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リスクアセスメントシートの書き方とは?実務で活用できる記載方法を解説

労働災害の発生件数を減らすための安全衛生対策は事業者にとって大切な課題であり、近年では国も対策に取り組んでいます。そこで重要なのが、事業者が適切にリスクアセスメントを実施することです。

本記事ではリスクアセスメントの概要やリスクアセスメントシートの具体的な記入方法を解説します。


目次[非表示]

  1. 1.リスクアセスメントとは
  2. 2.リスクアセスメントの導入から実施まで
  3. 3.リスクアセスメントシートの書き方
  4. 4.リスクアセスメントシートのひな形
  5. 5.業界別リスクアセスメントシートの記入例
  6. 6.リスクアセスメントを実施して安心して働ける職場へ


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リスクアセスメントとは

厚生労働省が開設している「職場のあんぜんサイト」によると、リスクアセスメントとは事業場にある危険性や有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、リスク低減措置の決定の一連の手順を指しています。

リスクアセスメントは労働災害を防止するための予防的手段であり、労働災害発生後におこなう事後対策とは異なる安全衛生管理の手法のことです。
また、リスクアセスメントは労働安全衛生法第28条の2によって製造業や建設業等の事業場の事業者へ努力義務が課せられています。

(事業者の行うべき調査等)
第二十八条の二 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。
2 厚生労働大臣は、前条第一項及び第三項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

引用:労働安全衛生法


リスクアセスメントを事業者が自主的に実施し、リスクアセスメントの結果に基づいて適切な労働災害防止対策を講じることが大切です。その結果、職場における労働者の安全と健康の確保に繋がります。


リスクアセスメントの効果

リスクアセスメントを実施することで、下記の効果が期待できます。
・職場のリスクが明確になる
・職場のリスクに対する認識を管理者を含め、職場全体で共有できる
・安全対策について、合理的な方法で優先順位を決めることができる
・残されたリスクについて「守るべき決め事」の理由が明確になる
・職場全員が参加することにより「危険」に対する感受性が高まる

また、これまでの再発防止では対処しきれなかった労働災害や健康障害を未然に防止する対策を考えられたり、リスク評価や管理ノウハウが継承されて災害発生率を低くしたりすることが期待されます。


リスクアセスメントの導入から実施まで

労働災害を予防するためには、危険性又は有害性をもれなく特定することが重要です。
まずは危険性又は有害性から健康障害を含む労働災害に至るプロセスを理解しましょう。


労働災害が発生する仕組み

労働災害は、危険性又は有害性と人(作業者)の両方の存在があって発生します。危険物や有害性が存在しているだけでは労働災害は発生しませんが、人(労働者)が関わることで発生します。

労働災害発生の仕組み

引用:厚生労働省「プレス事業場におけるリスクアセスメントのすすめ方」

労働災害が発生する仕組みを踏まえると、労働災害を発生させないために下記の対策が必要です。

  • 「危険性又は有害性」を除去または低減する
  • 「人」と「危険性又は有害性」との接触をなくす
  • 十分な安全衛生対策を講じる


労災についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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リスクアセスメントの導入手順

リスクアセスメントを現場で実施する前に、まずは管理体制を整備したり情報を集めることが必要です。


管理体制

リスクアセスメントの導入は経営トップの決意表明からスタートし、推進体制を整えることから始めましょう。

<推進体制の例>

  • 社長(工場長):決意表明
  • 部長/課長:安全管理者、衛生管理者または安全衛生推進者
  • 班長・職長:作業指揮者

経営トップのリーダーシップのもと各管理者から現場の作業員までが参加することで、事業場の安全衛生管理を組織的・継続的に実施していくことができます。


実施時期

実施体制が整ったら、作業現場でリスクアセスメントを実施していきます。リスクアセスメントを実施するタイミングは大きく3つあります。

  1. 初めて実施する時
    初めてリスクアセスメントを実施する際は、危ないと思われる作業や作業場所を導入の対象として選定しましょう。
  2. 労働安全衛生規則で定められた時期
    新しい設備や作業方法を取り入れたときや変更したときなど、発生するリスクに変化があったり、新たなリスクが発生したりする可能性がある場合に実施することが定められています。
  3. 計画的な実施
    既に設置されている設備や採用された作業方法で、調査が実施されていないものは、定期的に作業標準の見直しをおこないましょう。安全衛生水準の継続的な向上のために、繰り返し実施することも大切です。


