休職・休業の違いは? 用語定義・給与や社会保険の支払い義務・手当や補償について解説
従業員を長期間休ませる際、「休職か休業か」で扱いに迷う人事労務担当者も多いはず。
本記事では、休職と休業の違いを法的な定め、給与と社会保険の支払い、手当・補償の観点から解説します。「休日・休暇・欠勤」との違いも合わせて参考にしてください。
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休職とは? 休業とは? 言葉の意味(定義)を解説
「休職」と「休業」は似て非なる用語であるため、まずは言葉の定義の面からそれぞれの違いを明確に捉えましょう。
休職 |
労働者の個人的事情により就労できない場合に、会社がその労働者に対して労働契約を継続したまま一定期間就労義務を免除すること |
休業 |
労働者が会社との労働契約を継続したまま休暇を取得すること |
「休職」と「休業」の違いをより具体的に理解するために、それぞれの種類を詳しくみていきます。
休職の種類
休職の種類は大きく分けると次の8つです。
- 傷病休職(病気休職):業務外で被った負傷、疾病、障害などによる休み(うつ病などの精神障害も含む)
- 自己都合休職:働ける状態でとる自己都合による休み(ボランティア参加など)
- 留学休職:留学中に適用される休み
- 出向休職:従業員が他社への出向期間中に適用される休み
- 組合専従休職:従業員が労働組合の役員に専従する際に適用される休み
- 公職就任休職:公職(国会議員、地方議員など)に就いた際に適用される休み
- 事故欠勤休職(事故休職):業務外の事故による休み
- 起訴休職:刑事事件で起訴された従業員に対して適用される休み
休業の種類
休業には「自己都合」と「会社都合」の2種類があります。それぞれの具体例をみていきましょう。
<自己都合の休業>
- 労働災害による負傷、疾病、障害を理由とした休業(労基法第8章/労働者災害補償保険法)
- 産前休業/産後休業(労基法第65条)
- 育児休業/介護休業(育児・介護休業法)
<会社都合の休業>
- 原材料の高騰、資材の不足、不況による業績不振など会社都合による休業
- 天候や震災など自然災害によって会社が操業できない状況での休業
- 機械のメンテナンスによる操業中止
- 行政勧告による操業停止
全1日休みだけではなく、1日の所定労働時間の一部を休んだ場合も休業に含まれます。
休職と休業の違い①法律による定めの有無
休職の定義や休職期間の制限などについては、労基法に定めはありません。そのため、休職制度自体がない会社もあります。
できれば会社が独自に休職制度を策定し、就業規則や労働協約などに明文化しておきましょう(※)。
休業については各法律(労基法、健康保険法、雇用保険法など)によって定められているため、要件を満たした労働者からの申し出を会社側が拒むことはできません。
(※)休職制度を設けた場合は、労働契約を結ぶときに労働者に明示する義務がある(労基法第15条第1項、労基法施行規則第5条第1項第11号)。
休職・休業の違い②給与の支払いについて
休職および休業期間中の給与支払いについて解説します。
休職の場合:法令義務はないため支払う必要なし
休職期間中における賃金については、就業規則や労働協約の定めに従うことが基本です。
休職期間を無給とするか有給とするかについては、会社ごとに決めましょう。
ただし、労働者の自己都合によって就労できない状態であるため、労働者が休職期間中の賃金や勤続年数の算入などを会社側に要求することはできません。
会社都合による休業:平均賃金の6割以上を支払う義務あり
使用者の責に帰すべき事由(事業の不振や資材・設備の欠陥など)により、所定労働日に労働者を休業させる場合は、平均賃金の60%以上を休業手当として支払う義務があります(労基法第26条)。
ただし、使用者が最大の注意を尽くしても避けることのできない事由(地震や台風といった天災事変など)による休業は、労基法第26条の休業手当の要件には当てはまりません。
労働災害による休業:給与支払いなし&労災保険で補償給付
労働災害(労災)に認定される負傷、疾病、障害などで休業した労働者に対しては、「休業補償」の適用が義務づけられています(労基法第76条)。休業補償給付の押さえるべき要点は次のとおりです。
- 休業補償給付の支給条件のひとつに「賃金を受けないこと」があり、休業中は給料を支払わないのが一般的
