定年後再雇用制度とは?制度導入のメリットや注意すべきポイントを解説!
労働者の希望に応じて定年後も引き続き雇用する「定年後再雇用制度」。
少子高齢化により、多くの企業において高年齢者の継続雇用がおこなわれています。
本記事では定年後再雇用制度について、導入のメリットや注意すべきポイントをご紹介します。
目次[非表示]
定年後再雇用制度とは?
定年後も引き続き雇用する制度を「継続雇用制度」といい、代表的なのが「再雇用制度」です。
再雇用制度は定年年齢に達した労働者に対し一度は退職の形を取り、希望があれば定年後に新たに雇用契約を結ぶ制度です。
継続雇用制度は、高年齢者の雇用の確保を目的とした「高年齢者雇用安定法」において「高年齢者雇用確保措置」のひとつとして設けられています。
厚生労働省の調査によると、継続雇用制度を導入している企業は全体で71.9%となっており、高年齢者雇用確保措置の中でも一番多く実施されています。
また事業主が定年を定める場合は、60歳以上としなければなりません。
65歳までの雇用機会の確保【高年齢者雇用確保措置】
高年齢者を雇用する上で定年を65歳未満に定めている事業主は、高年齢者の安定した雇用を確保するため、以下にある「高年齢者雇用確保措置」のいずれかを実施することが求められています。
- 65歳までの定年の引き上げ
- 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- 定年の廃止
継続雇用制度の適用者は、原則として「希望者全員」です。
70歳までの就業機会の確保【高年齢者就業確保措置】
65歳までの雇用確保措置は義務となっています。
加えて定年を65歳以上から70歳未満に定めている事業主、または継続雇用制度を導入している企業は、以下のいずれかの措置を実施するよう努力義務として求められています。
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
・事業主が自ら実施する社会貢献事業
・事業主が委託、出資(資金提供)等する団体がおこなう社会貢献事業
定年や雇用確保措置、就業確保措置の変更や新設をおこなう場合には、就業規則等を変更しましょう。
就業規則を変更した場合、常時10人以上の労働者を使用している事業主は、所轄の労働基準監督署長に届け出も忘れずおこないましょう。
勤務延長制度との違い
「勤務延長制度」とは、定年を迎えた労働者を退職させず、継続して雇用する制度です。
定年に達してもそのまま雇用契約を継続するため、労働時間や賃金等の労働条件は変更されず、退職金も勤務延長期間が終了して退職するまで支給されません。
公的年金支給開始までのつなぎと考えて、最高雇用年齢を公的年金の支給開始年齢に定めているケースもあります。
健康に問題がなく年金受給開始まで働きたいと希望する高年齢者にとっては、メリットの大きい制度といえるでしょう。
定年後再雇用制度を導入する企業へのメリット4つ
厚生労働省が調査した再雇用制度のメリットや効果をみると、「退職前に培った業務経験を活かして働いてもらうことができる」が78.7%で最も割合が高く、次に「会社への愛着を持った人を雇用することができる」が50.9%でした。
他にも再雇用制度を導入し定年後の高齢者を採用することで、企業には以下のようなメリットが。
- 労働力の確保
- 技術・技能の確保および伝承
- 人件費コストの低減
- 助成金の支給
それぞれのメリットを詳しくご紹介します。
メリット1:労働力の確保
再雇用制度を導入するメリットのひとつ目は、労働力の確保です。
労働力が確保できると、以下の好影響があります。
- 従業員の定着を図れる
- 高齢者になっても働けるので、労働力の確保がしやすくなる
- 高齢者でも働ける環境があることで、採用がしやすくなる
近年、少子高齢化の影響で若年層の労働人口が減少していますが、一方で高齢化が進み元気な高齢者が増えています。若い人材の採用が難しくなる中での高年齢者の再雇用は、労働力不足の補填に大いに役立つでしょう。
また高齢者でも働ける環境があるなら、対象者以外の従業員にとっても雇用に対する安心感につながります。
メリット2:技術・技能の確保および伝承
再雇用制度を導入するメリットのふたつ目は、技術・技能の確保および伝承ができる点です。
具体的な内容は以下の通りです。
- 高年齢者の豊富な知識・経験の活用・資格・技術・技能の伝承を途切れずに継続できる
