職場復帰支援プログラムの手引き|ひな形や復職事例も詳しく紹介
メンタルヘルスの不調による休職者が増える昨今、職場復帰支援は企業にとって必要不可欠な制度となっています。
この記事は、企業が職業復帰支援プログラムを作成するための手引きであり、プログラムの内容やひな形、復職事例までわかりやすく解説しています。
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メンタルヘルスによる不調で休職者が出た場合の復帰支援については、以下の資料でわかりやすく解説しています。
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職場復帰支援プログラムとは
「職場復帰支援プログラム」とは、心の健康問題で休業している労働者が円滑に職場復帰するために、休業から復職までの流れを明確化した計画書です。
各事業場で実態に合ったプログラムの策定などが行われ、円滑な職場復帰支援が実施されることを目的としています。
職場復帰支援が推奨される背景
職業生活において強い不安やストレスを感じる労働者は増加傾向にあります。以下図より「メンタルヘルス上の理由で過去1年間に連続1か月以上休業した労働者」が0.4%の割合で存在することが確認されています。
一定数のメンタルヘルス不調による休職者がいる状況の中、休職した労働者の円滑な職場復帰を支援することは、貴重な労働力の維持・活用を図る企業経営の観点から事業場にとって大きな課題となっています。
厚生労働省も推奨する「プログラム」の重要性
厚生労働省は職場復帰支援の周知に積極的に取り組んでおり、事業場向けマニュアルとして「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成 16 年 10 月作成、平成 21年3 月改訂)を公表しています。
このマニュアルの中では、関係者の役割や活動の基本を実情に即した形で復職支援を「プログラム」 として策定しておくことが推奨されています。
プログラムの策定には以下のメリットがあり、プログラム化は復職支援において必要不可欠な取り組みといえるでしょう。
- デリケートで滞りがちな対応がスムーズに進む
- 休職者は復帰までの道筋が明確に見通せ、安心して休養できる
- 復職後も想定しているため、休職者が復職せずに離職する、また復職しても再度離職してしまう事例を防ぐことに繋がる
改めて、復職の定義や復職制度の要点について知りたい方は以下の記事をぜひご一読ください。
職場復帰支援プログラム全体の流れ5ステップ
「職場復帰支援プログラム」は、以下の5つのステップで進めるよう提示されています。
事業者はこの流れを基準にして、各事業場に合わせた内容で「職場復帰支援に関する体制」を整備・ルール化し、プログラムを作成します。作成前に、5つのステップの内容を確認しておきましょう。
<第1ステップ> 病気休業開始及び休業中のケア
第1ステップは、「休職の開始手続き」と「休職期間中の休職者への対応」です。
労働者から管理監督者に診断書(病気休業診断書)が提出され、休職が始まります。その旨は管理監督者から人事労務管理スタッフなどに伝え、労働者の負担は最小限に抑えましょう。
労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念できるよう、必要な事務手続きや職場復帰の手順など、次のような項目について情報提供を行いましょう。
- 傷病手当金などの経済的な保障
- 不安、悩みの相談先の紹介
- 公的または民間の職場復帰支援サービス
- 休業の最長(保障)期間 など
それぞれの内容は、「担当マニュアル別紙(独立行政法人労働者健康安全機構)」により詳しく書かれていますので、参考にしてください。
また主治医と相談した上で、体調に配慮しながら休業期間中も休職者と連絡を取るようにしてください。対面や電話が難しいようであれば、メールなどでも問題ありません。
<第2ステップ> 主治医による職場復帰可能の判断
休職者の体調が回復したら、「職場復帰が可能かどうか」を慎重に判断します。
まず主治医による「職場復帰が可能」という判断が記された診断書を準備します。主治医による診断は日常生活における回復程度を基準としていることが多いため、職場で求められている能力と照らし合わせ、産業医が精査することが必要です。
<第3ステップ> 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
第2ステップで確認した主治医の意見に加え、労働者の意思や状況、職場環境などを評価し、最終的な職場復帰の可否を判断します。
職場復帰が「可能」と判断されたら、それぞれの休職者に合わせて作成された復帰までの計画書「職場復帰支援プラン」を作成しましょう。
「職場復帰支援プラン」には、以下項目を検討した上で記載します。
- 職場復帰日
