を伝え、従業員向けには自分の不調に早く気づく機会や視点を提供します。
部下もしくは自身の不調に気づいた場合には、どこに連絡や相談をすればよいのか、その窓口を周知しておく必要があります。
③メンタルヘルス不調の労働者の職場復帰支援等をおこなう【三次予防】
最後に、三次予防として大切なことは、メンタルヘルス不調者の回復と就労の支援です。職場環境・仕事内容や就労条件、就業上の配慮などもおこないます。
また、上司や同僚など、職域関係者ができることも積極的に考えていく必要があります。
具体的には、温かく迎える職場の環境づくりが重要です。メンタルヘルス不調者がゆっくりと仕事感覚を取り戻せるよう、穏やかな対応を心がけましょう。
そして、期待する作業の明確化・作業結果の適切評価をおこない、良好な職場での人間関係構築につなげます。
さらに、就労後も継続して相談に乗れるよう、窓口の紹介も必要です。
企業が取り組むべき3つの対策についてご紹介しましたが、特に大切なのが「一次予防」です。
一次予防にどの程度力を入れられるかによって、メンタルヘルス不調を未然に防止できるかどうかが大きく変わってくるでしょう。
メンタルヘルス対策における心の健康づくり計画の策定
メンタルヘルス対策は、継続的かつ・計画的におこなわれることが重要とされており、衛生委員会等において、十分な調査審議をおこない、心の健康づくり計画を策定します。
心の健康づくり計画に組み込む内容は以下の通りであり、事業場でおこなわれるストレスチェック制度の位置づけを明確にしましょう。
引用:厚生労働省|職場における心の健康づくり
メンタルヘルス対策の基本的な4つのケア
メンタルヘルス対策をより効果的に進めるためには、各事業場の実態に応じて4つのケアを継続的かつ計画的におこなうことが重要です。
基本的な4つのケアについてご紹介します。
引用:厚生労働省|職場における心の健康づくり
・労働者自身による取り組み【セルフケア】
事業者は労働者に対して、以下の3つのセルフケアがおこなえるよう、教育研修や情報提供をすることが大切です。
労働者のみならず、情報発信をする側である管理監督者自身もセルフケアの対象として見るようにしましょう。
- ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
- ストレスチェックなどを活用したストレスへの気づき
- ストレスへの対処
・管理監督者による取り組み【ラインによるケア】
管理監督者は同時にさまざまな業務をこなす場合が多いため、職場の環境に目を向けることが難しいかもしれません。
しかし、管理監督者としてラインケアをおこない、労働者のメンタル変化にいち早く気づけるよう努めることが大切です。具体的な内容は以下の通りです。
- 職場環境等の把握と改善
- 労働者からの相談対応
- 職場復帰における支援
・産業医や衛生管理者による取り組み【事業場内産業保健スタッフ等によるケア】
セルフケアやラインケアではカバーしきれない部分もあるため、事業場内産業保健スタッフの力を借り、サポートしていくことが必要です。
事業場内産業保健スタッフとは、産業医、衛生管理者、保健師等のことを指します。
- 具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
- 個人の健康情報の取り扱い
- 事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
- 職場復帰における支援
事業場内産業保健スタッフ等は、セルフケアおよびラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者と管理監督者に対する支援をおこないます。
さらに、心の健康づくり計画の実施における中心的な役割を担います。
メンタルヘルス対策にとって、専門家とのネットワークを密に取り、連携を図って支援していくことが効果的です。
・事業外の機関や専門家による取り組み【事業場外資源によるケア】
事業場内におけるメンタルヘルス対策として、事業内のみならず、事業外の専門家の力を借りることも大切です。
