高齢者雇用安定法とは?法改正で70歳までの就業確保が努力義務に!
高齢者雇用安定法が2021年に改正されました。しかし「何から取り組めばよいかわからない」という人事労務担当者も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、改正点を解説し、必要な対応手順や活用できる助成金、高齢者雇用のポイントをご紹介します。
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高齢者雇用安定法とは?
高年齢者雇用安定法とは、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図るための法律です。
正式名称を「高齢者等の雇用の安定等に関する法律」といいます。
時代によって高齢者の基準や割合は変わっており、高年齢者雇用安定法は改正を繰り返しています。
高齢者雇用安定法2021年改正の背景
高年齢者雇用安定法は直近で2021年にも改正されました。2021年の改正には、主に3つの背景があります。
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少子化に伴う労働人口の減少
日本の高齢化は世界に類をみない速度で進んでおり、労働人口も減少の一途をたどっています。
労働人口の確保として、高齢者の雇用は欠かせません。 -
高齢者の生活維持サポート
退職後の生活を支える年金制度は高齢化に伴い年々厳しくなっており、支給額の減少や支給開始年齢の引き上げが講じられています。
高齢者の生活をサポートするためにも、高齢者の雇用は必要とされるようになりました。 -
高齢者が持つ高い労働意欲
また健康寿命は年々高くなっており、それに伴い高齢者自身の「働きたい」という意欲も大きくなっています。
以下の調査では、約7割の人が「70歳まで働きたい」と回答しています。
引用:厚生労働省「高齢者雇用安定法ガイドブック」
健康寿命を維持させるためにも、働く意欲に沿うためも、高齢者の雇用に関するルールは見直される必要がありました。
高齢者雇用安定法の改正「70歳までの就業確保」とは
2021年に改正された高齢者雇用安定法の内容を確認しましょう。大きな改正ポイントのひとつ目は、「70歳までの就業確保」が努力義務とされた点です。
現行は「65歳までの雇用確保」が義務
現行では「65歳までの雇用確保」が義務付けられています。労働者はどの企業に属していても、雇用形態が変わる可能性はありますが、65歳までは必ず働くことができる状況です。
引用:厚生労働省「パンフレット(詳細版)高齢者雇用安定法改正の概要」
この規定は2012年の改正で決まったことですが、今回の2021年改正後も継続して義務づけられています。
改正により「70歳までの就業確保」が努力義務に
現行の「65歳までの雇用確保」の義務は継続のまま、2021年の改正で「70歳までの就業確保」が努力義務として加わりました。
65歳までではなく、70歳までは全ての労働者がなんらかの形で働ける社会にしていくことを目指す施策です。
対象となる措置
具体的な内容として、事業主は以下5つのいずれかの措置を講ずることが努力義務とされました。
引用:厚生労働省「パンフレット(詳細版)高齢者雇用安定法改正の概要」
措置のひとつである再雇用制度については、以下の記事で詳しく解説しています。
対象となる事業主
努力義務である「70歳までの就業確保」の対象は、以下の事業主です。
- 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
- 65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く) を導入している事業主
2012年の改正で義務化された「65歳までの雇用確保」に対応した企業のうち、定年制を廃止した企業以外はほぼ対象になると推測されます。自社の確認を行いましょう。
高齢者雇用安定法の改正「再就職援助措置等の対象となる高年齢者等の範囲の拡大」とは
高齢者雇用安定法の改正の大きなポイントふたつ目は、高齢者が離職する際の「再就職援助措置」の対象基準65歳未満が、2021年の改正により70歳未満に変更されたことです。
- 再就職援助措置(努力義務)
- 多数離職届(義務)
- 求職活動支援書(義務)