- 管理監督者による就業上の配慮(業務サポートや業務量の変更など)
- 人事労務管理上の対応など(配置転換や異動、勤務時間変更など)
- 産業医などによる医学的見地からみた意見
- フォローアップ
- その他
「職場復帰支援プラン」の作成にあたっては、事業場内産業保健スタッフなどを中心に管理監督者、休職中の労働者の間でよく連携しながら進めることが大切です。
<第4ステップ> 最終的な職場復帰の決定
第3ステップにおいて職場復帰が可能と判断され、職場復帰プランの準備もできたら、事業場が最終的な職場復帰の決定を行います。
最終的な決定は、産業医が作成した「 職場復帰に関する意見書(様式例3)」をもとに行います。
この意見書に記載されている職場復帰の対応や配慮の内容は主治医に伝え、今後の連携も図るよう努めましょう。
<第5ステップ> 職場復帰後のフォローアップ
最後のステップは、職場復帰後のフォローアップです。
職場復帰後は管理監督者が観察・支援を行い、事業場内産業保健スタッフなどがフォローアップを実施し、適宜「職場復帰支援プラン」の評価や見直しを行います。
主治医も含めた関係者が情報を共有し、家族からの相談対応も含め、必要に応じて話し合うなどの連携を図ることが大切です。
職場復帰支援プログラムの「作成手引き」と「ひな形」
上記5つのステップを把握したうえで、「職場復帰プログラム」を作成しましょう。作成手順を5つの段階に分けて解説します。
作成は人事労務部門のみで行うのではなく、メンタルヘルス推進担当者を中心に衛生委員会で審議し、職場や産業保健スタッフなどの意見も取り入れながら行いましょう。
【1】現状の把握・調査・分析
プログラムを一から構築していくのは大変なため、全てを新規に作り出すのではなく、眠っている資源を活用することも望まれます。
以下チェックリストをもとに、まずは「事業場の現状」を把握しましょう。
引用:独立行政法人 労働者健康安全機構「職場復帰支援プログラムの作成支援方法例」より引用
上記チェックリストで不足している部分が、自社の課題となります。
【2】メンタルヘルス担当者の選任
次に担当者の選任を行います。職場復帰支援は、一部の担当者だけに任せていては成功しないでしょう。
労働者への配慮が偏る可能性もありますし、担当者に負担がかかり新たな心の健康問題発生に結びつく要因にもなりかねません。
複数の担当者を選任し、各担当者の役割を明確化して事業場全体でサポートすることが何より大切です。衛生委員会を開き、以下6つの担当者を選任しましょう。
引用:独立行政法人 労働者健康安全機構「職場復帰支援プログラムの作成支援方法例」
①経営者層・事業者・担当役員
職場復帰の最終判断・決定する立場の人です。経営トップが自ら担当する場合もありますし、担当役員が担う場合こともあります。
②産業医・専属/嘱託精神科医
労働者との面談、主治医との連携、職場復帰の判断、意見書の作成、復帰後の状態観察など、復帰準備に必要な助言および指導を行います。
基本は各企業の産業医が担いますが、従業員50人未満で産業医がいない事業所は、労動基準監督署の所管ごとにある「地域産業保健センター」の産業医に意見を求めることができるので活用しましょう(利用料は無料)。
③人事労務管理スタッフ
人事管理と労務管理を行うスタッフです。企業によって異なりますが、人事部や総務部が担当していることが多いでしょう。
④メンタルヘルス推進担当者
人事労務上の問題点を把握し、就労条件の対応、配置転換、異動の配慮など、メンタルヘルスケアの実務を担当する者です。事業場外の専門機関や、労働者との直接窓口になることもあります。
基本的には産業保健スタッフと連携しますが、産業保健スタッフがいない場合は自らコーディネートする必要があります。メンタルヘルス対策の知識が必要で、産業保健推進センターにおける研修に参加した人など、基礎的な知識を習得している者が担います。
⑤産業保健スタッフ
産業医の助言や指導を踏まえ、職場復帰支援を円滑に行えるよう労働者および管理監督者のサポートを行います。
常勤・非常勤問わず衛生管理者(衛生推進者)、産業看護職(保健師など)、心の健康づくり専門スタッフ(心理職など)から選任されます。
50人未満の小規模事業場で上記職務者がいない場合は、「地域産業保健センター」の利用が可能です。
⑥管理監督者
上司や現場責任者が該当し、労働者の業務を管理するとともに、直接的に支援する立場です。
早い段階での異常のキャッチができ、直接の相談を受けたり業務の負荷を調整できたりするなどキーパーソンです。
【3】策定ポイントの明確化
各担当者が選任できたら、①で把握した「事業場の現状」と「職場復帰支援の流れ5ステップ」とを照らし合わせ、必要な取り組みを明確化しましょう。
事業場でできること、できないことを判断することも大切です。
【4】標準モデル例(ひな形)の選択
自社に必要なポイントをもとに、「職場復帰支援プログラム」の作成を行います。
