労働安全衛生法とは?事業者の責務や改正ポイントをわかりやすく解説
労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康の確保や快適な職場環境の形成を目的として、事業者に義務付けられている法律です。
事業者が責務を果たせるよう、労働安全衛生法の概要や改正点はもちろん、事業者の義務や罰則などを解説します。
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労働安全衛生法(安衛法)とは?目的をチェック
労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成する目的で1972年に制定された法律です。
労働安全衛生法では、労働災害防止計画の策定や安全衛生管理体制の確立、労働災害防止のための責任体制の明確化などを手段・方法として定めています。
労働者も労災の防止のために必要な事項を守り、企業が実施する労災防止措置への協力に努めなければなりません。
また、企業は労災の防止対策だけではなく、快適な職場環境の提供と労働条件の改善を通じて、労働者の安全と健康を確保するのが重要です。
労働安全衛生法を遵守することで、生産性の向上やコスト削減、労働者のモチベーション向上、事故防止といった効果が期待できます。
>>>労災についてはこちらの記事をチェック!
労働安全衛生法が成立した背景
労働安全衛生法は、労働基準法から労働安全衛生に関する条文を分離して成立した背景があります。
過酷な労働環境が社会問題になった1960年〜70年頃の労災による死亡者数は、年間6,000人前後でした(2022年の死亡者数は774人)。
そこで、安全衛生に関する法の充実をはかるため、労働基準法の「安全及び衛生」の箇所と労働災害防止団体等に関する法律の「労働災害防止計画」及び「特別規制」を統合したものを母体として、労働安全衛生法が制定されました。
法律が制定された際には、新たに規制事項や国の援助措置等の規定が加えられました。
企業が取り組むべき労働安全衛生法や職場における安全衛生の取組みについては、以下の資料で解説しておりますので、ぜひお役立てください。
>>>資料ダウンロードはこちらから:労働安全衛生法を担当者目線で理解する
労働安全衛生法と労働安全衛生規則の違い
「労働安全衛生法」と「労働安全衛生規則」は名称がよく似ていて、ややこしいと感じた方も多いはず。それぞれの言葉の違いも理解しておくことで、労働安全衛生法の理解を深められます。
労働安全衛生法は「法」であり「国会」が決めるもの、労働安全衛生規則は「省例」であり「行政官庁」が定めるものです。
上記の図の通り、制定機関と法的効力に違いがあり、「法律」は「絶対的な遵守」といった強い拘束力を持ちます。
一方、「規則」は行政省庁が制定し、各大臣が署名し交付されるもので、ルールに則った行動指針とされています。
労働安全衛生法における事業者の責務・義務をわかりやすく解説
労働安全衛生法は理解するのにも時間がかかり、事業者の方からは「いったい何をやればいいの?」といった疑問の声も多く聞かれます。
ここでは、事業者の責務や義務に関して、ポイントを絞って解説します。
①管理者や責任者の選任
労働安全衛生法第3章 安全衛生管理体制にある通り、事業者は安全衛生管理や推進の中心となる人を選定しなければなりません。
事業規模や業種に応じて「安全管理者」「衛生管理者」「安全衛生推進者」「産業医」を配置します。
②安全衛生委員会の設置
労働安全衛生法第3章 安全衛生管理体制では、常時使用する労働者を50人以上有する事業場に「安全衛生委員会」を設置することが義務付けられています。
安全衛生委員会は、衛生委員会と安全委員会を統合したものであり、設置目的は労働者の健康被害を防止するための対策を講じることとされています。
安全衛生委員会については、以下の記事をご覧ください。
③労働災害(危険・有害物・健康被害)の防止措置
労働安全衛生法第4章では、事業者は設備や作業などにより労働者が危険に晒されたり、怪我や病気をしたりすることがないよう、事前に防止措置を講じるよう定められています。
労働災害とは、具体的に爆発性や発火性のあるものによる危険やガス・粉じん・放射線等による健康障害などを指します。
事業者にとって、労働者の健康・安全を図るために必要な防止措置といえるでしょう。
④安全衛生教育の実施
労働安全衛生法第6章では、業種・職種・雇用形態にかかわらず、事業者は労働者を新たに雇い、その作業内容を変更したときに遅滞なく、安全衛生教育を実施することが義務付けられています。
総括安全衛生管理者や衛生管理者、安全管理者、業務に精通した労働者などが主体となり、安全衛生教育を実施し、労働者それぞれがいかなる危険に対しても、意識して安全な行動を取り、労働災害を防止することが目的です。
⑤リスクアセスメントの実施
平成18年の法改正により、労働安全衛生法第28条に「危険又は有害性の調査及び調査の結果に基づく講ずべき措置」が事業者の努力義務として導入されました。
事業者が業務における危険性や有害性を調査し、労働者の危険や健康障害を防止するための措置に努めることで、労働災害につながる危険性や有害性のあるリスクの抽出、危機に対する感受性向上といったリスクアセスメントの実施が期待されます。
