ストレスチェック「高ストレス者」の判定基準や割合&放置しない正しい対処法
資料DL「企業内担当者向け ストレスチェック制度に対応するための8つのポイント」
2015年12月より、労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の従業員がいる事業所では1年に1回、ストレスチェックの実施が義務付けられています。
ストレスチェックの結果、「高ストレス」判定が出た従業員に対して、社内でどのような対処が必要なのか、正しい対処法を解説します。
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ストレスチェックの目的とは
ストレスチェック制度の重要な目的は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことです。ストレスチェックの結果から、一定のリスクがあると判断された「高ストレス」判定者に対し、面接指導や職場全体の環境改善等の適切な対処を取ることが求められます。
「高ストレス者」とは、自覚症状が強い人や自覚症状が一定以上あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い人のことと定義付けられています(厚生労働省:ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアルより)。
「高ストレス者」を含め、労働者に対する適切な健康管理の実施によって、従業員の活力向上や生産性の向上につながり、事業全体に良い影響が及びます。従業員の良好な健康状態の維持や働きやすい労働環境の構築は、会社の健康経営に大きく影響します。そのため、ストレスチェック制度の活用や「高ストレス者」への適切なアプローチは、非常に重要度の高い取り組みでしょう。
「高ストレス」の判定方法と2つの数値基準
ストレスチェック制度において、高ストレス者の判断基準は明確に定められていません。
基本的には、事業所ごとに実施者の意見や衛生委員会などの調査・審議により、「高ストレス者」の判定基準を決定します。
その判定基準を判断するのは、下記2つの方法のいずれかひとつ。
- 衛生委員会で産業医に判断してもらう方法
- 厚生労働省の数値基準に基づいて判断する方法
この記事では上記のうち、「厚労省の数値基準に基づく判断基準」について深掘りして解説します。厚生労働省が判断するために用いる数値基準には、「合計点数を使う方法」と「素点換算表を使う方法」の2つの方法があります。
それぞれ詳しくご紹介していきます。
判断基準①:合計点数を使う方法
ストレスチェックで用いられる職業性ストレスチェック簡易調査票は、「心身のストレス」、「仕事のストレス要因」、「周囲のサポート」の3つの分野に分けられます。
これらの質問の回答結果を点数化し、以下のいずれかが一定以上の点数になったものが「高ストレス」として判定されます。
- 「心身のストレス反応」の項目の評価点数が高い者
- 「心身のストレス反応」の評価点数の合計が一定以上であり、かつ「仕事のストレス要因」及び「周囲のサポート」の評価点数が著しく高い者
合計点数によって判断する方法は、計算方法が簡単で分かりやすいというメリットがあります。
(厚生労働省:数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法)
判断基準②:素点換算表を使う方法
素点換算表は、調査票内にある全57の質問項目について、「心身のストレス反応」、「仕事のストレス要因」、「周囲のサポート」の3つの分野だけでなく、疲労感や不安感、抑うつ感、心理的な仕事の負担など、より具体性の高い18の尺度に分類されています。
調査票の各質問項目への回答点数について、素点換算表より尺度ごとの5段階評価に換算し、評価点の合計点を基準に「高ストレス」を判断します。
素点換算表は尺度ごとの評価が考慮されているため、個人のストレスの状況をより詳しく把握することが可能です。
(厚生労働省:数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法)
「高ストレス者」の割合と事前準備
次に、ストレスチェックを実施した事業所全体における「高ストレス者」の割合と、ストレスチェックを実施する前に事業者が行うべき準備について解説します。
①「高ストレス者」の割合は全体の約10%が目安
厚生労働省が公表しているストレスチェック制度実施マニュアルにおける「高ストレス者」の判定基準では、おおよそ全体の10%程度が「高ストレス者」となるよう設計する、とされています。
ただし、この基準は事業所の業種や職種、状況によって変動します。10%程度という基準はあくまで目安であり、必ずしも一定ではありません。
なお、一度衛生委員会で決められた高ストレス者の判定基準は、ストレスチェックを行ったあとに変更することができません。
まずは一度ストレスチェックを実施し、事業場における従業員のストレス状況を確認します。その結果をもとに2回目以降の判断基準に活かすといいでしょう。
②ストレスチェック後の面接指導を受けやすい環境を整備する
ストレスチェック後の流れとして、高ストレス者には面接指導を実施することになっています。
なお、ストレスチェック制度の実施義務は事業所側に課せられるものであり、従業員にはストレスチェックや面接指導の受検義務はありません。だからこそ、事業所側がストレスチェックや高ストレス者への面接指導を受けやすい環境を作ることが重要です。
