高齢者雇用状況報告書の提出方法や記入項目を解説!報告義務や罰則はある?
少子高齢化が進むなかで高齢者の雇用状況は、65歳までの雇用確保から70歳まで働ける環境へと変化しています。
変化に応じて対応していかなければならないのが「高齢者雇用状況報告書」です。
本記事では、高齢者雇用状況報告書について解説した上で、提出方法や記入方法を紹介します。
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以下のお役立ちガイドでは、高齢者雇用状況報告書の記入方法や、高齢者雇用に関わる社会保険の年齢制限・手続きについてご紹介しています。
>>>資料ダウンロード(無料)はこちらから:高年齢労働者雇用のお役立ちガイド
高齢者雇用状況報告書とは
高年齢者雇用状況報告書は、高年齢者雇用安定法52条1項によって高年齢者の雇用状況を毎年報告しなければならない書類のことです。
一定以上の従業員を抱える企業には「高年齢者の安定した雇用確保」が法律で義務化されており、毎年5月下旬から6月上旬にかけて、ハローワークから対象企業に対して雇用状況に関する確認の書類が送られてきます。
高年齢者雇用状況報告書の主な内容は以下のとおりです。
- 高年齢者雇用確保措置の導入状況
- 定年に達した従業員の状況
- 66歳以上でも働ける制度の有無 など
>>>高齢者雇用安定法についてはこちらをチェック!
提出義務のある対象企業
提出義務があるのは、常時雇用する従業員が31人以上の企業が対象です。毎年(5月下旬から6月上旬)、ハローワークから届いた「高年齢者雇用状況報告書」に雇用状況を記入して、厚生労働大臣に報告しなければなりません。
高年齢者の被雇用者がいない場合でも報告書の提出義務があり、雇用者数を0として報告します。
常時雇用する従業員とは以下のとおりです。
- 1年以上継続して雇用されている人(1年以上雇用が見込まれる人含む)
- 週の所定労働時間が20時間以上の人
ただし、正社員だけでなくパートやアルバイトも1年以上の継続雇用が見込まれる場合は、常時雇用に含まれます。
また、東京労働局(東京管轄)に関しては、従業員が20人以上の事業所に高年齢者雇用状況報告用紙が郵送されます。
高年齢者雇用状況報告書の目的
報告書提出の目的は「高年齢者の雇用状況」と「高年齢者雇用制度の導入状況」を国が把握することです。
高年齢者雇用安定法に定める65歳までの雇用確保措置や70歳までの就業確保措置の実施状況を把握し、今後の施策の検討に活用します。
必要に応じて、ハローワークによる助言・指導など各企業に対して利用される場合もあります。
高齢者雇用状況報告書の提出
高年齢者雇用状況報告書は、6月1日から7月15日の期間に提出します。提出方法は「企業本社の所在地を管轄するハローワークに郵送・持参」もしくは「電子申請」の2種類です。
近年では、さまざまな報告申請の効率化を図るため、電子申請を推奨する動きがあります。
電子申請の提出方法
⾼齢者雇⽤状況等報告の電子申請は、令和4年の6月1日からスタートしており、インターネットを利⽤した総務省のe-Gov電子申請システムで提出可能です。
令和5年の高齢者雇⽤状況等報告・障害者雇⽤状況報告は、e-Govアカウント(ユーザID・パスワード)を活⽤した電子申請から、「GビズID」を利用した電子申請に変わります。
ただし、e-Govアカウントでも申請可能ですが、GビズIDを利用せずe-Govアカウントを使用して電子申請する場合は、電子署名が必要となり有料です。
補足:GビズIDとは
GビズIDとは、1つのIDやパスワードで複数の行政サービスを利用できる法人・個人事業主向け共通認証システムです。
GビズIDの内訳は以下の図のとおりです。
引用:厚生労働省「令和5年高年齢者・障害者雇用状況等報告の提出について」
GビズIDには、プライム・メンバー・エントリーの3種類のアカウントがあります。
- プライム……法人代表者・個人事業主のアカウント(補助金申請などに必要)
- メンバー……gBizIDプライムを取得した組織の従業員用のアカウント
- エントリー……オンラインで即日発行できるアカウント(行政システム・GビジネスIDマイページなどへのログインが可能)
GビズIDを登録・取得するには事前申請が必要となるため、デジタル庁のホームページ「GビズID」を確認しましょう。
詳細を知りたい方は、厚生労働省が紹介している登録方法を見てみましょう。
厚生労働省:GビズIDの登録方法
高齢者雇用状況報告書の記入方法を項目別に解説
高年齢者雇用状況報告書は2021年から新様式になっていますので、記入方法と留意すべき点について見ていきましょう。
報告書に記入する際には、就業規則を準備し企業内情報を集めておくとスムーズです。
以下は高年齢者雇用状況報告書の記入例になっていますので、作成時の参考にしてみましょう。記入例の番号に沿って、記入内容をそれぞれ解説していきます。
引用:厚生労働省 高年齢者雇用状況等報告書様式
①事業主情報
法人名・住所・法人番号・産業分類番号・事業内容・労働組合の有無・雇用保険適用事業所番号などを記入します。
➁定年制の状況
定年制がない場合は「定年なし」に、就業規則に定年が記載されている場合は「定年あり」にチェックし、定年年齢を記入します。
定年について廃止や改定が決定している場合は詳細な年月日を記入し、予定しているなら検討中にチェックを入れましょう。
ただし、職種によって定年年齢が異なる場合には最も若い年齢を記入します。