- 高齢者による技術・技能・経験・ノウハウを教育する体制が取れる
- 高齢者の豊富な経験による判断力が活かせる
定年まで働いた従業員は、それまで培ってきた専門知識やスキル、経験を十分に有しています。それらを有効活用し次の世代にも伝えていくことで、企業にとっても生産性の向上が期待できるでしょう。
企業の中には、高齢社員が教育・研修担当者の補佐としてサポートし、後の世代への知識やノウハウを伝える役割を設けている場合もあります。
技術やノウハウを次の世代に伝承する際には、わかりやすく「教える」ことが重要です。伝承をスムーズにおこなうため、高齢社員に対して「教える」ためのスキルやコツを学ぶ機会を提供することも効果的でしょう。
また、社内外のセミナーや勉強会の参加者に対しポイントを付与する仕組みを作り、ポイント数に応じて受講料の高い研修を受けられるなどの特典をつけて、高齢社員に学んでもらうための工夫をしている企業も。
新たな業務領域に対応するため、業務の遂行方法や業界の変化に合わせて高齢社員の知識やスキルのアップデートを支援している企業もあります。
メリット3:人件費コストの低減
定年後に再雇用する場合、対象者は一旦退職しているため、再契約時にはパートやアルバイト、嘱託、契約社員など勤務形態の変更が可能です。勤務形態を変更するのであれば給与は定年前と別体系で設定できます。
賃金面で柔軟な対応が可能になるため、人件費コストの低減が図れるでしょう。しかし、給与を下げすぎてしまうと「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」において定められている、同一労働同一賃金の規定に抵触する可能性があります。
雇用形態が異なるという理由だけで、不合理な賃金格差が出ないように注意しましょう。
メリット4:助成金の支給
定年後再雇用制度を導入し高年齢者を採用する企業には助成金が支給されます。助成金の種類は以下の3つです。
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- 65歳超雇用推進助成金
- 高年齢労働者処遇改善促進助成金
「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」は、60歳以上65歳未満の高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワークや職業紹介事業所等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して、賃金の一部に相当する額が支給されます。
「特定求職者雇用開発助成金」は生涯現役コースもありましたが、見直され令和4年度末で廃止されました。
65歳以上の対象労働者の人は、特定就職困難者コースの対象となります。
「65歳超雇用推進助成金」は、65歳以上への定年の引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換をおこなう事業主に対して助成するもので、次の3つのコースがあります。
- 65歳超継続雇用促進コース
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
「高年齢労働者処遇改善促進助成金」については、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇の改善に向けて就業規則等の定めるところにより、高年齢労働者に適用される賃金規定等の増額改定に取り組む事業主に対して支給される助成金です。
それぞれの助成金には支給要件が設けられており、種類によって金額も異なります。
助成金についてさらに詳しい内容や支給要件、金額などを知りたい方はこちらをご覧ください。
定年後再雇用制度を導入する場合の注意点と対応策
再雇用制度を導入する場合に知っておきたい注意点と、どのように対応できるか具体的な対応策をご紹介します。
①注意点と対応策:会社経営に関して
企業の運用面においては、以下の注意点があります。
- 契約更新や新たな処遇ルールの適用など管理が増える
- 高齢者雇用延長の制度化により、若年層の雇用に制限を受ける可能性がある
- 高齢者用の職務開発が必要になる
- 設備改善や職場環境改善等のコストがかかる
上記の注意点について、業務と照らし合わせながら次のように対応できるでしょう。