情報の入手

「危険性または有害性の特定」をする際に大きなリスクを見逃さないように、担当者は多くの情報を入手することが大切です。

そのため、作業手順書や「ヒヤリハット」という労働災害には至らないものの、危険な事例などの情報を入手します。


▽リスクアセスメントの導入手順についての詳細はこちらから

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リスクアセスメントの実施手順

リスクアセスメントを実施する体制が整ったら、下記の手順でリスクアセスメントを実施していきます。

  1. 危険性・有害性の特定
    作業単位でどこにどのような危険性や有害性があるのか、特定します。
  2. 危険性・有害性ごとのリスクの見積もり
    特定された危険性や有害性によって発生するおそれのある災害に対して、「リスクの見積もり方法」に基づいて、リスクの大きさを見積もります。
  3. リスク低減のための優先度の設定とリスク低減措置内容の検討
    リスクの見積もり結果に基づき、リスクを低減するための優先順位を設定したうえで、リスクを低減するための措置を検討します。
  4. リスクの低減措置の実施と結果の記録
    リスク低減措置の実施とともにその結果を記録します。リスクアセスメントの実施結果が適切だったか、見直しや改善が必要かどうかなどを検討して、次年度以降の目標や計画策定に役立てると、職場環境をより安全に整えられます。


リスクアセスメントシートの書き方

リスクアセスメントの実施状況について、リスクアセスメントシートに記録していきましょう。
フォーマットやひな形の指定は特にありませんが「危険性または有害性等の調査に関する指針」によるとリスクアセスメントの記録には以下の項目を記載する必要があります。

  • 洗い出した作業
  • 特定した危険性又は有害性
  • 見積もったリスク
  • 設定したリスク低減措置の優先度
  • 実施したリスク低減措置の内容

厚生労働省で作成された「リスクアセスメント記録表」で上記を記録できるため、本記事では「リスクアセスメント記録表」の記載方法を解説していきます。

リスクアセスメント記録表


危険性・有害性の特定

まずは、作業単位で危険性または有害性を特定します。

【記入箇所】リスク特定


<記入箇所>

1.作業別
2.工具、機械設備名
3.危険性・有害性により発生のおそれのある災害


<注意点>
記入する際、作業名はわかりやすい単位で記載します。
また、発生する災害についてリスクの見積りを適切におこなうため、「危険性・有害性により発生のおそれのある災害」欄に記入する際は、労働災害に至る流れを想定して 「~なので、~して、~になる」 という形で書き出すようにしましょう。
ここでの危険性・有害性とは「ハザード」とも言われ、労働者に負傷や疾病をもたらす物や状況を指し、作業者が接近することで危険な状態が発生することが想定されるもののことをいいます。


危険性・有害性ごとのリスクの見積もり

続いてリスクを見積もります。

【記入箇所】リスク見積もり


<記入箇所>
5.リスクの見積もり

頻度、可能性、重篤度の各点数をつける際は下記の表を参考にしましょう。

リスク見積もり(頻度)

リスク見積もり(可能性)

リスク見積もり(重篤度)

引用:厚生労働省「リスクアセスメント導入・実施手順」

リスクアセスメント記録表に頻度、可能性、重篤度の各点数を記入すると合計得点が計算され、優先順位が表示されます。リスクの大きさや優先順位は下記の表を参考にすると良いでしょう。

リスク優先順位表

引用:厚生労働省「リスクアセスメント導入・実施手順」


<注意点>
法令で定められた事項がある場合には、法令で定められた事項を必ず実施することを前提とした上で、可能な限り優先順位の高いものを実施するようにしましょう。


リスク低減のための優先度の設定とリスク低減措置内容の検討

リスクの見積もりができたら、以下の欄に記入してリスク低減措置の検討をおこないます。

【記入箇所】リスク低減措置


<記入箇所>
6.リスク低減措置案
7.措置実施後の想定リスクの見積もり
8. 備考(残留リスクへの対応について)


