復職とは? 復帰までの流れ・復職可否の判断基準・復職制度の要点などを解説
がんやうつ病などを理由に休職する労働者が増え、復職支援の重要度も上がっています。しかし復職に関する法令はなく、制度が整ってない会社も多いです。
本記事では人事労務担当者に向け、復職可否の判断基準や復帰までの流れ、制度化の要点などを解説します。
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復職とは? 復職制度は会社ごとに定める必要がある
病気や怪我などを理由に一定期間仕事を休んだ労働者が、仕事を再開することを「復職」といいます。実際のところ「復職制度」を設ける法令義務はないため、明確なルールがないまま復職者への対応にあたる人事労務担当者も少なくありません。
厚生労働省の「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職までの流れや可否基準、復職後のフォローアップなどを会社ごとにあらかじめ整備・ルール化し、就業規則や労働協約に定めるよう推奨しています。
▶メンタルヘルスによる不調で休職者が出た場合の復帰支援については、以下の資料で詳しく解説しています。
>>>資料ダウンロードはこちら(無料):メンタルヘルス不調者の職場復帰支援
労働者が一定期間休む理由は? 傷病休職した人の復職率は約52%
労働者が一定期間仕事を休む主な理由は、次のとおりです。
- 傷病休職(がんやうつ病など、業務外で被った負傷、疾病、障害による休み)
- 労働災害による負傷、疾病、障害を理由とした休業
- 産前休業/産後休業
- 育児休業
- 介護休業
なかでも注目すべきは、傷病休職(病気休職ともいう)です。2013年に公表された労働政策研究・研修機構の調査によると、過去3年間における病気休職制度利用者の復職率の平均値は51.9%で、2人に1人は復職しているという結果が出ました。
復職者本人、復職を支援する人事労務や職場関係者にとって、「復職制度」の構築は必要不可欠といえます。
補足:休職制度も会社でルール化して就業規則に定める必要あり
復職と同様、休職についても労基法に定めがないため、「休職制度」を会社が独自に整備・ルール化し、就業規則に明記すると良いでしょう。特にメンタルヘルス不調者に向けた制度構築は極めて重要です。
厚生労働省の実態調査からも、メンタルヘルス不調により連続1ヵ月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所の割合が年々増えていることが分かります。
人事労務担当者は、休職時の対応についても理解を深めておきましょう。詳しくは以下を参考にしてください。
職場復帰支援プログラムとは? 復帰支援の流れを掴もう
「職場復帰支援プログラム」とは、心の健康問題で休業している労働者が円滑に職場復帰するために、休業から復職までの流れを明確化した計画書です。まずは全体の流れを掴みましょう。
職場復帰支援の流れ<5ステップの概要>
画像出典元:厚生労働省「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
上記の流れを基準に各職場の実態に合わせて「職場復帰支援に関する体制」を整備・ルール化し、プログラムを作成します。
作成する際は、人事労務管理スタッフや現場責任者、産業医、産業保健スタッフなどの意見を取り入れましょう。
人事労務や産業医など各役割を明確にして復職をサポート
職場復帰支援は一部の担当者だけに任せるのではなく、事業場全体でサポートすることが大切です。衛生委員会で以下6つの担当者を選任し、職場復帰支援に取り組みましょう。
経営者層 事業者 担当役員 |
職場復帰の最終判断および決定 |
産業医 嘱託精神科医 |
管理監督者および人事労務管理スタッフへの助言および指導、労働者との面談、主治医との連携、意見書の作成など |
人事労務管理スタッフ |
労働条件の改善、配置転換や異動などの配慮 |
メンタルヘルス推進担当者 |
労働者のケア、管理監督者のサポート、人事労務管理スタッフや事業場外資源との連絡調整など |