上記3つの「再就職援助措置」の対象が、以下の範囲に広がりました。
引用:厚生労働省「パンフレット(簡易版)高齢者雇用安定法改正の概要」
70歳までの高齢者はまだ働ける年齢であり、離職の際も企業が対応する必要性があります。
改正ポイントのひとつ目として解説した「70歳の就業確保」が努力義務であるのに対し、こちらの「再就職援助措置」は義務の範囲も含まれるため、必ず対応が必要です。
改正前の「65歳までの再就職援助措置」をきちんとおこなっていれば大きな対応は必要ないかもしれませんが、就業規則の年齢の変更等は忘れずにおこないましょう。
高齢者を雇用する際は、保険についても確認が必要です。以下の記事では70歳以上の従業員でも加入できる雇用保険についてご紹介しています。
高齢者雇用安定法の改正に伴い企業がすべき「対応手順」
2021年の改正の概要を紹介しましたが、改正に対応するために「具体的にどう取り組めばよいのか」が難しいところです。
ここでは、今回の改正に伴い企業が行うべき対応手順を解説します。
70歳就業確保「5つの措置」の選択と対応
まず、改正ポイントひとつ目である「70歳までの就業確保」の下記5つの措置のいずれを講ずるかを、労使間協議の上で決めましょう。
引用:厚生労働省「パンフレット(詳細版)高齢者雇用安定法改正の概要」
5つの措置のどれを講ずるかについては、「労使間で十分に協議を行い、高年齢者のニーズに応じた措置を講じていただくことが望ましい」とされています。
必ず労使間で協議を行い、高年齢者の意見も組みながら決めるようにしましょう。
①~⑤のいずれか一つの措置に絞る必要はなく、複数の措置を選択することも認められています。
個々の高年齢者にいずれの措置を適用するかについては、当該高年齢者の希望を確認し、十分に尊重して決定することが大切です。
5つの措置それぞれに細かい留意点がありますので、選択の前に厚生労働省の資料などで確認するようにしましょう。
⇒厚生労働省:「パンフレット(詳細版)高齢者雇用安定法改正の概要」
特に④⑤を「創業支援等措置」といいますが、創業支援措置のみを講ずる場合は労働組合の過半数の同意が必要であり、計画書の作成なども提案されているため、しっかりと事前確認をおこないましょう。
「70歳就業確保」の対象者を決める
上記5つの措置の①②の対象は必ず全労働者ですが、③④⑤については対象者を限定する基準を設けることが可能です。③④⑤を選択した場合は、対象者の範囲を決めましょう。
対象者基準は原則として労使に委ねられるものですが、以下2点の留意点が挙げられていますので注意してください。
- 原則として労使に委ねられるものですが、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましい
- 事業主が恣意的に一部の高年齢者を排除しようとするなどの趣旨や、他の労働関係法令・公序良俗に反するものは認められない
※ここでいう認められない対象者としては、「会社が認めた者」や「上司の推薦がある者」、「組合活動に従事していない者」、「男性・女性(性別で限定する)」などの例が提示されています。
就業規則の変更
加えて必要な対応は、就業規則の変更です。定年や雇用確保措置・就業確保措置の変更や新設をおこなう場合、就業規則等を変更する必要があります。
上記で選択した措置の内容や対象の範囲を追記し、高齢者離職の対応の年齢の訂正などをおこないましょう。
また常時10人以上の労働者を雇用する事業主の場合、変更した就業規則を所轄の労働基準監督庁に届け出る必要がありますので、忘れないよう気を付けましょう。
高齢者雇用状況等報告
事業主が毎年厚生労働大臣宛てに提出している高齢者雇用状況等報告書ですが、2021年4月の改正に併せて書式が変更されているので、新しい様式で提出するようにしましょう。
高齢者雇用状況等報告とは、事業所の規模に関わらず全ての事業主に義務づけられているものです。
高年齢者雇用安定法第52条第1項に基づき、毎年6月1日時点の高年齢者の雇用状 況等を毎年7月15日までに厚生労働大臣宛に提出する報告書です。
毎年のことなのでそのまま報告書を作成してしまわないよう、変更した様式に切り替えるよう注意してください。
高齢者雇用状況報告書の書き方については、以下の記事で詳しく解説しています。
高齢者雇用安定法の 努力義務を怠った場合の「罰則」は?