- 休業初日より第4日目以降、1日につき給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)が支給される
- 業務災害の場合、休業初日から第3日目までの補償は事業主が行う(1日につき平均賃金の60%支払い)
休業補償給付を含め、労災と労災保険について詳しく知りたい方は以下の記事をご一読ください。
産前産後・育児・介護による休業:法令義務はないため支払う必要なし
産前産後の休業期間、育児・介護の休業期間を無給とするか有給とするかについては、各会社ごとに決め、就業規則などに定めてください。
会社ごとの就業規則や福利厚生で定められている場合に限り補償を行えば問題ありません。
仮に有給とするならば、「通常の賃金を支払う」「基本給の〇〇%を支払う」などのように、できるだけ具体的に定めることが推奨されています。
育児・介護休業法については、以下の記事で詳しく解説しています。
補足:休業期間中の出勤率算定について
産前産後・育児・介護・労働災害など法令に基づいた休業期間において、出勤率の算定に当たっては出勤したものとみなす旨も規定されています。
年次有給休暇の付与に当たり、不利に働くことがないよう取り扱いましょう。
休職・休業の違い③社会保険の支払いについて
休職および休業期間中における社会保険(健康保険・厚生年金)の支払いについて解説します。
休職の場合:会社も労働者も支払う必要あり
社会保険は、標準報酬月額(※)に保険料率をかけて算出した保険料です。
事業主と被保険者(労働者)とが半分ずつ負担して、年金事務所に毎月納付します(組合管掌の健康保険料は、健康保険組合が徴収します)。
標準報酬月額に応じた保険料であるため、休職中に給与が支払われていなくても事業所に在籍している以上は、労使ともに社会保険料を支払う必要があります。
ただし給与支払いのない休職期間中には給与控除ができないため、労働者負担の納付方法は休職に入る前に話し合うようにしましょう。
(※)標準報酬月額とは、被保険者が受け取る給与(基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅で区分した際の金額のこと
産前産後・育児・介護による休業:免除される場合もある
産前産後休業期間・育児休業期間においては、事業主が年金事務所または健康保険組合に申し出ることにより、社会保険料の支払いが被保険者・事業主ともに免除されます(健康保険法第159条・第159条の3、厚生年金保険法第81条の2・第81条の2の2)。
ただし、介護休業期間中においては免除措置がないため、被保険者・事業主ともに社会保険料を納付しなければなりません。
休職と休業の違い④受けられる手当・補償について
休職期間中および休業期間中に受けられる手当や補償について解説します。
傷病休職(病気休職)中に受けられる「傷病手当金」
傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している被保険者が支給対象となります。支給要件は次のとおりです。
- 業務外の病気やケガで療養中であること
- 療養のための労務不能であること
- 4日以上仕事を休んでいること
- 給与の支払いがないこと
仕事を休み始めた日から連続した3日間(待期期間)を除いて、4日目から支給されます。1日あたりの支給額は、「継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30」の3分の2に相当する額です。
また支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月となります。詳しくは、以下の参考サイトをご覧ください。
参考:
厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
全国健康保険協会「傷病手当金」「傷病手当金について」
休業期間中に受けられる手当は「休業補償給付」のほかにも種類がある
前述したとおり、労働災害による休業においては労災保険の「休業補償給付」が適用されます。
ここでは、産前産後休業、育児休業、介護休業における各種手当について解説します。
産前産後による休業は「出産手当金」が該当
産前産後による休業の場合、労働者本人が手続きを行うことによって健康保険組合から「出産手当金」を受け取れます。「出産手当金」については、以下のサイトを参考にしてください。