産業保健スタッフ |
労働者のケア、管理監督者のサポートなど |
管理監督者 |
職場環境の改善、就業上の配慮、復職した労働者の状況の観察 |
復帰支援の流れや各担当者の役割など、職場復帰支援プログラムの詳細は以下の記事でご紹介しています。
>>>職場復帰支援プログラムについて知りたい方はこちらの記事をチェック
復職可否の決定権は事業者にある! 職場復帰の判断ポイント
「主治医の復職診断書」は専門家の意見として尊重すべきですが、復職可否を最終的に決めるのは事業者です。
業務内容や職場環境を熟知しているのは会社側ですので、職場復帰可能という主治医の診断書があったとしても、事業者が熟考した上で「復帰は時期尚早」と判定する場合もあります。
復帰可否を見極めるためにも、事業者や人事労務担当者は以下の4つの判断ポイントを押さえておきましょう。
1.復職可能の診断書は業務遂行能力の回復を示しているとは限らない
主治医の復職診断書は、以下の点に留意しなければなりません。
- 日常生活における病状の回復具合によって復職可否を判断している場合が多い
- 「早めに復職したい」という休職者の希望を考慮している場合がある
主治医との連携は、休職者が職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かを知るために大切です。
会社側と主治医が連絡を取り合う場合は、必ず休職者の同意を得ましょう。
職場の制度や業務内容などを主治医に説明する際、復職診断書のフォーマットを独自に用意しておくのも有効手段の一つです。ほかにも、復職診断書について理解を深めたい方は以下の記事をご一読ください。
2.復職面談では本人の症状や状況、生活習慣などを必ずチェック
下記画像を参考にしながら復職面談でヒアリングを行い、職場復帰の可否を判断してください。
画像出典元:厚生労働省「15分でわかる職場復帰支援」
復職可否についてはさまざまな視点から評価を行い、個々のケースに応じて総合的に判断することが大切です。復職前に行う労働者との面談では、本人の症状や状況、生活習慣などを必ずチェックしましょう。
労働者の生活習慣の把握には、下記のような「生活記録表」を使用すると便利です。
画像出展元:「メンタルヘルス不調による休職者に対する 科学的根拠に基づく新しい支援方策の開発」
3.セカンドオピニオンの導入も有効
主治医の復職可否判断に納得がいかない場合、セカンドオピニオンとして会社が指定する医師の診断を労働者に受けさせることが可能です。
ただし、セカンドオピニオンの受診については合理的な必要性がなければなりません。また、あらかじめ就業規則に明記しておく必要もあります。
4.試し出勤制度などの導入も効果的
正式な職場復帰決定の前に、「試し出勤制度」を導入するのも有効です。労働政策研究・研修機構の調査によると、病気休職制度がある企業の76.8%が「試し出勤制度」を取り入れていると答えています。
制度の導入例は以下のとおりです。
画像出典元:厚生労働省「15分でわかる職場復帰支援」
休職者の状況を実際に確認しながら復職可否の判断ができるため、会社側・休職者本人ともに職場復帰に対する不安のが軽減が期待できます。
制度を導入する際は、試し出勤中の就業規則(賃金支払いや労災の取り扱いなど)を十分に検討・ルール化しましょう。
復職させる際の留意点
休職者を職場復帰させる際、復帰後の仕事の与え方・配置について判断に迷うケースも少なくありません。
復職支援にあたる人事労務担当者が留意すべきポイントを解説します。
配置転換や業務内容などを十分に検討する
復職時には休職前の職場(部署)へ復帰させることが原則です。
一方で、治療や本人の状態に合わせて、負担の少ない職場に配置転換させた方が良い場合もあります。
下記画像は就業上の配慮における一例を示したものです。
画像出典元:厚生労働省「15分でわかる職場復帰支援」
復帰時に労働負荷を軽減した場合、段階的に元へ戻すことも重要です。復職者本人や職場関係者、主治医からの情報を総合的に判断しながら、配置転換や異動の必要性および業務量などを検討しましょう。
休職期間の制限・期間満了時の対応は就業規則に定めておく
