【人事労務管理向け】うつ病の可能性がある人の仕事中の特徴、対応方法
人事労務管理や産業保健に携わる担当者にとって、うつ病を含めたメンタルヘルスケアの重要性が増しています。
今回は、実際にうつ病の可能性がある労働者は仕事中にどのような言動がみられるのか、その特徴や企業の対応などについてご紹介します。
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うつ病の可能性がある人の仕事中の特徴
うつ病の可能性がある人がいる職場において、仕事にどのような影響があるのか、またうつ病かもしれない人の行動にはどのような特徴がみられるのかご紹介します。
一般的なうつ病の症状、特徴
一般的なうつ病は脳内の神経伝達物質が減ってしまうために起こる病気だとされています。特に神経伝達物質である「セロトニン」「ノルアドレナリン」は精神を安定させ、やる気を起こすことにつながるものといわれています。それらが減ることで気力が下がり、憂うつな状態が続きます。
ただしこれは決して怠けている、または甘えているからではなく、元の性格や気の持ちようだけでどうにかなるものでもありません。うつ病は日本人の15人に1人が一生のうちにかかるといわれている、身近な病気といえます。
その原因は家系、つらい出来事やストレス、ホルモンバランスや身体疾患や特定の薬の副作用などさまざまです。
うつ病の特徴として、よくある症状は以下が挙げられます。症状の現れ方、重症度もさまざまです。
- 悲しく憂うつな気分が1日中続き、ふとしたときに涙が出てくる
- これまで好きだったことに興味がわかなくなった、なにをしていても楽しくない
- 食欲が減る、または増える
- (女性の場合)月経が止まる
- 眠りが浅い、寝つきが悪い、または何時間も寝る、ずっと眠い
- イライラして怒りっぽくなる
- 特に何かしたわけでもないのに疲れやすく、やる気が起きない
- 絶望感や孤独感、自分に価値がないように思える
- 世界が色彩を失い、生きている感覚がなくなる
- 強い罪悪感や自己否定
- 物事に集中できなくなる
- 身の回りの衛生状態や子ども、ペットをおざなりにする
上記は一般的なうつ病の特徴ですが、いくつかの特徴的な病型による分類もあります。
「メランコリー型」は典型的なうつ病と呼ばれるタイプで、仕事の役割や人間関係などに過剰に適応しようとして脳のエネルギーがなくなってしまいます。
「非定型」はよい出来事に対しては気分が高揚します。また食欲が増進して体重が増える傾向があり、過眠や倦怠感、また周囲からの批判に過敏などの特徴があります。
「季節型」は反復性(※)の一種で特定の季節にうつ病を発症するもので、そのため季節の移り変わりに応じて軽快します。よく知られているのは冬に発症する「冬季うつ病」で、日照時間との関係が指摘されています。
※初発は単一性、再発は反復性という分類です。
「産後」のうつ病は産後4週間に発症するうつ病を指します。出産による体の疲労やホルモンの変化、育児における不安・睡眠不足などが急に発生し重なることが影響しているといわれています。
仕事中に起こりやすい特徴
特に仕事中に起こりやすいうつ病の特徴についてご紹介します。先ほどは主に自覚症状について解説しましたが、今回は周囲が気づきやすいポイントを中心にまとめました。
- 仕事の能力が低下、ミスが増える
仕事の難易度や仕事量が変わったわけではないのに集中力が続かない、完成度が下がる、小さなミスが目立つようになる。
- 表情が硬く暗い、元気がない
声かけに対して反応が悪い、受け答えがはっきりとしない、言葉数が減る。
- 周囲との交流を避けるようになる
始業時や就業時の挨拶がなくなる、仕事後の飲み会や休日の集まり・勉強会などへの参加が減る。
- 遅刻、早退、欠勤が増える
不眠による体調不良、倦怠感などによってこれまでできていた仕事ができない状態になる。
- 仕事に対して自分を責める、後ろ向きな発言が増える、謝るばかりになる
仕事上のミスや遅刻・早退・欠勤などが増えることで、自分の責任だと過度に思い込み、自分には価値がないと感じてしまう。
これら5つの特徴は、それぞれが影響し合って悪循環になっていくこともあります。