今回の改正は義務の範囲もありますが、大きくは努力義務とされており、対応が遅れがちです。対応を怠った場合の罰則は気になるところです。
今回の改正の対応を怠ったことに対する罰則は、ありません。
ただし、厚生労働省は以下のように述べており、努力義務を怠った場合は指導・勧告の対象になる可能性があるため疎かにしてはいけません。
「70歳までの安定した就業機会の確保のため必要があると認められるときは、高年齢者雇用安定法に基づき、ハローワーク等の指導・助言の対象となる場合があります。
さらに、指導等を行った場合において状況が改善していないと認められるときは、高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告、または高年 齢者就業確保措置の実施に関する計画の作成を勧告する場合があります。」
引用:厚生労働省 高年齢雇用安定法改正の概要
また2012年に「65歳までの再就職援助措置」が義務化されたばかりで、現在は段階を踏んでいる途中と考えられます。
いずれは義務化される可能性が高いので、対応に取り組むことをおすすめします。
高齢化社会の現状を踏まえ、70歳に変更することは企業の将来性のためにも有効であり、企業のイメージアップにも繋がるでしょう。
令和4年度65歳超雇用推進「助成金」
法の改正に伴い、助成金も準備されています。改正に伴う対応には費用もかかりますので、少し手間はかかっても助成金の活用がおすすめです。
対応内容に合わせて、3つのコースが準備されています。
※それぞれに支給要件が異なりますので、詳しくは厚生労働省のホームページにてご確認ください。
1.65歳超継続雇用コース
令和4年4月1日以降に、以下4項目のいずれかを実施した事業主に対して助成金が支払われます。
A. 65歳以上への定年引上げ
B. 定年の定めの廃止
C. 希望 者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
D. 他社による継続雇用制度の導入 のいずれかを実施した事業主に対して助成を行うコース
<支給額>
定年引上げ等の措置の内容や年齢の引上げ幅等に応じて、下表の金額が支給されます。
引用:厚生労働省「令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内」
2.高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置(対象となる措置は指定されています)を実施した事業主に対して、一部経費の助成金が支給されるコースです。(実施期間:1年以内)
<支給額>
支給対象経費の額に下表の助成率を乗じた額が支給されます。
引用:厚生労働省「令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内」
3.高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させた事業主に対して助成 が支払われます。
<支給額>
対象労働者一人につき、下表の金額が支給されます。
引用:厚生労働省「令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内」
高齢者を雇用した際の助成金については、以下の記事で詳しく解説しています。
高齢者を雇用する5つのポイント
法の改正に伴った対応をしたあとには、実際に高齢者を雇用するための「高齢者を迎え入れる体制作り」も必要となります。
身体能力が衰えている高齢者が職場から排除されることなく、その職業能力が 十分発揮できるよう高齢者雇用のポイントを押さえましょう。
①職業訓練などの教育体制整備
高齢者の場合、直近は実務から離れた管理職の立場だったことが多く、パソコンなどの基礎的な知識が乏しいなどの可能性があります。
必要に応じて職業訓練が受けられる体制を整えましょう。
公共職業能力開発施設・民間教育訓練機関で実施される職業訓練の活用もおすすめです。
②勤務時間の柔軟化
高年齢者の体力はさまざまですので、短時間勤務、隔日勤務、フレックスタイム制などを活用し、無理なく働ける制度を整えましょう。
③職場環境の改善
身体能力の低下に合わせ、手すりの取り付けや明るい照明への変更など、高齢者が働きやすい環境への配慮は必要です。
作業補助に役立つ機械設備の導入も効果的です。
④高年齢者の能力に合わせた職務の準備
高齢者の能力を発揮できる職務を事前に準備しておきましょう。
たとえばコミュニケーションが得意な人には顧客対応を、人生経験が豊富な人にはトラブル対応の補助など、能力に合わせた職務があります。
若い世代とは別の活躍の場を用意することで、高齢者も若い世代もお互いに尊重し合った円滑な職場環境へ繋がります。
⑤能力に合わせた評価体制の整備
高齢者から今までの給与体系と比較した不満などが出ないよう、職業能力を評価する仕組みを整えることはもちろん、資格制度や専門職制度なども整備しておきましょう。
評価基準を明確にして、高齢者が成長意欲を持って仕事に取り組めることが大切です。
若い世代に比べ、高齢者の身体能力は加齢に伴って衰えています。
しかし、高齢者は経験に基づく高い能力を備えており、活用しないのは企業の損失に当たります。
若い世代と高齢者がお互いに補い合い、支え合って成り立つ職場が理想の職場ではないでしょうか。
上記のポイントを押さえておけば、高齢者の雇用は様々な良い影響をもたらします。高齢者雇用のメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。
高齢者雇用安定法の改正に合わせた対応は早急に!
高齢者雇用安定法の2021年改正の大きなポイントを2つご紹介し、そのうえで企業が行う改正に伴う対応手順と、その際に活用できる助成金、高齢者を雇用した際のポイントなどをご紹介しました。
繰り返しになりますが、今回の改正「70歳までの就業確保」が努力義務だからといって、対応を怠ってはいけません。
厚生労働省から指導が入る可能性もありますし、なにより高齢化が進む現代において企業が存続する上で必要な取り組みです。
また高齢者の能力を上手に活用することで、企業の発展に期待できます。
今回の高齢者雇用安定法の改正に伴い、いま一度自社の規定を見直すことをおすすめします。
高齢者を雇う際には、労働災害にも気をつけると良いでしょう。以下のお役立ち資料では、高齢者の労働災害をふせぐためにできることについて、詳しくご紹介しています。
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