③定年後の継続雇⽤制度の状況
就業規則において、定年後の継続雇用制度を設けている場合、「継続雇用先・対象」の項目に記入し、継続制度がない場合、「制度として導入していない」にチェックしましょう。
また、継続制度の導入・改定予定なら制度導入の年月日に記入します。
例えば、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度を就業規則で認めている場合のポイントは、以下のとおりです。
- 継続雇用先は「65歳未満」「65歳以上」の両方にチェック
- 継続雇用先は該当項目のすべてにチェック
ただし、70歳まで雇用する場合は、「基準(65歳以上)の根拠」に記入します。
④創業支援等措置の状況
創業支援等措置を実施している、実施していない、導入や改定の有無の項目にチェックしましょう。
創業支援等措置とは、2021年の改正高年齢者雇用安定法によって「努力義務」として以下の内容が求められています。
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
社会貢献事業には、「事業主が実施する社会貢献事業」と「事業主が委託や出資をする団体がおこなう社会貢献事業」があります。
引用:厚生労働省 高年齢者雇用状況等報告書様式
⑤66歳以上まで働ける制度の状況
66歳以上の従業員が働く制度の状況報告は、以下の条件の場合に記入する項目です。
- 66歳以上まで労働できる制度がない
- 労働できる制度を設けているが具体的な規定がない
ただし、③継続雇用制度④創業支援等措置の対象年齢のどちらかに70歳以上と記入した場合、もしくは定年がない場合には記入しないようにしましょう。
⑥常⽤する労働者数の状況
この項目は、前年の6月1日から今年の5月31日までの常⽤労働者数を、44歳まで・45歳から49歳・50歳から54歳など年齢別に記入します。(内訳として女性人数も記載)
常⽤労働者とは、1年以上継続して雇用している(雇用が見込まれる労働者)・週の所定労働時間が20時間以上の労働者のことです。
⑦過去1年の離職者の状況
過去1年間(前年の6月1日から今年の5月31日)に退職した45歳以上から70歳未満の従業員数と、そのうちの求職活動支援書を作成した対象者を記入しましょう。内訳として女性の人数も書き入れます。
「退職した45歳以上から70歳未満」とは以下の理由によるものです。
- 解雇(自己責任は除く)
- 経過措置(継続雇用の対象者を限定する基準)を導入している場合に、規定に該当しない退職
- 創業支援等措置による契約が事業主都合により終了する場合
⑧過去1年の定年到達者数の状況
就業規則に継続雇用制度などを明記し、過去1年間(前年6月1日から今年5月31日)に退職した従業員が存在する場合に記入する項目です。
ただし、就業規則に継続雇用制度などを明記していなければ記入する必要はありません。
定年年齢が64歳までの場合は「65歳未満」に記入し、65歳以上の場合は「65歳以上」に記入しましょう。
また、平成24年改正法に基づき、経過措置(継続雇用の対象者を限定する基準)を導入している場合は、過去1年間に適用年齢に該当した従業員の状況を記入します。
⑨70歳までの就業確保措置に関する過去1年間の適用状況
65歳以上の就業確保措置をおこなっている企業において、「70歳までの継続雇用制度」「70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ制度」「70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度」を導入している場合には、過去1年間の適用状況を記入します。
⑩⾼年齢者雇⽤推進者・記⼊担当者名
「高年齢者雇用推進者」や「記入担当者」の情報を記入する項目です。高年齢者雇用推進者の選任をおこなっている企業は記入しましょう。
高年齢者雇用等推進者の選任は努力義務となっており、高齢者の職場環境を見直すために望ましいとされています。
補足:厚生労働省の記入方法を参照
厚生労働省のホームページにも高年齢者雇用状況等報告書の書き方と記入例が紹介されていますので、参考にしてください。
厚生労働省:高年齢者雇用状況等報告書の記入方法
高齢者雇用状況報告書を提出しないと罰則になる?
高年齢者雇用報告書を提出しない場合は、法による罰則はありません。しかし、報告することが義務付けられています。(高年齢者雇用安定法52条1項)
報告書を提出しない場合や、報告しても雇用状況に問題がある場合には、高年齢者雇用確保措置に違反したとして指導の対象となります。
さらに改善されない場合には「勧告」、勧告にも応じない場合は、企業名が公表されるため注意が必要です。(⾼年齢者雇⽤安定法第10条)
高齢者雇用状況報告書はきちんと提出しましょう
高齢者雇用状況報告書の提出は法律によって義務付けられているため、報告書が届いた場合には必ず提出しましょう。
報告書は、高年齢者の雇用状況や高年齢者雇用制度の導入状況などを記入するため、自社の就業規則がどうなっているのか、制度として運用されているのかをしっかり確認することが大切です。
⾼年齢者雇⽤安定法に対して、自社の就業規則に遅れがあったりズレが生じたりする場合は、報告書を機に就業規則を見直すように心がけましょう。
以下のお役立ちガイドでは、高齢者雇用状況報告書の記入方法や、高齢者雇用に関わる社会保険の年齢制限・手続きについてご紹介しています。