うつ病かもしれない労働者への対処
うつ病の症状がみられる、また実際にうつ病と診断された労働者への対処について、ポイントをまとめました。
症状が出ていたらまずは医療機関の受診を勧める
すでにうつ病の可能性が高い身体的・精神的症状を自覚している、または周囲の社員や上司が気づき人事労務担当者に相談してきた場合、まずは医療機関への受診を促すことが大切です。
場合によっては受診後に診断書を提出し休職の手続きなどをおこなうこともあります。しかし、突然本人に医療機関の受診を勧めるわけではありません。
たとえば、身体的・精神的症状の確認のために直属の上司が一度声をかけて、本人の意思を確認するところからです。
本人の自覚症状がある上で上司と相談する場合には問題ありませんが、本人の自覚症状がない場合には、声かけの仕方は注意しなければなりません。
また、うつ病の可能性がある従業員から実際に話を聞いた上司が直接医療機関への受診を勧める場合には、「心配なので、一度病院に受診したほうがいいかもしれないね」「まずはしっかり眠れるようにすることが大事なので、今ある症状が楽にするように睡眠の相談に病院に受診してみてはどうかな」という声かけの方法もあります。
ただ、本人が自覚症状がないために受診を拒否する場合には、プレッシャーにならない言葉を選んで本人に体調の変化に気づいてもらうようにしましょう。
「あなたの身体が心配であること」「大事な部下であること」「大したことではないと思うかもしれないけど、放って悪化するよりも早めに対処したほうがいい」といったことを伝えるのもときには必要です。
それでも受診に同意しない場合には、本人に同意を得たうえで家族または友人に協力を求め、受診を勧めることもあります。産業保健総合支援センターへの相談という方法もあります。
産業医や上司との面談調整をする
産業保健スタッフ(産業医や保健師)がいる場合には、本人が自覚症状を訴えた、または上司が気づいた時点で本人の同意のもと、産業保健スタッフへの相談や面談を勧める方法があります。
うつ病に特化しているわけではありませんが、会社では高ストレス者への対応をおこないます。
対応としては、本人の意向確認やセルフケアに関する情報提供、産業保健スタッフとの相談対応、産業医による面談などをして、必要があれば業務上の配慮の見直しをおこなう流れです。
前もって受診をした主治医の診断結果や診断書の提出により、上記のように産業保健スタッフとの相談以降の流れになることもあります。
業務調整を提案する
医療機関の受診後、または産業保健スタッフや産業医との面談後、休業後の復帰時の場合には主治医や産業医の意見を参考に業務量や業務内容を調整したり、休息を取れるように上司と相談したり対処します。
たとえば、残業は1ヶ月禁止で、勤務時間を短縮しての勤務のような対応もあります。
本人が不安に思っていることがあれば聞き、まずは負荷を減らします。自信をつけて不安を軽くすること、休職後の場合には復職トレーニングとして徐々に負荷を増やしていく流れになります。
定期的に本人の意思や体調の変化、業務に関する状況などを確認していきます。
また、部署においても元の部署のままか、部署を移動するかも含めて本人の意思を確認します。部署のなかでも業務調整をする場合には、上司や直接関わる社員などにも本人の同意を得て伝達して協力していくことも必要です。
休息をとる、規則正しい生活を提案する
必要なのは心身の休息とこころの健康であり、そのためには規則正しい生活、セルフケアが大事です。セルフケアのために公表されている資料にはさまざまなものがありますが、広く推奨されている取り組みの一例として以下があります。
産業保健スタッフの面談をおこなった場合は、担当スタッフの意見を参考に休息を取れるように対処します。
また、うつ病に限らず普段から休養・こころの健康のためには適度な運動やバランスのとれた栄養・食事生活などが重要な要素であるとされています。
さらに仕事や活動によって生じた心身の疲労に対して休むこと、養うこと、またはストレスへの対応、睡眠への対応などが大切です。そのためには、まずは時間を確保することが求められます。