参考:全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」「出産に関する給付」
育児・介護による休業は「育児休業給付金」「介護休業給付金」が該当
育児・介護による休業においては、雇用保険からの給付金を申請することが可能です。
育児休業であれば「育児休業給付金」、介護休業であれば「介護休業給付金」を受け取れます。
原則として、申請手続きは事業主を経由して行う必要がありますが、被保険者本人が希望する場合は本人が申請手続きを行っても問題ありません。
詳しくは、以下のサイトを参考にしてください。
参考:
厚生労働省「Q&A~育児休業給付~」
補足:休職期間外なら年次有給休暇を病気欠勤に割りあてられる
年次有給休暇は取得しても賃金が減額されない有給休暇のことです。
休職期間中は会社から労働義務が免除されている代わりに、年次有給休暇の請求権はありません。
ただし、休職期間外であれば労働者が年次有給休暇を病気欠勤に割りあてることができます。
「休日」「休暇」「欠勤」との違いも知っておこう【言葉の定義】
労働者が労働しない日を「休職」「休業」「休日」「休暇」「欠勤」といった用語を使って表現します。
「休職・休業との違い」と同様に、休日・休暇・欠勤についても言葉の定義を明らかにした上で、就業規則や労働協約などを定める際に使い分けるようにしましょう。
休日とは?「法定休日」と「所定休日」とがある
休日とは、労働契約において労働義務がないとされている日のことです。
事業主は労働者に毎週少なくとも1回、あるいは4週間を通じて4日以上の休日を与える義務があり、これを「法定休日」といいます(労基法第35条)。
しかし多くの会社では、労基法の「1週間の労働時間を40時間以下にしなければならない」という規定を守るために、週2回(法定休日+ 1日)で休日を取るのが一般的です。
このように、法定休日とは別に会社独自で定めた休日を「所定休日」といいます。
ただし労基法では、「何曜日を休日とするか」や「国民の祝日を休日とするか」については規定されていません。
休暇とは?「法定休暇」と「法定外休暇(特別休暇)」がある
労働者に労働義務があるものの、事業主によって労働義務が免除された日のことを休暇といいます。
休暇には、法律で定められた「法定休暇」と、会社が独自に定める「法定外休暇(特別休暇)」の2種類があるため注意しましょう。
<法定休暇の例>
- 年次有給休暇(労基法 39条)
- 生理休暇(労基法68条)
- 子の看護休暇(育児・介護休業法第16条の2)
- 介護休暇(育児介護休業法第16条の5)
- 裁判員等のための休暇(労基法7条)
<法定外休暇(特別休暇)の例>
- 慶弔休暇
- リフレッシュ休暇
年次有給休暇は有給ですが、それ以外の休暇については無給か有給かを会社ごとに定める必要があります。
休職と有給休暇の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
欠勤とは? 労働義務は免除されないので注意
欠勤とは、労働義務がある日に自己都合で労働をしないことです。労働義務は免除されないため、労働しなかった日数および時間数については賃金を支払う必要はありません。また就労規則などの定めによっては、賃金の減額も可能です。
ただし労使双方が合意した場合に限り、欠勤日を事後申請で“年次有給休暇扱い”にすることもできます(本来、年次有給休暇は事前請求が原則)。
休職と休業の違いは給与や社会保険の支払い義務・手当内容など! 明確に使い分けよう
休職と休業の違いは、大きく分けると「法律で定められているか否か」「給与や社会保険の支払いが必要か否か」「受けられる手当(補償)の種類」の3つです。
特に、休職および休業期間中における給与や補償といった労働条件については、会社ごとに就業規則や労働協約に定めておく必要があります。
また「休職」「休業」のほかにも、労働者が労働しない日を「休日」「休暇」「欠勤」といった用語を使って表現しますが、
どれも似て非なる用語です。就業規則や労働協約などを定める際には、言葉の定義を理解した上で使い分けるようにしましょう。
休職対応の全容については、以下の資料で詳しく解説しています。従業員が休職した際に、人事労務担当者が対応すべきこともご紹介していますので、ぜひご活用ください。
>>>資料ダウンロード(無料)は こちら:休職対応マニュアル