- 情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
- ネットワークの形成
- 職場復帰における支援
社外の専門機関と連携をおこない、労働者のメンタル不調にいち早く気づき、メンタルヘルス不調の発症や悪化予防に努めましょう。
メンタルヘルス対策を効果的に進めるためのポイント3つ
ストレスやメンタルヘルス不調の背景には、職場における人間関係やハラスメント、過度な長時間労働等さまざまな要因があります。
各事業場において職場環境における課題を適切に把握するとともに、メンタルヘルス対策を効果的に進めるためのポイントをご紹介します。
ポイント①:メンタルヘルス対策に関する方針の表明と周知
メンタルヘルス対策は、労働者や管理監督者等、それぞれの立場で取り組むことが重要です。
企業によっては、経営理念や経営方針にメンタルヘルス対策への取り組みを明記することで労働者に周知し、理解・協力を促すとともに、経営層を巻き込んだ全社的な取り組みにつなげています。
ポイント②:メンタルヘルス対策に関する計画を立てる
メンタルヘルス対策が継続的かつ計画的、組織的におこなわれるようにするためにも、労使の協議のもと、事業場の実態に即して取り組む必要があります。
そのためには、衛生委員会等を活用し、メンタルヘルス対策の計画を策定することが効果的です。計画策定後は、改めて現状の評価や現状把握をし、必ず対策の効果評価をおこないましょう。
タイムリーに評価していくことで現状に合ったメンタルヘルス対策になり、よりよい効果が期待できます。
ポイント③:産業保健総合支援センターなどを活用する
事業場によっては、必ずしも産業医や保健師等の専門職がおらず、メンタルヘルス不調者への対応が難しい場合があります。そのような場合には、産業保健支援センターなどの事業場外資源を有効活用すると良いでしょう。
事業外資源を活用することで、他社での事例と比較しながら自社のメンタルヘルス対策の見直しができ、さらなる対策の推進につながります。
社内にメンタルヘルス不調者が出てしまった場合の対応
もし社内でメンタルヘルス不調者が出た場合、どのように対応できるのか就労中と休職中に分けてご紹介します。
・就業中にできる対応
部下や同僚のメンタルヘルス不調に気づくには、日頃の様子を気にかけるのが大切です。
例えば、「以前と比べて遅刻が多い」「顔色が良くない」「口数が少ない」「身だしなみが乱れてきた」「仕事の能率低下やミスが目立つ」など。
このような兆候に気づいたら、時間を取ってゆっくり話を聴きましょう。その場合、アドバイスするよりもその人の話に耳を傾け、気持ちを十分に聴く姿勢が大事です。また、話を聴いた上で話し合いをもとに、職場でできるサポートを検討してください。
さらに、相手の話を聴く場合プライバシーに十分配慮し、本人から得た個人情報は他の人へ不必要に伝えないようにすることも必要です。
・休職中にできる対応
休職中の労働者に対して、事業場はタイムリーに現状を把握することが大切です。
- 休職者の状態に合わせ、電話等を柔軟に取り入れ、頻度も替えていく
- 対応窓口担当は一人に絞る
- 次回のおおよその連絡日を毎回伝える
具体的な内容は上記の3つの点になりますが、休職中でも職場の一員として温かく見守り、サポートしていくことが職場復帰に向けて役立つでしょう。
従業員の心の健康を確保し守るためのメンタルヘルス対策の徹底を
メンタルヘルス不調は労働者はもちろん、管理監督者など誰にでも起こりうる身近な問題です。放置してしまえば休職や退職にもつながる可能性もあり、最悪の場合、自殺等のリスクも引き起こしかねません。
メンタルヘルス対策をおこなうことで、労働者の心の健康を守るだけではなく、企業における生産性や労働者の活力向上に期待できます。
事業場内のみならず、外部の専門機関とも協力し、メンタルヘルス対策の強化をおこなうことが大切です。
継続的に労働者のこころの健康を保持し、メンタル不調の予防・早期発見・早期対応に努めましょう。
メンタルヘルス不調者の復職支援については、こちらのお役立ち資料で詳しく解説しています。
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