長時間労働者へは産業医面談が必要! 法改正後の対象者基準・実施の流れなどを解説
実施が義務づけられている「長時間労働者への産業医面談(医師による面接指導)」。
本記事では2019年4月の法改正を踏まえた上で、産業医面談の概要やねらい、面談対象者の選定基準、実施の流れ、事業者が行うべき周知や配慮などについて解説します。
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長時間労働者への産業医面談は義務! 概要と実施のねらいは?
長時間労働者への産業医面談は、労働安全衛生法第66条の8で「長時間労働者への医師による面接指導制度」として義務づけられています。
「長時間労働者への医師による面接指導制度」の概要と実施のねらいについて、しっかり理解しておきましょう。
「長時間労働者への医師による面接指導制度」とは?
画像引用:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」
「長時間労働者への医師による面接指導制度」とは、健康障害発症のリスクが高まった労働者の心身状況を把握し、問診その他の方法による面接指導の実施、および面接結果を踏まえた措置を行うものです。
働き方改革関連法の一環として2019年4月より労働安全衛生法や労働安全規則が改正され、面接指導を行うべき対象者の選定基準が拡大したほか、実施方法に新たな制約が設けられました。2019年の法改正は、労働者の健康管理強化を目的としています。
面接指導を実施するねらい
近年、長時間におよぶ過重な労働は疲労蓄積の重要な要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患や精神障害といった健康障害との疫学的な関連が認められています。
健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないためにも、確実に面接指導を実施しましょう。適切に実施しない場合、法律違反になる場合もあるため注意が必要です。
面接指導の実施者と実施場所について
面接指導の実施者、実施場所について解説します。
面接指導の実施者は産業医・医師・産業看護職のいずれか
長時間労働者への面接指導は、事業場に選任されている産業医が実施することが望ましいです。
産業医とは、事業場において、専門的な立場から労働者の健康管理などに関する指導や助言を行う医師のことです。常時使用する労働者が50人以上の事業場において選任義務があります。
また、産業医を選任していない事業場は、以下の者に面接指導の実施を依頼しましょう。
- 地域産業保健センターの登録医
- 健康診断機関(労働衛生機関)の医師
- 産業看護職(補助的な面談を依頼し連携することが可能)
面接指導は対面が原則! 条件を満たせばテレビ電話での実施も可能
面接指導は、相談室・面談室・会議室といったプライバシーが確保できる場所で実施するのが好ましいです。
対面面接が原則ですが、実施者が表情やしぐさなどを確認できるといった一定の条件を満たせば、テレビ電話など通信機器を用いた面接指導を行うこともできます。
面接指導の対象者基準が2019年4月より変更(法改正)
2019年4月の法改正にともない、面接指導を行う対象者の選定基準が変更されました。改正後の対象者要件は以下のとおりです。
画像引用:労災疾病臨床研究事業費補助金研究「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」
上記の「時間外・休日労働時間」とは、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)と法定休日(毎週少なくとも1回または4週4回以上)を基準として、その超えた時間を算定したものです。事業場で定めた「所定労働時間、所定休日」ではないことに注意してください。
また、1か月の時間外・休日労働時間数の算定方法は以下のとおりです。
画像引用:厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック」
「時間外・休日労働が月80時間超」の労働者に対する産業医面談
画像引用:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」
改正前は「時間外・休日労働時間が月100時間超」の労働者が面接指導の対象でしたが、2019年4月の改正以降は「月80時間超」に対象が拡大されました。
そのほか、以下の点にも気を付けましょう。
- 実施要件を満たしている労働者であっても、労働者の申出があった場合のみ面接指導を行う
- 派遣労働者への面接指導は、派遣元事業者に実施義務がある
- 実施要件を満たしているが申出のない労働者、実施要件を満たしていなくても健康への配慮が必要な労働者に対し、事業者は面接指導を行えるよう努める
「研究開発業務従事者」への産業医面談
