職場におけるメンタルヘルスとは?ケアを行うべき理由と具体策を紹介
近年、働く人の約6割が仕事で強いストレスや不安を感じているといわれ、職場におけるメンタルヘルス対策は大きな課題となっています。
当記事では、職場における従業員のメンタルヘルスケアがどのように行われているのか、具体策もあわせて解説します。
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メンタルヘルスとは?
メンタルヘルスとは、こころの病気を指す言葉ではなく、「心の健康状態を表す言葉」です。身体的な健康に対比して用いられる用語で、精神的健康が保たれていることは、精神機能が健全に発揮されていることを指しています。
精神の健康とは、単に病気ではないだけでなく、成長したいという気持ちや、より良い生活をしたいという気持ちも含まれます。
そのため、職場における「メンタルヘルス」という言葉は、こころの健康のみならず、「働く人が心身ともに健康的に働ける職場づくりを目指そう」という意味も含まれています。
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職場におけるメンタルヘルスケアの必要性
近年、経済・産業構造が変化する中で、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が高くなっています。
そのため、業務による心理的負荷を原因として精神障害を発症し、あるいは自殺したとして労災認定が行われる事案が近年増加し、社会的にも関心を集めています。
実際、厚生労働省「精神障害に関する事案の労災補償状況」には、精神障害を発症した労災認定件数が増加している現状が示されています。
引用:厚生労働省 精神障害に関する事案の労災補償状況
職場におけるメンタルヘルス不調を抱える原因
職場におけるメンタルヘルス不調は、集中力低下や判断力のほか、QOLの低下にもつながり、従業員のみならず、企業に対しても大きな影響を与えかねません。
そこで、従業員が職場におけるメンタルヘルス不調を抱える原因をいくつかご紹介します。
原因1:過重労働によるメンタルヘルスの不調
過重労働は心身の健康に重大な影響を与えます。長時間労働に伴って睡眠時間を確保できないことは、特に問題です。
睡眠時間とメンタルヘルス不調には密接な関係があり、睡眠時間の減少はメンタルヘルス不調者の発生頻度を高めています。
過重労働は重大な社会的問題であり、実際に、労災請求や認定件数が増加している状況下から、労災認定基準の見直し等が行われています。
また、過重労働に伴う、睡眠時間の低下は食欲低下や意欲低下、生活リズムの不調など、負のスパイラルに繋がりやすいため、睡眠時間を確保するための過重労働対策をとる必要があります。
原因2:ハラスメントによるメンタルヘルスの不調
職場のパワーハラスメントについては、2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した割合が31.4%でした。
厚生労働省では、職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動を、いくつかの分類に分け、以下のように示しています。
引用:厚生労働省|パワーハラスメントに該当する例・しないと考えられる例
また、都道府県労働局における2020年6月の労働施策総合推進法施行後の「パワーハラスメント」の相談件数は1万8千件です。
「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も2020年度には約8万件であるなど、ハラスメント対策は早急に解決すべき課題となっています。
引用:厚生労働省|職場におけるメンタルヘルス対策の状況「いじめ・いやがらせの割合・相談件数」
職場の中でメンタルヘルス不調を抱えているサインとは
職場におけるメンタルヘルス不調を抱えているサインにはいくつかありますが、共通しているのは「従業員のいつもと違う」様子です。
- 以前のイメージと違う
- 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
- 報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
- 不自然な言動が目立つ
- 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
- 業務の結果がなかなか出てこない
- 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
- ミスや事故が目立つ
- 残業・休日出勤が不釣り合いに増える
- 遅刻・早退・欠勤が増える
- 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
従業員の様子がいつもと違うのは、背景に何かを抱えている可能性があります。心身の不調のみならず「いつもと違う」原因を探るため、上司は日頃から、従業員に関心を向けることが大切です。