リストアセスメントの詳細については、以下の記事で解説しています。
⑥労働者の健康保持:健康診断・ストレスチェックの実施
労働安全衛生法第66条では、労働者の安全と健康確保に向けた対策として、事業者に健康診断・ストレスチェックの実施を義務付けています(ストレスチェックは労働者50人未満の事業場においては努力義務)。
事業者には、労働者の心理的な負担の程度を把握し、新たな病気発症の予防に努めることが求められます。
⑦快適な職場環境整備
労働安全衛生法第7章では、快適な職場環境の整備が努力義務として明記されています。
職場環境の現状把握、労働者の意見や希望の聴取など、労働者の健康保持増進のための措置として、労働者が不快と感じないような作業環境の維持管理が求められています。
職場環境を整備することで、健康障害の防止や労働災害防止につながり、労働者の士気向上も期待できます。
人事労務担当者が把握しておくべき「健康診断」の実施義務(安衛法第66条)
労働安全衛生法のうち、人事労務担当者が知っておくべき健康診断の実施義務について、みていきましょう。
労働安全衛生法第66条において、事業者は労働者に対し医師による健康診断を実施させる義務があります。
一般健康診断
一般健康診断は、「雇入時の健康診断」「定期健康診断」「特定業務従事者の健康診断」「海外派遣労働者の健康診断」「給食従業員の検便」の5つに分けられます。
引用:厚生労働省|労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~
なお、「有機溶剤」や「特定化学物質」など、有害物質を扱う業務にかかわる労働者に対しては、特殊健康診断の実施義務が必要とされています。
特殊健康診断
労働安全衛生法66条、労働安全衛生規則第45条において、特殊健康診断は、一定の有害な業務(高気圧業務や放射線業務、特定化学物質業務、石綿業務、鉛業務、四アルキル鉛業務、有機溶剤業務)に従事する労働者に対して、特別の項目を含めた健康診断を実施しなければなりません。
特殊健康診断の結果によっては、労働者の就業場所変更や労働時間の短縮、作業内容変更などの措置が必要です。
また、常時、粉じん作業に従事する労働者に対しては、じん肺法に基づくじん肺健康診断を定期的に実施する必要があります。
特殊健康診断については、以下の記事で詳しく解説しています。
ストレスチェック実施義務:常時50人以上使用事業者が対象
2015年より、労働者のメンタル不調を未然に防ぐことを目的に、常時使用する労働者が50人以上の事業場に対してストレスチェックの実施が義務付けられました。
常時使用する労働者には正社員だけでなく、アルバイトやパート、派遣労働者などの非正規労働者も含まれます。
ストレスチェック実施義務の判断は「事業場」単位で行います。
支社を持つ会社は本社と各支社のそれぞれの事業場ごとに、常時使用する労働者50人以上かどうかの基準に従い、ストレスチェックの実施義務があるかを判断します。
ストレスチェックの頻度と対象者
ストレスチェックの頻度について、50人以上の労働者がいる事業場には年に1回の実施が義務付けられています。一般的なストレスチェック対象者の定義は以下の通りです。
- 期間の定めのない労働契約により使用される者(契約期間が1年以上の者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること
- 週労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する、労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること
労働期間の定めのない正社員に加え、契約期間が1年以上あるいは1年以上働いており、所定労働時間が4分の3以上となる者であれば、契約社員やアルバイト、パートであってもストレスチェックの受検対象者になります。
50人未満の事業場は努力義務
労働者50人未満の事業場においては、ストレスチェックは実施義務ではなく「努力義務」として位置付けられています。
とはいえ、50人未満の事業場でもストレスチェックの実施
が推奨されており、実施事業場を対象とした助成金制度も充実しています。
ストレスチェックには多くのメリットがあるため、実施を前提とした検討に早期から取り組めるといいでしょう。
労働安全衛生法を遵守しない場合の罰則一覧
労働安全衛生法を遵守しない場合の罰則も定められており、該当する事業者には罰金や司法処分などの責任が課せられます。
罰則を受けるいくつかのケースを解説していきます。
7年以下の懲役となる可能性も
製造時等検査や性能検査、個別検定または型士気検定の業務に従事する登録製造時等検査機関、登録性能検査機関、登録個別検定機関または登録型式検定機関の役員または職員が、その職務に関して、賄賂を収受・要求し、または約束するといった不正行為をした場合、7年以下の懲役になる可能性があります(第115条の3)。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金となるケース
黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤、重度の健康障害をきたすものかつ政令で定めるものを製造・輸入・譲渡・提供し、または使用した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金を課せられます(第55条)。
1年以下の懲役または100万円以下の罰金となるケース
製造の許可を受けずに化学物質を製造した場合や、指定試験機関の役職員、労働安全・衛生コンサルタントが職務に関して知っている秘密を漏洩した場合などの場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が課せられます。
6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金となるケース
- 安全衛生教育実施に違反した場合
- 病気を患う労働者の就業禁止違反が認められた場合
- 健康診断等に関連する秘密の漏洩が発覚した場合
上記のケースを含め、労働安全衛生法第12章罰則に該当する場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金を課せられます。
50万円以下の罰金となるケース
50万円以下の罰金となるケースにはさまざまな事例が挙げられます。
- 安全管理者・衛生管理者・産業医を選任していない場合
- 衛生委員会を設置していない場合
- 雇い入れ時に安全衛生教育を実施していない場合
- 定期健康診断・特殊健康診断を実施しなかった場合
- 健康診断結果の未記録が発覚した場合
- 書類保存実施違反・書類未保存が認められた場合
- 個別・型式検定に合格していない機械等に虚偽の表示をした場合
上記のケースを含め、労働安全衛生法第12章罰則に該当する場合、50万以下の罰金を課せられます。
【実例】労働安全衛生法違反容疑で書類送検
実際に労働安全衛生法違反容疑で書類送検になった事例をご紹介します。
【事件の概要】
令和元年9月3日、長崎県佐世保市宇久町の倉庫解体現場で、従業員2名が鉄骨の解体作業に従事していました。
被疑者Aが雇用する作業員Bがフォークリフトに差し込まれたパレットに乗り、高さ3.9mの位置において、解体中の鉄骨材を吊る鶴ための玉掛用具を取り付ける玉掛作業を行っていました。
しかし、その際に鉄骨材が倒れ地上に墜落し、倒れた鉄骨に挟まれて死亡するといった災害が起こりました。
【違反と見なされた内容】
労働安全衛生法では、荷の運搬を行うフォークリフトについて、原則として「労働者の昇降等の主たる用途以外の用途に使用してはならない」と規定されています。そのため、機械による危険を防止するための必要な措置を講じていなかったという疑いがかけられ、書類送検の運びとなったのです。
※第20条第1号(事業者の講ずべき措置等)・労働安全衛生規則第151条の14(主たる用途以外の使用の制限)同法第119条第1号(罰則)
他にも、当時、長崎県内では、建設業における死亡災害事件が多く発生しており、労働準行政として臨検監督をはじめ、労働災害防止団体および発注者との建設現場合同パトロール、集団指導等を通じて指導していました。
労働災害に対して事業者・労働者ともに危機意識を持ち、作業に取り組まなければ、命の危険を伴います。
それぞれ自分自身を守ることはもちろん、事業者は労働者の安全を守るために、労働安全衛生法の概要や違反内容を知っておくことが大切です。
労基署の臨検については、以下の記事で詳しく解説しています。
【2019年改正】労働安全衛生法の変更ポイント
労働安全衛生法は時代に合わせて度々改正がなされています。2019年にも、働き方改革に伴い大きな改正がありました。
改正点も含め、事業者は労働者の安全衛生を守るために、労働安全衛生法において繰り返し行われる改正内容を理解し、労働者へ周知する必要があるでしょう。
【2022年一部改正】2023年以降の改正項目
2023年以降の改正項目はいくつかありますが、今回は事業者が知っておくべき3つの改正項目をピックアップして解説します。
上記項目のほか、他の改正項目に関しては、厚生労働省「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」を参照してください。
化学物質を原因とする労働災害は年間450件程度報告されており、がん等の遅発性製疾病発症も多くあります。
事業者は労働者の健康経営・健康管理に向け、タイムリーに改正内容を正しく速やかに理解しておきましょう。
労働安全衛生法を遵守した安全で快適な職場づくりを
労働安全衛生法には数多くの規則が提示されており、その内容1つ1つを把握し、理解するには時間がかかります。
しかし、労働者の健康管理に努め安全を守る役目として、事業者は労働安全衛生法の概要のほか、健康経営に関連する健康診断やストレスチェック、罰則内容を理解しておくことが大切です。
労働安全衛生法に関連する基本的な知識をマスターし、健康的に生き生きと働ける環境づくりを目指しましょう。
企業が取り組むべき労働安全衛生法や職場における安全衛生の取組みについては、以下の資料で解説しておりますので、ぜひお役立てください。