産業医の業務内容や役割とは?テレワークによる業務変革についても解説!
従業員50人以上の事業場では産業医の選任が義務づけられていますが、現場ではどのような業務をおこなっているのでしょうか。
この記事では、産業医の業務や役割について解説します。また、テレワークが一般化するなかで産業医の業務にどのような変化が表れているのかを紹介していきます。
産業医の役割は健康経営への大きな礎
産業医とは、事業場において労働者が健康に働けるように、専門的な立場から支援する医師のことです。
従業員50人以上の事業場(正社員・パート・アルバイト・契約社員・派遣社員も含む)では、産業医の選任義務があります。
産業医は嘱託産業医と専属産業医に分かれていますが、業務内容に大きな違いはありません。
医学的な立場から、労働者の健康保持増進・職場改善などの助言をして、労働者の健康管理をおこなう役割を担っています。
産業医の役割は、健康経営を目指す企業にとって大きな礎になってくるため、事業者は協力体制を整える必要があるでしょう。
産業医を選ぶ際のポイントについては、以下のお役立ち資料で詳しくご紹介していますのでぜひご覧ください。
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産業医を選任した際は、選任届の提出が必要です。選任届の作成方法や届出の仕方については、以下の記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
産業医への理解を深めるために、ここからは具体的な業務内容について確認していきます。
産業医の実質的な業務内容9つ
産業医の業務は、従業員の健康を守ることであり、労働安全衛生規則第14条第1項によると、以下に示す事項で医学に関する専門的知識を必要としています。
引用:厚生労働省「産業医ができること」
上記を踏まえたうえで、産業医がおこなう「労働者の健康管理」や「職場改善」など実質的な業務内容を解説していきます。
1.健康診断の結果に基づく相談や面談
健康診断の実施は、労働安全衛生法第66条の4で義務付けられています。産業医は、労働者の健康診断の結果を確認してから異常所見の有無を判断し、「異常の所見がある」と診断された労働者に対して就業判定をおこないます。
通常業務が可能なのか、就業制限をした方が良いのか、休業が必要なのかなど3区分に分けたあと、就業上の措置が必要な場合、企業側に意見書を提出します。
就業判定の意見書の例は以下のとおりです。
- 就業制限:労働時間の短縮・時間外労働の制限・就業場所の変更・作業の転換など
- 要休業:療養のため休暇・休職
また、従業員から希望があれば健康診断後に面談をおこない、健康面に対する相談・生活習慣の指導・医療機関への受診といった助言もおこなっています。
2.ストレスチェックの実施と対応
従業員数が50人以上の事業場は、ストレスチェックの実施が義務化されています。
メンタルヘルスの不調者を未然に防ぐ目的で実施されており、一般的にストレスチェック実施者には企業の産業医が選ばれるケースが多いです。
産業医は、ストレス度合いの評価結果・高ストレス者の判定・面接指導の必要性を従業員に通知します。
ストレスチェック後に高ストレスと診断された従業員には「面接指導」をおこない、就業に関する意見や休業に関する助言をおこないます。
産業医との面談は、本人が面接指導を希望をしたときに限られているため、企業側は高ストレス者が面談を受けやすい環境を整えておくことが重要です。
詳しくは以下の記事で詳しく説明していますのでご覧ください。
3.長時間労働者への面接指導
長時間労働者への産業医面談は、労働安全衛生法第66条の8で「医師による面接指導制度」として義務づけられています。
引用:厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」
- 時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり80時間を超え、疲労の蓄積があり面接を申し出る労働者
- 時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり100時間を超えた研究開発業務従事者など
上記で示すような「長時間労働者」には、産業医が健康被害を防止するための面接指導を実施します。
実施後に、従業員へ指導や助言をおこない、企業側へ業務の配置や作業内容の変更といった措置を指示します。
4.休職・復職の判断や面談の実施
産業医は「休職・復職の判断」「休職・復職の面談実施」「復職後のフォロー」などをおこなうのも業務の1つです。
休職に関しては、従業員が休職を希望した場合や、体調不良による勤務状況の悪化、もしくは健康診断やストレスチェックで異常が見られた場合に「休職面談」を実施し、休職が必要かどうかを判断します。
復職に関しても、休職していた従業員が職場復帰を希望する場合には「復職面談」を実施し、職場復帰できるくらい病状が回復しているかを判断します。
仮に復職が認められたとしても、普段通りの労働条件で働けないと判断した場合には、企業側に就業制限を設けるように指示するケースが出てくるでしょう。
5.職場巡視による作業環境の管理
産業医は、毎月1回(ただし条件によって2ヶ月に1回でも可能)作業場などを巡視し、安全衛生上問題がないかをチェックする必要があります。
産業医が衛生面や作業環境でチェックすべき点は、製造業や事務所などによって違いがありますが主に以下のとおりです。
オフィス環境
- 室内照明などの作業環境
- VDT(コンピュータを用いた作業)の環境
- 温度湿度管理・換気・空調
- ソーシャルディスタンスの確保・マスク着用の有無などの飛沫感染面
- コンセントなど電気用具管理
- 整理整頓・備品管理・ゴミ分別の衛生環境