- 契約更新時のトラブルを避けるため、契約更新条件を契約書内で明確にしておく
- 制度のための特別な処遇ルールは置かず、シンプルな制度にする
- どういった仕事をどの世代に割り振るかを決めておく
- 高齢者のコスト面の優位性を考える
また、雇い止めなど労務管理上のトラブルがないようにも注意しながら対応しましょう。
②注意点と対応策:作業効率や被災に関して
高齢社員であれば、作業効率や被災に対して以下の注意点が考えられます。
- 健康面での不安や動作の遅さなどが原因で作業効率がダウンする
- 判断力が鈍ったり、動作に対する素早さが落ちたりする
- 体力・視覚・聴覚の衰えが問題となる可能性がある
- 会社が取るべき健康管理・安全管理への配慮が従来以上に必要となる
- 通勤・移動時の交通事故が増える可能性がある
上記のような注意点が出てくる可能性を踏まえて、考えられる対応策は以下の通りです。
- 契約更新時に健康診断結果を勘案して更新する。なお、健康状態に支障がある、クレーム・ミスが多発する、事故を再三起こしてしまう場合などは、会社の安全配慮義務の観点から契約更新しないことがある
- 人事評価項目に判断力や動作についての項目を入れ、契約更新時の参考にする
- 体力・視覚・聴力の衰えが問題となる場合には、契約更新しないことがある
- 安全配慮義務を今まで以上に徹底し、全体が集まったときなどに安全衛生の研修を実施する
- 交通安全教育の徹底と運動能力のレベルを見極め、移動方法の適正化を図る
- 体力や身体能力の状況を十分把握するようにしておく
高齢者を雇う際には、労働災害にも気をつけると良いでしょう。以下のお役立ち資料では、高齢者の労働災害をふせぐためにできることについて、詳しくご紹介しています。
>>>資料ダウンロード(無料):高年齢労働者の労働災害をふせぐためにできること
③注意点と対応策:モチベーションの低下に関して
高齢者の雇用による仕事のモチベーションの低下も注意点のひとつです。以下のような理由が考えられるでしょう。
- 処遇が下がることで高齢者のモチベーションが上がらない
- 若年者から昇進の機会が遅くなるなどの不満が出る可能性がある
上記のような状態にならないよう、次の対応策を講じられます。
- 高齢者でも勤務できることのメリットを強調し、責任の度合いも軽くなるように配慮する
- 採用面を考慮し、高齢者の処遇ダウンは極力抑えた設計にする
高齢社員と企業双方にとって働きやすい職場を作るために、注意点や対応策を考えて対処していきましょう。
定年後再雇用制度を導入する際のポイント
定年後再雇用制度を導入する際に気を付けたいポイントについて詳しくご紹介します。
雇用形態・労働条件
高年齢者雇用安定法では、定年前と同じ雇用形態での再雇用を義務づけてはいません。一度定年退職するため、再雇用では嘱託社員や契約社員、パート・アルバイトなど正社員以外での契約も可能です。
業務内容については、定年前と異なる業務内容に携わることは問題ありませんが、再雇用後定年前とまったく異なる職種への従事は原則認められていません。
定年前は事務職にあったにもかかわらず、再雇用の際に初歩的な清掃業務に従事させることは裁判において違法との判断がなされ、損害賠償を命じられたという判例があるほどです。
企業の方針によっては、再雇用後の仕事内容が異なる場合もありますので注意しましょう。
給与などの賃金
再雇用後の賃金については企業が自由に決められるため、企業と対象者が合意して決定したのであればその内容が労働契約の内容になります。
しかし、定年前と同じ仕事内容と責任なのにもかかわらず、雇用形態が変わったというだけで正社員のときの待遇と不合理な差を設けた場合、違法とみなされる可能性があります。(パートタイム・有期雇用労働法第8条)。
定年後再雇用の給与条件のポイントは、「同一労働同一賃金」です。
再雇用後賃金を大幅に減らしてしまうと、法律に違反することになりかねないので注意が必要です。
ある裁判例では、基本給が定年前の60%を下回ったため違法とされたことから、60%がひとつの目安ともいえるでしょう。
契約更新期間
再雇用後に有期労働契約になった場合には、契約期間を1年ごとに更新する契約社員・嘱託社員となるケースが多いです。
原則65歳までは契約を更新することとし、65歳より前の契約終了は基本的に認められないと覚えておきましょう。