モデル例(ひな形)を参考にし、自社の実情に沿った独自のプログラムとしてまとめることが重要です。
引用:独立行政法人 労働者健康安全機構「職場復帰支援プログラムの作成支援方法例」
事業所の規模に合わせたモデル例(ひな形)もあります。より具体的なイメージがしやすくなっていますので、必要に応じて参考にしてください。
就業規則に付随する別則として作成する場合は、職場復帰支援の手引き」のモデル例(ひな形)をご参照ください。
就業規則として定めておくことは、事業場全体に周知徹底できるメリットがあります。
「職場復帰支援プログラム」は現状の就業規則に抵触しないように作成することが基本ですが、就業規則の改訂や、別則としての付随が必要な場合もあります。
その際は労働者の同意を得ることが必要となりますので、弁護士や社会保険労務士の援助を受けましょう。
【5】プログラムの試行
「職場復帰支援プログラム」が作成できたら、衛生委員会で報告し、労働者への周知を行いましょう。
不調者が新たに発生した場合はプログラムに当てはめて試行を行い、問題点の有無について衛生委員会で検証し、都度話し合いながら改善していくことが大切です。
職場復帰支援プログラム作成における5つの注意点
「職場復帰プログラム」の作成手順が確認できたら、作成における注意点も押さえておきましょう。
①プライバシーの保護
当然ですが、労働者の健康情報は個人情報の中でも特に機密性が高い情報で、とりわけメンタルヘルスに関する健康情報は慎重な取扱いが必要です。厳重な管理を徹底してください。
また職場の従業員へは所属長から休業の事実を伝えてもらい、診断名や詳しい病状は控えるなどの配慮も大切でしょう。
②主治医との連携の仕方
主治医との連携に当たっては、事前に当該休職者の同意を得ておきましょう。
そのうえで、職場復帰に関する制度や求められる業務の内容などを主治医に伝えておくと、その後の対応がスムーズに進みます。
主治医に情報提供を依頼する場合の費用負担については、あらかじめ主治医との間で取り決めておくことも必要です。
③段階的な出勤体制の整備
正式な職場復帰決定の前に、段階的な出勤体制を設けることも有効です。
例えばデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで勤務時間を過ごすなど「模擬出勤」をしてみたり、自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動だけを行う「通勤訓練」などを行っても良いでしょう。
本来の職場に戻る前に、「試験的な出勤期間」を設けることもおすすめです。
④職場復帰後における就業上の配慮
復帰後は労働負荷を軽減し、段階的に戻すなどの配慮が必要です。柔軟に対応できるよう、事前に以下のような体制整備に取り組んでおきましょう。
- 短時間勤務
- 軽作業や定型業務への従事
- 残業・深夜業務の禁止
- 出張制限 など
⑤事業場外資源の活用
職場復帰の支援が社内だけで限界を感じる場合には、事業場外の支援も活用しましょう。
- 地域産業保健センター
- 都道府県産業保健推進センター(現 産業保健総合支援センター)
- 中央労働災害防止協会
- 労災病院勤労者メンタルヘルスセンター
- 精神保健福祉センター
- 保健所 など
上記のように、活用できる施設は多々あります。
地域障害者職業センターが行う職場復帰支援(リワーク支援)事業や、医療機関によるリワーク支援(病状の回復と再休職の予防を目指した治療)などの外部プログラムを活用しても良いでしょう。
職場復帰支援プログラムで復帰した事例紹介
最後に、実際に職場復帰支援プログラムに沿って復帰した労働者の事例が「「職場復帰支援の手引き」」に掲載されていますので、確認しておきましょう。
試し出勤やリワーク支援を活用した事例などが紹介されています。メンタルヘルスを抱える労働者のタイプは様々です。
職場復帰支援プログラムは多様な事例を想定し、幅広く対応できるよう作成することをおすすめします。
職場復帰支援プログラムは必要不可欠!ひな形や事例を参考に取り組みを
心の健康問題により休業する労働者は、増加傾向にあります。少子高齢化に伴う深刻な人手不足の現代において、メンタルヘルス不調は見過ごせない病状であり、貴重な労働力の維持・活用を図るという企業経営の観点において大きな課題となっています。
とはいえ心の健康に問題を抱えた従業員はデリケートであり、難しい対応が求められます。
企業が迷わずスムーズに対応できるよう、またメンタルヘルス不調者が円滑に復職できるよう、「職場復帰支援プログラム」の作成は必要不可欠です。
ひな形や他社の事例を参考に、早めに取り組むことをおすすめします。企業の維持・発展のため、労働者資源を戦略的に守りましょう。
メンタルヘルスによる不調で休職者が出た場合の復帰支援については、以下の資料でわかりやすく解説しています。