画像引用:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」
研究開発事業従事労働者に対する医師による面接指導の重要ポイントは以下の3つです。
- 時間外・休日労働時間が月100時間超の対象者
⇒本人の申出なしで実施、未実施による罰則あり -
月80時間超の時間外・休日労働で健康への配慮が必要と認めた者
⇒本人の申出があれば実施、未実施による罰則なし -
面接指導の実施に要する時間は労働時間とみなす
⇒賃金を支払う必要がある
「高度プロフェッショナル制度対象労働者」への産業医面談
画像引用:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」
高度プロフェッショナル制度とは、労基法の労働時間、休憩、休日・深夜の割増賃金などの規定を適用除外とする制度です(労基法第41条の2)。
対象者は、職務の範囲が明確な高度専門職で年収1,075万円以上の高所得者になります。
専門用語の意味と実施の留意点を押さえた上で、高度プロフェッショナル制度対象労働者に対する医師による面接指導を行いましょう。
- 健康管理時間とは、事業場内にいた時間+事業場外で労働した時間の合計
- 省令で定めた時間とは、週40時間を超えた場合におけるその超えた時間が月100時間(労働安全規則第52条の7の4第1項)
- 健康管理時間が省令で定める時間を超える者に対しては、本人の申出なしに医師による面接指導を行う(未実施は50万円以下の罰金)
- 面接指導の費用は事業者負担
- 面接指導に要する時間は健康管理時間に含まれる
補足:長時間労働者は産業医面談(医師による面接指導)を拒否できる
長時間労働者に対する医師による面接指導は、「本人の申出なしに実施」という法規制がない限り、労働者本人の申出があった場合のみ実施します。
「申出があった際に会社側に実施義務が発生する」という捉え方が適切です。
会社側は労働者に対して面接指導の申出を勧奨できますが、労働者が拒否した場合は強制的に受けさせることはできません。
ただし拒否する労働者に対しては、面接指導の意義や受けるメリットを説明し、実施への理解を促すのが望ましいです。
長時間労働者に対する面接指導(産業医面談)の流れ
長時間労働者への医師による面接指導(産業医面談)の流れは以下のとおりです。
画像引用:日本労働組合総連合会「「労働安全衛生法」が改正されました!」
二重線が引かれた5箇所は、2019年4月の法改正によって新設された内容です。うち4箇所は、会社側が対応すべき事柄になります。4箇所の詳細をみていきましょう。
1.事業者はすべての労働者の労働時間を適正に把握すること(義務)
事業者には、全ての労働者の労働時間を適正に把握する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全規則第52条の7の3第1項、第2項)。
労働時間に対する基本的な考え方は、以下を参考にしてください。
画像引用:厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー」各回共通のセミナー資料
このほか、労働時間の把握義務については以下の点にも留意しましょう。
- 労働時間の状況の把握は客観的な方法で行う(例:タイムカード記録、PCのログ記録、ICカードの使用時間)
- 管理監督者や裁量労働制の適用者も含めた全ての労働者が把握対象(高度プロフェッショナル制度適用者を除く)
- 労働時間の状況の記録は3年間保存する
2.事業者は労働者の情報を産業医に通知すること
事業者は、時間外・休日労働時間が月80時間を超える労働者の情報を、産業医に提供しなければなりません(労働安全規則第52条の2第3項)。
事業者は、次のア〜ウの情報を産業医に通知してください。
画像引用:厚生労働省「「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます」
イの「当該超えた時間に関する情報」とは、労働時間や作業環境、作業負荷の状況、深夜業の回数および時間数などを指します。
そのほか、産業医が労働者の健康管理を適切に行うために必要と認める情報は、産業医から求められたら速やかに提供しましょう。
また、通知時の留意点は次のとおりです。
- 労働状況に関する情報は、1か月の労働時間を把握した後、おおむね2週間以内に通知
- 措置に関する情報は、意見聴取後、おおむね1か月以内に通知
- 書面による情報提供が望ましい
- 産業医は提供された情報に基づき、長時間労働者に対して面接指導の申出の勧奨をすることができる(労働安全規則第52条の3第4項)
補足:労働時間に関する情報は「労働者本人への通知」も必要
時間外・休日労働時間が月80時間を超えた労働者本人に対し、事業者は労働時間に関する情報を速やかに通知しなければなりません(労働安全規則第52条の2第3項)。