5年を超えて契約更新をおこなう場合は、本人の申し込みにより期間の定めのない労働契約「無期転換ルール」が適用されます。
しかし、再雇用者の雇用管理計画が作成されており、都道府県労働局の認定を受けた企業は無期転換ルールの対象外となっています。
有給休暇
同じ企業において継続して雇用される場合には、再雇用であっても労働契約は継続しているものとみなされるため、一度退職したからといって有給休暇の日数がリセットされることはありません。
定年前後の勤続年数が通算され、それに応じた有給休暇が付与されます。
また、定年退職時に消化できなかった有給休暇も再雇用後に引き継がれます。
各種手当
正社員に対して支給している手当について、合理的な理由なく再雇用者に支給しないことは違法になる可能性があります。
通勤手当や精勤手当、皆勤手当などは支給しない合理的な理由はないので再雇用の高齢社員にも支給しましょう。
ただし、住宅手当や家族手当は福利厚生が目的で、現役世代を支援するための手当です。再雇用の高齢者はすでに住宅ローンの支払いが終わっていたり扶養家族が少ない、あるいはいなかったりする場合が多いでしょう。
その点を踏まえると、住宅手当・家族手当を再雇用者に支払わず正社員のみに支払うことは合理的とみなされ問題ないと考えられます。
再雇用でも必要な社会保険
再雇用するにあたって、各種保険の適用対象にも注意が必要です。保険には以下の種類があります。
- 雇用保険
- 健康保険・厚生年金保険
- 介護保険
- 労災保険
就業日数や就業時間を減らした場合には、加入対象外になるものもあります。再雇用での勤務形態と合わせて各種保険の扱いがどうなるのか確認しておきましょう。
定年後に再雇用をする際の流れ
定年後に再雇用をする場合、一般的には以下のような流れでおこないます。
- 対象者への通達と意思の確認
- 対象者との面談と雇用条件の確認
- 再雇用の決定と手続き
対象者への案内不足とならないよう、十分なコミュニケーションを取りながら進めましょう。
①対象者への通達と意思の確認
再雇用制度の利用は対象者の希望に委ねられているため、制度の適用対象になる労働者に対し、まずは再雇用制度を利用したいかどうかを確認しましょう。
個別に継続雇用に関する通知を出して対象者が再雇用制度の利用を希望する場合、「再雇用希望申出書」などの書面を用意し、対象者に署名・捺印をしてもらったのち提出してもらいます。
トラブル回避にもつながり、再雇用を希望している旨も明確にできるでしょう。
対象者が再雇用を希望しない場合には「再雇用辞退申出書」を提出してもらうよう依頼し、定年退職の手続きを進めます。
②対象者との面談と雇用条件の確認
再雇用制度の利用希望を確認したら、企業の担当者が個別に面談をおこないます。面談では労働契約の条件(賃金、勤務形態、雇用期間、更新の有無、仕事内容など)について丁寧に説明し確認しましょう。
また条件だけでなく、仕事内容についても再雇用後に変更になる可能性があります。
条件や仕事内容の説明を怠ると再雇用後にトラブルが発生したり、労働者のモチベーションの低下につながったりする可能性があるため、よく理解してもらった上で契約を進めることが大切です。
③再雇用の決定と手続き
提示した再雇用後の労働条件に合意が得られたら条件など詳細を記した雇用契約書を交付し、必要な手続きをおこないます。
再雇用の場合はいったん定年退職扱いになりますので、退職金の支払いなどの準備も進めましょう。
企業と労働者にとってプラスになるよう定年後再雇用制度を上手に活用しましょう!
少子高齢化が進み深刻な労働力不足の中で高齢者の就労意欲の高まりに対応するため、高齢者が能力やスキル、経験を活かして働ける環境の整備がより一層求められています。
「人生100年時代」といわれる現代において、シニア世代の活躍は人手不足の解消だけでなくさまざまなコストを抑えて経験豊富な人材の確保につながったり、若い人の育成などをしてもらえたり企業にとっても大きなメリットを期待できます。
定年後再雇用制度を上手に活用し、労働条件や契約内容をしっかり確認しながら企業と労働者双方にとってプラスになるよう進めていきましょう。
高齢者を雇う際には、労働災害にも気をつけると良いでしょう。以下のお役立ち資料では、高齢者の労働災害
をふせぐためにできることについて、詳しくご紹介しています。>>>資料ダウンロード(無料):高年齢労働者の労働災害をふせぐためにできること