特に長い休暇を積極的にとることが大事ですが、単に寝て過ごすだけでは休養=自分の心身を養うことにはなりません。
リラックスして自分を見つめ直す時間を作ったり、趣味やスポーツ活動を通して自分の心身を調整したり、明日に向かっての英気を養うことが真の休養になるのです。
うつ病かもしれない労働者に対してしてはいけないこと
うつ病かもしれない労働者に対して、どのような言動に注意したらいいのでしょうか。
うつ病かもしれないと考えると大きな責務を感じて肩に力が入ってしまうかもしれませんが、基本的なかかわり方として、特別なことを考える必要はありません。
- 過度な励まし
すでに頑張りすぎてこころの病になってしまった場合もあるので、「頑張って」「○○ならできる、期待しているよ」などと過度な励ましは控えましょう。
また、気分転換に励まそうとして飲み会やゴルフに誘うのも症状が出ているときにはプレッシャーになってしまいます。
本人はもうこれ以上頑張れない、周りの人に迷惑をかけている、気を使われているかもしれないとプレッシャーに感じてしまう場合もあり、応えられない自分を情けなく感じてしまうかもしれないからです。
- 気の持ちようと性格や気持ちの問題とする
うつ病の原因はさまざまですが、気持ちが弱いから、怠けているからというわけではありません。自分を情けないと思うことで、余計に症状を悪化させる原因になってしまいます。
こうしたうつ病だけではなく、精神疾患に偏見を持った言動には注意して、正しく病気を理解することからはじめましょう。
必要な職場のメンタルヘルス対策
うつ病は発症してからの対処だけではなく、予防や早期発見が大事です。職場でできるメンタルヘルス対策についてご紹介します。
4つの基本的なケア
メンタルヘルス対策には国の指針で記されている4つのケアがあります。
- セルフケア
- ラインによるケア
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
- 事業場外資源によるケア
セルフケアは、自分のストレス状態にまず気づくこと、そして適切に対処するための知識とその方法を身につけ、自分自身でケアできるようにすることです。自分の不調のサインに早い段階で気づいて悪化しないように心がけて対処することが基本となります。
ラインによるケアは職場の管理監督者が部下のこころの健康をケアすることを指し、管理監督者がメンタルヘルスに関する正しい知識や対処方法を身につけられるように研修をおこなうことなどが基本です。
部下と身近に接していることから、自身では不調に気づきにくい相手に対しても、もっとも気づきやすい立場にあるからです。
事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、社内の産業保健スタッフがそれぞれの立場で職場の支援をおこなうケアです。産業医をはじめ、衛生管理者や事業場内の保健師、人事・労務担当者などは、労働者が安心して相談できるように支援、職場環境の改善、指導などをおこないます。
事業場外資源によるケアは、社外の専門機関が事業者の求めに応じておこなうケアのことで、こころの健康相談やカウンセリング、診断や治療、復職指導、教育研修、情報提供など幅広くメンタルヘルス対策の支援をおこなっています。
社内のケアだけでなく、公的または民間の組織やサービスをうまく利用していくことも大切です。
>>>セルフケア、ラインケア、4つのケアに関する詳しい記事はこちら
仕事上におけるうつ病の早期発見と適切な対処、対策が大切
現代社会は経済的、技術的発展により便利で暮らしやすい生活が実現している一方で、管理社会、競争社会などの抱えきれないほどのストレスを抱えるストレス社会ともいわれています。
そのなかで発症してしまうこともあるうつ病は、企業においても早期発見と適切な対処、対策に取り組むことが大切です。
人事労務管理や産業保健に携わる担当者にとっても、うつ病を含めたメンタルヘルス対策の重要性を理解し、うつ病の予防と対策、適切な対処に努めましょう。
メンタルヘルス不調者の復職支援については、こちらのお役立ち資料で詳しく解説しています。