<注意点>
リスク低減措置案を検討するときは、基本的に下記の安全衛生対策の優先順位で、具体的な措置案を複数検討するようにしましょう。

  1. 危険な作業の廃止・変更:危険な作業の廃止・変更、危険性や有害性の低い材料への代替、より安全な施行方法への変更など
  2. 工学的対策:ガード、インターロック、局所排気装置等の設置など
  3. 管理的対策:マニュアルの整備、立ち入り禁止措置、ばく露管理、教育訓練など
  4. 個人用保護具の使用:1〜3の措置を十分に講じることができず、除去・低減しきれなかったリスクに対して実施する

また、リスク低減措置を実施しても現状ではリスクを低減できず、やむを得ずリスクが残留してしまうことも考えられます。その場合は、無理にリスクを下げず、そのままリスクアセスメントの実施記録に記載し、必要な保護具の使用や安全な作業手順書の徹底を作業者に教育していくようにしましょう。


リスクアセスメントシートのひな形

本記事ではリスクアセスメント記録表の記入方法を解説しましたが、他にも厚生労働省から公開されているリスクアセスメントシートのひな形がありますのでご紹介します。


①リスクアセスメント実施一覧表

【ひな形】リスクアセスメント実一覧表

引用:厚生労働省「リスクアセスメント 実施一覧表の作成 (安全・労働衛生)」


作業や職種ごとに、より詳細にリスクを見積れるひな形です。安全・労働衛生(化学物質・粉じん、騒音、暑熱)編でひな形が準備されているため、そちらを参考にリスクアセスメントをおこなうのもおすすめです。


②リスクアセスメント実施支援システム

【ひな形】リスクアセスメント実施支援システム

引用:厚生労働省「リスクアセスメントの実施支援システム:職場のあんぜんサイト」


厚生労働省から「職場のあんぜんサイト」というHPが公開されており、小規模事業場を対象に製造業、サービス業や運輸業などの作業・職種別にリスクアセスメントの実施を支援するシステムが利用できます。入力した内容はExcelに出力可能です。

以下からリスクアセスメントシート汎用版(Excel) のフォーマットが入手できます。

厚生労働省「職場のあんぜんサイト」リスクアセスメントシート汎用版


業界別リスクアセスメントシートの記入例

業種別のリスクアセスメントシート記入例を3つご紹介します。


【製造業】リスクアセスメントシート記入例

【記入例】製造業.

食料品製造業での事例ですが、リスク低減対策により頻度や可能性、重篤度が下がり、全体として優先度Ⅰになりました。


【建築業】リスクアセスメントシート記入例

【記入例】建築業

現在実施している安全対策に加えて、低減措置をとることでリスクを下げられます。


【物流業】リスクアセスメントシート記入例

【記入例】物流業

低減措置は一つだけではなく複数の案を検討したり実行したりすることで、よりリスクを下げられます。


リスクアセスメントを実施して安心して働ける職場へ

リスクアセスメントを導入することで、職場全体でリスクの対策を考えて、災害に至る危険性と有害性を事前にできるだけ取り除くことができます。

従業員の安全と健康を確保するためにリスクアセスメントを実施したらシートに記録を残すようにしましょう。


以下の資料では、安全衛生教育の種類や実施方法について図でわかりやすく解説しています。ぜひお役立てください。

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mediment(メディメント)は、従業員のあらゆる健康データを一元管理し、産業保健業務の効率化を支援するクラウドシステムです。 クラウドシステムならではの多彩な機能で、あらゆる業務のペーパーレス化を実現し、従業員のパフォーマンス向上に貢献します。

監修者情報

三浦 那美(メディフォン株式会社産業看護師/第一種衛生管理者)

看護師として大学病院の内科混合病院にて心疾患や糖尿病、膠原病などの患者対応業務に従事。その後、看護師問診や海外赴任向けの予防接種を行っているクリニックに転職。これら医療機関での経験を通じ、予防医療やグローバルな医療提供の重要性を感じ、メディフォンに入社。現在は、産業看護師として健康管理システム「mediment」のオペレーション業務やコンテンツ企画を担当。

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