また、上司は従業員の行動パターンや性格、人間関係について知っておくことで、速やかにメンタルヘルス不調に気づけます。
メンタルヘルスケアによる職場への影響
メンタルヘルスケアを行うことで、職場にどのような影響があるのか、詳しくご紹介します。
・会社の生産性や従業員の活力向上につながる
労働者がメンタルヘルス不調となり、十分に働けなくなる状況になると、職場にとっても大きな損失になりかねません。
心身の不調を抱えた状態では仕事へのモチベーションが低下し、業務の生産性も著しく低下するなど、新たなマイナスの影響が生じる可能性があります。
メンタルヘルスケアを行うことは、従業員のメンタル不調の予防になり、従業員の仕事に対するモチベーションアップ・活力向上、心身の安定、生産性の向上につながります。
早期にメンタルヘルスケアに力を入れると良いでしょう。
・事故やケガなどのリスク低下につながる
労働者のストレスや心身の健康状態は事故の発生に影響を及ぼします。
職業性ストレスと事故・怪我に関する文献的考察では労働負荷、仕事のコントロール、職場の支援、対人関係等のストレス原因と事故や怪我との関連が報告されています。
ストレスが重なることで、睡眠時間が減少し、業務における集中力や意欲の低下に繋がります。
メンタルヘルスケアを行うことで事故やケガなどを防げるでしょう。
・労災請求や損害賠償責任の防止につながる
近年、精神障害からくる労災申請の件数が増加し、認定件数も増加しています。メンタルヘルスケアは精神障害になる前に行うことが大切です。
職場でのストレスが高まれば、従業員が休職してしまう可能性も。会社内のみならず、外部の専門機関によるケアも行い、職場環境を作る取り組みを始めることをおすすめします。
そして、早期に気づき、専門家につなぐことが必要です。
職場でできるメンタルヘルスケア
メンタルヘルス不調に繋がる要因は人それぞれであり、及ぼす影響もさまざま。
メンタルヘルスケアには基本的に4つのケアがあり、継続的におこなうことが必要です。
- 働く人自らがストレスに気づいて対処する「セルフケア」
- 管理監督者が実施する「ラインのケア」
- 産業医や衛生管理者、人事労務担当者が実施する「事業場内産業保健スタッフによるケア」
- 事業場外の機関や専門会による「事業場外資源によるケア」
まずはセルフケアとラインによるケアを中心に、できることから取り組むのが大切です。
では、職場においてメンタルヘルスケアをどのようにおこなえるかを具体的に紹介します。
・メンタルヘルスケアの教育研修、情報提供を行う
事業者はすべての働く人(管理監督者も含む)に向けて、メンタルヘルスケアに関する情報を提供し、啓発を行います。
メンタルヘルスケアにおける情報提供は以下の通りです。
- メンタルヘルスケアに関する事業場の方針
- ストレスおよびメンタルヘルスケアに関する基礎知識
- セルフケアの重要性および心の健康問題に対する正しい態度
- ストレスへの気づき方
- ストレスの予防、軽減およびストレスへの対処の方法
- 自発的な相談の有用性
- 事業場内の相談先および事業場外資源に関する情報
引用:こころの健康情報局 すまいるナビゲーターうつ病|【職場復帰を目指す】職場におけるメンタルヘルスケアー事業者・上司の方へー
職場内のみならず、従業員に外部への教育研修に参加してもらう、管理担当者は教育研修に参加し、メンタルヘルスケアの教育担当者の育成に携わるなどの関わりも大切です。
メンタルヘルス不調は、誰にでも起こりうる身近な問題として認識し、企業全体でメンタルヘルスケアに対する意識づくりも一緒に行うと、予防効果がさらに高まるでしょう。
・職場環境等の改善の為にできるストレス対策計画を立てる
職場環境の改善に向け、ストレス対策計画を立てることが大切です。
以下7つのポイントに気を付けて、ストレス対策計画を立てましょう。
- 過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
- 労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
- 仕事の役割や責任が明確であること
- 仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であること
- 職場でよい人間関係が保たれていること
- 仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされていること
- 職場での意志決定への参加の機会があること
また、職場のメンバーが感じている働きにくさへの注目や、職場のレイアウトや物理的環境の改善から着手することが、仕事のストレス改善に効果的です。
・職場環境等の把握と改善のための5つのステップを行う
職場環境等の改善にはさまざまな進め方があります。
産業保健スタッフを中心に、人事・労務担当者、管理監督者(上司)、働く人が協力しながら、以下の5つのステップで職場環境の改善を図ることで、効果的なメンタルヘルスケアにつながります。