- トイレ・給湯室・冷蔵庫内の衛生管理
- 休養室・休養所の設置
防災・安全
- 救急用具・防災備品の管理
- 消火器の設置状況
- 非常口・非常経路の確認
- キャビネットなどの設置状況
職場巡視の結果、作業方法や衛生状態に問題がある際は、従業員の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければなりません。
6.衛生委員会への参加(出席)
従業員数が50名を超えた事業場では、衛生委員会を開催しなければなりません。産業医の出席は義務ではありませんが、構成員として出席することが望ましいです。
産業医は、衛生管理・健康管理・職場環境などさまざまな問題を、医学的な立場から改善に向けた助言や指導をおこないます。
他にも、衛生に関する知識向上のために、毎月数分程度の衛生講話を実施する場合もあります。
衛生委員会についての詳細は以下の記事で詳しく解説しています。
7.事業者へ健康管理体制についての勧告
従業員の健康確保が不十分な場合は、産業医が事業者に勧告することができます。
厚生労働省の資料を参照してみましょう。
引用:厚生労働省「現行の産業医制度の概要等」
通常は、産業医が健康被害の可能性がある従業員との面談、次に事業者に対して就業上の措置に関する意見を述べます。
事業者は、産業医からの意見によって就業上の措置を講じていく流れです。
しかし、産業医が意見を述べたにもかかわらず「就業上の措置が改善されていない」「従業員の健康が確保されていない」場合には事業者に対して勧告をおこないます。
事業者は産業医の勧告を尊重しなければならず、勧告内容を衛生委員会や安全衛生委員会などで報告する義務があります。
ただし、産業医の勧告が一方的にならないよう、あらかじめ事業者の意見を求めておかなければなりません。
8.健康情報の管理
産業医には守秘義務が課されているため、従業員の健康に関する情報の取扱いには注意が必要です。
必要以上に健康診断や面接指導の結果を開示して、従業員に負担をかけないようにしなければなりません。
健康に関する情報は「従業員の健康を確保すること」や「事業者がおこなう安全配慮義務」が目的です。
従業員の健康を守るためにも、プライバシー保護への配慮が必要になってくるでしょう。
9.補足:産業医の業務と主治医では役割や立場が違う
産業医の業務と主治医の業務では、役割や立場が違います。産業医は「事業者や従業員」が職務対象であり、主治医は病気を患っている「患者」が職務対象となります。
産業医と主治医の業務は以下のとおりです。
- 産業医:医学的な立場から従業員の健康確保や職場環境の改善などについて助言や勧告をする
- 主治医:患者と直接接して診察・治療をおこない、診断書の作成をする
産業医については以下の記事で詳しく解説しています。ぜひチェックしてみてください。
テレワークによって産業医の業務にも変化が
テレワークや在宅勤務が一般化する一方で、産業医のオンライン対応にも注目が集まっています。以前までは、産業医による健康相談や休職・復職面談などは、直接対面での面談が原則でしたが、2020年11月の厚生労働省の通達により、直接対面の原則が削除されました。
これにより、産業医による「オンラインでの面接指導」が可能になりましたが、事業者や産業医には、対面でおこなってきた面談と同等の水準が求められています。
では、労働衛生の水準を損なわないために、どのように対応していくべきなのかを見ていきましょう。
事業者の対応:環境の整備
事業者はオンライン面談において、産業医が従業員一人ひとりの健康確保のために効果的な活動をおこなえるを整備する必要があります。オンライン環境を整備するにあたって、以下の内容について留意しましょう。
- 労働者への周知……産業医がおこなうオンライン面談を衛生委員会で話し合い、実施が認められたら労働者に周知する
- 産業医へ詳細な情報を提供……労働者が配属する事業場の業務内容・作業環境・勤怠情報・健康に関する情報などが詳細かつスムーズに提供できる仕組み構築
- 使用する情報通信機器……簡便性(産業医や労働者が容易に利用できるもの)・安定性(映像・音声の送受信が安定し、相互の意見交換が円滑に実施できるもの)・セキュリティ確保(個人情報の漏洩の防止や不正アクセスの防止の措置)などに重点をおく
以上のような環境整備ができた上で、産業医によるオンライン面談が可能になります。
産業医の対応:オンライン面談
オンラインの面談指導が可能な産業医ですが、厚生労働省からの通達によると以下の4つの条件いずれかに該当することが望ましいと示しています。
- 対象従業員が所属する事業場の産業医
- 少なくとも1年以上にわたり、対象従業員の事業場で健康管理を実施する産業医
- 過去1年以内に、対象従業員が所属する事業場の巡視を経験したことのある産業医
- 過去1年以内に、対象従業員に指導等を実施したことがある産業医
産業医は、オンライン面談では読み取りにくい対象者の表情・顔色・声の調子・しぐさなどに留意しながら、健康状態を把握することが求められています。
そのためにも、対象者の詳細な事前情報を準備してから対応するのが望ましいでしょう。
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産業医の業務を理解して自社にぴったりな産業医を選ぼう
健康経営を目指す企業にとって産業医は、専門的な立場で労働者の健康を守り、経営をするうえで欠かせない存在です。
従業員の健康と安全が守られることで、生産性の向上や従業員のモチベーションアップといった組織全体の活性化が期待できます。
産業医の選任を検討している人事労務担当者の方は、産業医の業務を理解し、自社に見合う産業医を選任しましょう。
産業医を選ぶ際のポイントについては、以下のお役立ち資料で詳しくご紹介していますのでぜひご覧ください。