この通知は、疲労の蓄積が認められる労働者の面接指導の申出を促すためのものです。
通知する際には以下の点に留意してください。
- 面接指導の実施方法・時期などの案内も併せて行うのが望ましい
- 管理監督者、事業場外労働のみなし労働時間制の適用者を含めた全ての労働者に通知する(高度プロフェッショナル制度適用者を除く)
また、時間外・休日労働が月80時間を超えない労働者から情報開示を求められた場合、事業者はそれに応じることが望まれます。
3.事業者は実施した措置内容を産業医に提供する
事業者は、面接指導後に産業医の意見を熟考した上で、適切な事後措置を決定・実施します。事後措置の種類は次のとおりです。
画像引用:労災疾病臨床研究事業費補助金研究「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」
事業者は、最終的に決定した事後措置(講じなかった場合はその旨と理由)を産業医へ報告してください。
措置の実施後に労働者の健康状態が改善しない場合は、医師による面接指導を再び行い、適切な措置を実施しましょう。
4.産業医からの勧告内容を衛生委員会に報告する
画像引用:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」
面接指導の事後措置について、労働者の健康確保が不十分な場合は、産業医が事業者に勧告することができます。ただし勧告内容について、産業医はあらかじめ事業者の意見を求めなければなりません(労働安全衛生法第13条の5、14条の3)。
産業医の勧告を受けた事業者は、勧告内容を衛生委員会(※)に報告してください。
(※)衛生委員会とは、労働者の健康障害防止策などを協議する場。常時50人以上の労働者を使用する事業場は設置義務あり。
補足:事業者が行う記録の保存【一覧表】
事業者は、面接指導にまつわる各記録を一定期間保存する必要があります。
- 面接指導の結果を記録し、5年間保存
- 面接指導後に事業者が講じた措置内容(※)を記録し、5年間保存
- 衛生委員会に報告する「産業医からの勧告内容」と、勧告を踏まえて講じた措置内容(※)を記録し、3年間保存
(※)措置を講じない場合は、その旨と理由を記録して保存すること。
長時間労働者に産業医面談を受けてもらうための準備
産業医が労働者の健康管理を適切に行えるよう、事業者は社内体制の整備に努めましょう。「周知」と「配慮」の面で、事業者が取り組むべきことを解説します。
産業医を選任した旨および業務内容、産業医面談の開始を周知する
2019年4月の法改正により、産業医を選任した事業者は、その事業場における産業医の業務の内容などを労働者に周知しなければならなくなりました(労働安全衛生法第101条第2項、労働安全規則第98条の2)。
周知する内容と方法は、下記画像を参考にしてください。
画像引用:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」
産業医面談の申出がしやすいように配慮する
産業医が労働者の健康管理を適切に実施できるよう、事業者は必要な体制の整備、その他の必要な措置を講じる努力をしなければなりません(労働安全衛生法第13条の3)。
事業者が行うべき体制の整備とは、次のとおりです。
- 産業医による健康相談の申出方法(窓口・日時・場所など)を周知する
- 労働者の心身の状態に関する情報の取扱方法を周知する
労働者のなかには「産業医面談を受けることで、人事評価的に不利益になるのではないか」と不安に思う人もいるかもしれません。
労働者の心身の状態に関する情報を収集するに当たり、健康確保に必要な範囲内で使用・保管する旨を必ず周知しましょう(労働安全衛生法第104条、労働安全規則第98条の3)。
「面接指導前に得られる情報」を事前に把握する体制を構築する
画像引用:労災疾病臨床研究事業費補助金研究「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」
産業医面談では、「業務の過重性」と「心身及び生活の状況」の評価を行います。
評価をスムーズに行うためにも、「面接指導前に得られる情報」を事業者と産業医で事前把握する体制を整えましょう。また、日頃から産業医と労働者が接する機会を多くすることも、情報把握に繋がります。
長時間労働者への産業医面談は、法改正を踏まえて適切に実施しよう
2019年4月の法改正により、長時間労働者への産業医面談(面接指導)の内容に大幅な変更が出ました。特に注意すべきは、労働者の労働時間把握が義務化したこと、そして面接指導を行う対象者の選定基準が拡大したことです。
国を挙げて労働者の健康管理強化が進められるなか、健康管理における膨大なデータ管理業務に疲弊する人事労務担当者も少なくありません。
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