業務外の傷病による長期欠勤が一定期間(3ヵ月〜6ヵ月)に及んだ際に、「傷病休職」の扱いとする会社が多いです。
休職期間の制限、期間満了時の対応についても、会社ごとに就業規則に定める必要があります。
- 病気休職制度の休職期間の上限は「6ヵ月~1年6ヵ月まで」とする会社が多い(※)
- 勤続年数や傷病の種類に応じて区分を設ける会社もある
- 会社が定めた期間中に傷病から治癒し就労可能となれば休職は終了し、復職となる
- 治癒せず期間満了になった場合は、自然(自動)退職または解雇となるのが一般的
(※)労働政策研究・研修機構(JILPT)「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」参考
このほか就業規則に定めるポイントについて、以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひご覧ください。
会社が抱える復職における不安やトラブルとは? 対策も合わせて解説
復職支援における主なトラブルは以下の2つです。
- 復職のタイミングを急ぎすぎて、復職後に再び休職してしまう
- 会社側の説明不足により休職者から「不当解雇」で訴えられる
これらの不安を解消するためにも、トラブル回避のポイントをみていきましょう。
復職トラブル対策①休職・復職に関わる社内規程を構築する
休職および復職の制度を規定しておくと、トラブル回避に繋がります。規定すべき内容は以下を参考にしてください。
画像出典元:産業医学振興財団「職場復帰支援マニュアル」
また、病気休職制度の利用者が同一の疾病で再び休職した際、過去の休職期間に通算するか否かもルール化しておくと良いでしょう。
労働政策研究・研修機構の調査結果では、「同一の疾病であればすべて通算する」が17.4%、「復帰後の出勤期間が一定期間内であれば通算する」が33.1%となりました。なお、一定期間を「3ヵ月以下」と定める企業が多いです。
復職トラブル対策②休職中の連絡対応をルール化する
休業中の労働者の状態を把握しておくことは、復職の適性を見極める上で重要な手がかりになります。
就業規則に休職中の報告を義務付ける条文を入れておくのがベストです。また休職者と連絡を取る際には以下の点に留意しましょう。
- 対応窓口担当は一人に固定する
- 休業者の状態に合わせ、連絡手段(電話やメール、LINEなど)を変える
- 1ヵ月に1回を目安に、徐々に連絡頻度を増やす
- 次回のおおよその連絡日を毎回伝え、休職者の負担を減らす
連絡が全く取れない場合の規定も設けておくと、トラブルが回避できます。詳しくは以下をご一読ください。
【重要】ストレスチェックおよび健康診断の結果を有効活用する
休職・復職に関する社内規程の整備は重要な業務ですが、根本的解決のためには休職者を減らすことにも注力しなければなりません。
「職場環境の把握と改善」に大きく役立つのが、ストレスチェックと健康診断です。単に実施するだけでなく、健診結果やストレスチェック結果を有効活用しましょう。
それぞれの結果を総合的に判断し、就労環境や労働者にかかる負荷量について定期的に見直し・フォローアップ対策を図ることが大事です。
復職可否基準・復帰までの流れは会社ごとにルール化しよう
休職や復職に関する法令はないため、会社ごとに制度を構築し、休職中のフォローアップから職場復帰までの流れ、復職の可否基準などを就業規則に定めましょう。
▶メンタルヘルスによる不調で休職者が出た場合の復帰支援については、以下の資料で詳しく解説しています。
>>>資料ダウンロード(無料)はこちら:メンタルヘルス不調者の職場復帰支援
就業規則の整備を進める一方で、労働者が休職しないようストレスチェックや健康診断の実施・結果を踏まえた就労環境の改善も重要です。
弊社の健康管理システム「mediment(メディメント)」には、ストレスチェックや健康診断の結果データを分析し、組織の健康課題を自動で抽出できるなど、健康支援の一助となる機能が備わっています。
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