- 電話や直接顔を合わせなくていいオンライン受付
- 社外へ相談できる専用相談窓口の設置
- 日程調整や場所など周囲の人に知られないための配慮
このような対策が、従業員が感じる心のハードルを下げることにつながります。可能な範囲で、ストレスチェック実施前に環境を整えておくといいでしょう。
ストレスチェック後の「高ストレス者」への対応一覧
ストレスチェック後に「高ストレス者」に対してどのように対応すればいいのか、対応の仕方や全体の流れとともに、対応時に注意すべきポイントをまとめてご紹介します。
①本人の申し出により面接指導を実施
ストレスチェックで「高ストレス」と判断され、医師による面接指導を受けることを本人が申し出た場合、事業者は申し出から1ヶ月以内に面接指導を実施しなければなりません。
実施者は面接指導の申し出を行うよう対象者に勧奨を実施するとともに、事業者は面接指導を受けやすい環境を整える取組みが求められます。
②医師の意見をもとに就業環境を整備
面談後、事業者は速やかに面談を担当した医師から意見を聞き、高ストレス者に対する対処を検討します。
医師の意見を参考にし、高ストレス者への十分な配慮を示しながら、適切な就業上の措置を取りストレス軽減に努めます。
ストレスの原因はどこにあるのか、どうすれば解決できるかを考え、就業上の措置を行うことが何より重要です。
③面談結果を労働基準監督署へ報告
1年に1回、法令に定められている事項のストレスチェック実施状況を確認するために、実施結果を労働基準監督署へ報告しなければいけません。
報告を怠った場合、50万円以下の罰則金の支払いの義務が課せられます(労働安全衛生法第120条より)。
1年のうち複数回ストレスチェックを実施した場合は、そのうちの1回分を報告します。ストレスチェックを実施した後は、速やかに労働基準監督署へ報告しましょう。
④面談を受けてもらえない「高ストレス者」へのフォローも
面接指導は、本人が希望しなければ面談を強制することはできません。高ストレス者が面談を断る理由として、
- 事業者側に高ストレス者であることを知られたくない
- 自分が高ストレス者だということを伝えるのに勇気がいる
などの理由が挙げられます。では、対象となる「高ストレス者」が面接指導を受けやすい環境にするためにどのような配慮ができるか、具体的な事例をご紹介します。
・個人情報の取り扱いに注意する
面接指導では心身の状況やストレスの問題など、とてもデリケートな内容を話します。面接指導の具体的な内容や記録が外部や担当以外の従業員に漏れないよう、情報管理を徹底しましょう。
書類やデータなど、個人情報が載っているものは厳重に保管するようにします。
・本人に不利益がないことを伝える
面接指導の結果を理由に解雇や雇い止め、退職を勧めるなど、従業員を不当に扱うような対応を行うことがない、という事実を従業員へ周知しましょう。
また、一方的に事業者側が措置を講じるような対応もNG。面談を受けた人に意見を聞き、了解を得た上で措置を講じることを伝えましょう。
・面談の費用は事業所が負担する
面接指導にかかる費用は事業者が負担し、面談を受ける人の費用負担はないと伝えましょう。
・面談の手続きを簡素にする
面接指導を申し出る意思があっても、手続きや申し込み方法がわかりにくい場合は、面談を受けることを諦めてしまう可能性があります。
そうならないために、面談の手続きを簡素にすることも大切です。
いずれの対策も含め、面接指導を受けることによって得られるメリットを伝え、従業員が安心感を持てるようにフォローしましょう。
また、本人に面接指導を受ける意向がないからといって、決して高ストレス者を放置しないことも重要です。高ストレス者の放置は、様々なリスクにつながることもあり得るからです。
「高ストレス者」を放置するとどうなる?
面接指導を受ける意向がない高ストレス者を放置しておくと、どのようなリスクにつながる可能性があるのでしょうか。
①メンタルヘルス不調による休職・退職の原因に
高ストレス者を放置し続けた場合、メンタルヘルス不調につながり、うつ病などを発症するリスクが高くなります。メンタルヘルス不調は意欲、仕事へのモチベーションの低下に直結します。
また、注意力や判断力の低下によって仕事でのミスが増え、トラブルになる可能性もあります。
最悪の場合、仕事の継続が困難になり、休職や退職につながってしまいます。
②民事訴訟につながるリスクも
企業には労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務、つまり「安全配慮義務」があります。
高ストレス者判定の従業員を放置した結果、トラブルの発生や健康状態の悪化等を引き起こした場合、「メンタルヘルス疾患になることが予想できたのに何もしなかった」として安全配慮義務違反と判断されかねません。訴訟につながってしまう可能性もあります。
そうならないためにも、産業医と協力しメンタルヘルス問題や高ストレス者対応に真摯に取り組むことが重要です。
高ストレス者が面接指導を受けない場合は、外部の心療内科やカウンセリングを受診するよう勧めるのも有効です。
従業員自身が自分のストレス状態を把握し、会社が職場の改善につなげることが大切です。
「高ストレス者」への適切な対応が健康経営のカギ
ストレスチェックによる「高ストレス者」に対し、面接指導や適切な環境整備、アフターフォロー等を実施することによって、メンタルヘルス不調を未然に防止できます。
従業員の活力向上や、事業者側の生産性を向上させるためにも、健康経営を見据えた従業員の健康管理に取り組んでいきましょう。