引用:厚生労働省|メンタルヘルス対策のための職場環境等の改善の流れ
第1ステップ:職場環境の評価
まず、職場におけるストレス原因の現状を知る必要があります。
管理監督者による職場環境などの日常的な観察や、産業保健スタッフによる職場巡視、労働者からのヒアリングなどです。
第三者の手を借りることで、より正しく、職場環境を評価でき、適正な対策を実施できるでしょう。
第2ステップ:職場環境のための組織づくり
職場環境等の改善を実施するためには、産業医や衛生管理者などの産業保健スタッフだけではなく、改善に携わる職場の責任者を巻き込み、理解と協力をしてもらうことが必要です。
職場環境等の評価を終え次第、上司へ結果を報告し、職場環境等の改善策を一緒に考え、協力を依頼します。
職場全体で積極的にメンタルヘルスケアに取り組めるよう、上司へ主体的に関わってもらえる動機づけをすることが大切です。上司向けに教育研修や勉強会の実施を検討してもいいでしょう。
職場環境等の効果的な推進のために、労働者からも自主的に参加者を募り、職場全体でメンタルヘルスケアを進めていくことをおすすめします。
第3ステップ:改善計画の立案
ストレスチェックの結果や集団ごとの分析結果、職場巡視の結果をもとに、職場の管理監督者や労働者の意見を聴き、ストレスの原因となっている問題をより具体的にリストアップします。
リストアップされた問題に対して管理担当者・労働者ともに議論やグループ討議を行い、改善計画を立てます。
ちなみに、メンタルヘルスケアにおける知識や情報がない管理担当者でも、改善計画の立案ができるよう、「職場環境改善のためのヒント集」や「メンタルヘルス改善意識調査票」、快適職場調査などのツールが用意されています。
第4ステップ:対策の実施
計画が立案できたら、対策を実施します。計画通り実施されているか、実施上問題は起きていないかといった進捗状況を確認してください。
対策を実施するとなると、管理担当者・労働者ともに負担になる場合や、対策の実施が滞る場合があります。
対策の実施後、対策の推進状況を継続的に観察・管理していくことが重要です。
第5ステップ:改善効果の評価と改善活動の継続
改善がなされたら、改善策の効果を確かめるため、評価をします。効果評価には、「プロセス評価」と「アウトカム評価」の2つがあります。
プロセス評価では、対策が計画通り、実施されたか、実施されていなければ何が原因か数値や事例など質的な情報から評価していきます。
アウトカムの評価では、改善しようと試みていた指標が改善されたかどうかに注目します。
例えば、対策の前後に、ストレス調査の結果や健康診断の健康情報を比較するなど。
効果評価というのは、期待する効果が得られるのには想像以上に時間がかかってしまいがちですが、長期的な目で対策の実施・評価の継続が重要です。
・メンタルヘルス不調者の「いつもと違う」に気づき対応する
メンタルヘルス問題を早期発見・早期対応するための第一歩は、部下の「いつもと違う」変化にいち早く気づくことが大切です。
部下の遅刻が増えたり見た目に変化があったりするなど「いつもと違う」と思ったら、まずは積極的に声をかけ、よく話を聞く(傾聴する)ことが肝心です。
その上で、産業医に相談するよう促すか、部下に許可を取り上司自身が産業医への相談を検討します。
また、産業保健スタッフや事業場外資源への相談や受診も勧めましょう。
・職場復帰における支援を行う
メンタルヘルスの問題で休業中の従業員が円滑に職場復帰するためには、休業から復職までの標準的な道筋や対応する手順、内容や関係者の役割などを示したルール「職場復帰支援プログラム」の策定や関連規定の整備が必要となります。
「職場復帰支援プログラム」は衛生委員会での審議や産業医の助言をもとに、個々の事業場の実態に合ったものを作成します。
もしプログラムの作り方がわからない場合は、「産業保健総合支援センター」に相談すると良いでしょう。全国に支援センターがあり、専門家の支援を受けられます。
復帰支援の流れや各担当者の役割など、職場復帰支援プログラムの詳細は以下の記事でご紹介していますのでぜひご覧ください。
職場でのメンタルヘルスケアは企業と従業員双方にプラスになる!
メンタルヘルス不調は誰しも起こりうることで、決して他人事ではありません。健全な組織運営と従業員のメンタルヘルスケアは切っても切り離せない問題でしょう。
管理担当者はメンタルヘルスケアとして、従業員のメンタルヘルスのみならず、職場環境に関心を向け、快適かつ生き生きと働ける環境作りが大切です。
また、職場におけるメンタルヘルスケアに不安を抱える管理担当者は1人で抱え込まず、上司や外部の力も積極的に借りて職場を巻き込み、メンタルヘルスケアの実践につなげてみてください。
職場でのメンタルヘルスケアは企業と従業員双方にとってメリットがありますので、自社でできそうなことから取り組んでいくと良いでしょう。
メンタルヘルス不調者の復職支援については、こちらのお役立ち資料で詳しく解説しています。